DAY「母さん、ちょっといい?」
リビングで洗濯物を畳んでいた手を止めて母さんに声を掛けた。日が落ちるのが随分早くなったなと思う。秋の終わりの気配を感じながらすぐ向かいのキッチンへと足を運ぶ。
母さんが居るキッチンからはコンソメの良い匂いが漂ってくる。気を抜いたら腹の虫が暴れ出しそうだ。今日の夕食はポトフだと言っていたから鍋で煮込んでいる最中なんだろう。僕の声に母さんがコンロの火を消そうとしたから、そのまま聞いてくれと制した。
「今年のクリスマス、一緒に過ごしたい人がいるんだ」
換気扇を回しているせいでボーボーと風の音が部屋中に響いている。それを加味して普段よりボリュームを上げて話をしたつもりだが、特に何の反応もない母さんを見るに聞こえなかったのかもしれない。もう一度繰り返すのは少し恥じらいがあるが大事なことだし言い直した方が良いだろうか。そんなことを考えていると母さんがパンッと両手を叩いた。ちょっとびっくりしてしまった。
11172