とある大学生の食生活改善記録カーヴェがアルハイゼンとルームシェアを始めて数日。彼は頭を悩ませていた。アルハイゼンの生活ぶりについてだ。
初日は掃除を済ませていた為か特に気にはならなかったが、数日経った今ではリビングに本の山が築かれている。アルハイゼンは1日に多い時には4冊程本を読む。それはいい。読んだ後が問題だった。積まれていくのだ、本が。片付けという行動がすぽーんと抜けてしまっているのだ。
次に食生活。食器等を買いに行ったついでにスーパーに寄ったのだが、アルハイゼンがかごに入れるのは肉、肉、肉。そしてちょっとの野菜とパン。なるほどだからこんなに筋肉が育ったのか……?と思ってしまったのは内緒だ。そしてアルハイゼンを観察していると焼くか水洗いして盛る程度の料理しかしない。ついでに食事中も片手には本。食事を楽しむ、というよりはエネルギーを得られればいいやレベルの食べ方。更には大学では10秒チャージか惣菜パンだという。それで良く筋肉が維持できるな。
──まだアルハイゼンの生活ぶりにツッコミを入れたいが一旦置いておくとして。
さて頭の中のカーヴェ達は議論する。
先に掃除だ、いいや洗濯だ、洗剤買いに行かないとだろう、スーパーに行って食材を買いに行くべきだ、調理器具も足りない、ひとりで持ちきれるのか……
「はぁ、一度ホームセンターに行ってそれからスーパーだな」
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「ナヒーダさん、有難く使わせていただきます!」
大きめの鍋、深めのフライパン、トングにケトル、それから……
キッチンにあったのは普通のフライパンと小さな鍋だけだったよな、と念の為スマホに撮った写真を確認しながら調理器具を買い足していく。一通り購入したあと一度帰宅し、今度はスーパーへ。
あ、新じゃがが安い、玉ねぎはまだまだ高めだけど色々使える、きのこ類は安定の値段、白菜が安いな買っておこう。魚は…うーん鮭もいいけど今日は鯖にしよう。肉、は冷蔵庫にあった。お、ひき肉が安いからキーマカレーを作って冷凍しておくか。じゃあカレールーもほしいな。あとは牛乳とヨーグルト、お米もほしいな……
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「っは〜、疲れた…」
エコバッグ1つじゃ入りきらない位食材を買い込み、それを手際良く冷蔵庫に入れていく。時刻はもうすぐ17:00。アルハイゼンはいつも18:30には帰宅する。暖かい出来たての料理を振る舞うには今から作り始めなければならない。
「休みたいけど…作り始めないと」
今日のメニューはキーマカレーにサラダ、白菜のスープ。キッチンに包丁が奏でるリズミカルな音が響く。アルハイゼンが喜んでくれれば嬉しいな、と願いを込めて。
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「ただいま」
アルハイゼンが帰宅すると空腹を誘ういい匂いが鼻腔を刺激した。
(スパイスの様なピリッとした匂い?)
「あ、アルハイゼンおかえり。夕飯できてるぞ」
「……カレーか」
「冷凍しやすいようにキーマカレーにしてみたんだ。付け合せにサラダと白菜のスープもあるぞ」
ふんすっ!という効果音でも付きそうな自慢げなカーヴェを横目にダイニングテーブルに並べられた暖かそうな食事をみる。
(そういえば、こういうまともな食事はいつぶりだろうか)
「さあ冷めないうちに食べるぞ!アルハイゼン、食べながら本読むの禁止な!」
「……わかった」
それぞれ席に付き手を合わせていただきますの挨拶をする。
カーヴェの作った食事は不思議と好みにカチリとはまってアルハイゼンは夢中で食べ進めた。
「あ、そうだ。明日も朝から講義だろう?お弁当つくってやるからな」
ニカッと笑うカーヴェに何故かまたドキッとしたアルハイゼンだった。
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