香る記憶すれ違いざまに記憶をかすめた香水の、あのブランドはなんといったか。
あなたもつけてよと笑う彼女は、それが叶わぬと少し残念そうにするけれど。
「すみません、肉山さんが今使っているその香水の名前を教えていただけますか?」
「あ、冠萱さんこの香り、気に入りました?」
同僚いわく、昔から定番の香りらしい。人間界では今この香水が再び注目されているようで、街中では同じものをつけている女性たちをたくさん見ることができるそうだ。
尋ねた理由を知りたそうな彼女には、お礼と笑顔で乗り切る。噂になるだろうな、と今更思ったところでもう遅い。記憶が言葉になって勝手に出てきてしまった。
彼女と出会うのはちょうどこの時期だったはずだ。うだるような暑さが薄れ、ゆったりとした静かな季節が近づいてくる、そんな日々の片隅で。
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