幸せに殺される ふぅ、と煙を吐き出す。さっきまで触れていた熱を頭を覚ますように上半身裸のままオレはベランダに出ていた。
「……王馬くん?」
扉の開く音がして振り向けば羽織ものを着て、そしてオレ用の羽織ものを持ったゴン太がそこにいた。
「ゴン太。起きたんだ、寝ててよかったのに」
「うん、ゴン太も起きるつもりはなかったんだけど…鈴虫さんの声が聞こえて目が覚めちゃって…そしたら王馬くんもいなくって…ベランダへの扉が少し開いてたから王馬くんいるのかなって思って…」
「ああ、この泣き声…鈴虫のだったんだ」
「うん、そうなんだ!」
ぱっとゴン太は笑うとそのままオレに羽織ものを肩にかけた後隣を陣取った。
「それで王馬くんはどうしたの?こんなところで…風邪引くよ?」
「大丈夫だって、オレはゴン太に心配されるほどヤワじゃないんだって!」
「…でも」
「ほんと、ゴン太ってば心配性だな~」
「心配するよ!だって、ゴン太は王馬くんのことが大好きだから!」
「!……ホント、お前って……」
思わず声が小さくなった。
本当に困ってしまう。ゴン太はこんな風に真っ直ぐこんなオレに想いをぶつけてくれるからだから、頭を冷やしたくなる。怖くなる。
……なんて。
「…………王馬くん?」
オレの様子がおかしいと思ったのかゴン太はオレの顔を覗いた。
「何、どうしたんだよゴン太~」
けらけらと笑ってみせるオレだったが今のゴン太はもうそんなことでは騙されてはくれなかった。
「…何か、隠してる?」
「別に隠してないって」
「だって…何か、変だよ……」
じ、とオレを見つめるゴン太にオレは思い切りため息を吐いた。
「…………ゴン太はさ」
「?」
「幸せすぎて怖くなることとかない?」
幸せすぎて怖い。
成長してもゴン太の瞳は、心は澄み渡ったままでそんなゴン太に真っ直ぐ愛情を向けられていると怖くなる。こんなオレがそんなものを受け取っていいのか、いつかバチが当たるんじゃないか、ゴン太を騙しているバチが――なんて。
そんなことを考えてしまうから煙草を吸って体内を穢して、物理的に身体を冷やして頭を冷やす。
「なーんて、嘘だよ!」
にしし、と笑って言うけれどゴン太は嬉しそうに笑ってオレの手を握った。
「ゴン太…?」
「ゴン太、嬉しいよ!だって、王馬くんはゴン太と一緒で幸せだって思ってくれてるってことなんだよね?」
「はぁ~?そんなわけないじゃん!オレは嘘吐きだから、だから嘘って言っただろ?」
「それも嘘かもしれないよね?だったらゴン太は信じたい方を信じるよ。王馬くんが言ったことが嘘でゴン太といることで幸せだって思ってくれてるって方を信じる」
「……はー、勝手にしろよ」
「うん!」
ぱっとゴン太はそう言って頷いて笑った。
「ねえ、王馬くん。そろそろ寒くない?中に戻ろうよ」
「何?ゴン太がオレのことあっためてくれるって?」
「い、言ってないよそんなこと!」
顔を真っ赤にして反論するゴン太に笑みがこぼれる。
「え~…ゴン太はオレが風邪引いて寝込んでもいいっていうの~?」
かわいこぶって言って見せると慌てだすゴン太。そんなゴン太の顔を引き寄せると煙草の苦味を分け与えるように深く、深く、口づけをする。
「お、王馬くん!」
唇を離すとそうやって顔を真っ赤にしてゴン太は怒ってしまう。オレは煙草の火を消して吸い殻に捨てると逃げるように中へと入っていく。
いつかこの幸せに殺されてしまいそうだと思うオレだったがそれもそれで悪くないと思えたのもきっと純粋すぎるこいつにオレが心底惚れてしまっているからなのだろう。
-Fin-