Winner 「王馬くん…イカサマしてるよね?」
「えっ、イカサマ!?俺ほど真剣勝負を愛している男はいないっていうのに!?最原ちゃんってばひどいな~~!」
わざとらしく声を上げる王馬くんを僕は軽く睨んでみるが王馬くんは肩を竦めるだけだった。
「まあ、仮にオレがイカサマしていたとしてさ…それがどんなものか最原ちゃんは分かってるの?」
「それ、は――」
「最原ちゃんは探偵なんだからさ。オレがイカサマしてるっていうならそれがどんなものなのか暴いてくれないと」
そう言いながらまた王馬くんは何度目にもなる勝利を僕から搔っ攫っていった。
「……はい、またオレの勝ち~。で、わかった?オレの勝利の秘密」
「………まだ」
「じゃあ、イカサマしてるって証明できないね~にしし」
やっぱり僕の何枚も上手な王馬くんにがっくりと肩を降ろした時だった。僕と王馬くんが勝負を繰り広げる教室に百田くんとゴン太くんが入ってきた。
「な~にやってんだ?終一、王馬。」
「…トランプ?」
すると二人――ゴン太くんが入ってきたのを見た王馬くんはさっさとカードを回収するとカードをシャッフルしだす。
「にしし、暇だったから最原ちゃんと遊んでたんだよね~。ゴン太とついでに百田ちゃんもやる?」
「ついでってなんだよ!」
「いや~ついででしょ、百田ちゃんは」
「何を~…!」
そう百田くんを煽る王馬くん。しかし反対にゴン太くんは不安そうに眉を下げた。
「…その、ゴン太、トランプやったことなくって…迷惑になっちゃうよ」
「大丈夫だって、ゴン太でも出来る簡単なやつだからさ」
「本当…?」
「本当本当!」
そう言って王馬くんの言うがまま僕、王馬くん、百田くん、ゴン太くんで【ババ抜き】をすることになったのだった――。
***
「やるなら罰ゲームがあったほうが燃えるよね~、負けた人はゴミをゴミステーションまで捨てに行くってことでどう?」
という王馬くんの言葉に満場一致で頷く。ただきっとこの勝負は僕か、もしくはゴン太くんが負けるんだろうな、と思っていたから。だから、すこし拍子抜けしてしまったのは事実だった。だって、最終的に負けてしまったのはまさかまさかの王馬くんだったのだから。
「あーあ、負けちゃった。運が回ってこなかったな~」
そう、王馬くんは笑ってゴミ袋に手を伸ばす。
「じゃ、約束通り行ってくるね~」
「ま、待って!ゴン太も一緒に行くよ!」
「…えぇ?ゴン太、一位の癖に付いてくるって言ってるの?」
「うん!…だめ、かな?」
「勝手にすれば~?ほら、さっさと来ないと置いていくぞ!」
「ま、待ってよ!」
さっさと歩いて行く王馬くんを追いかけるゴン太くん。その後ろ姿を見てはた、と気づくものがあった。
「…ああ、そういうことか。やられたな」
「ん?どうしたんだよ、終一」
「いや?まんまと僕らは王馬くんの掌の上で踊らされていたんだろうなあって」
「???」
いつから計算のうちだったのかは分からない。けれど、この勝負は王馬くんの勝利とある意味では言えるのだろう。
***
「ねえ、王馬くん!…どうしてわざとジョーカーを取ったの?それにわざと負けたのって…」
「…なんだ気づいてたのか。ゴン太のくせにさ~」
「気づくよ!」
「ん~…そうだなあ。確かに勝負には負けたけどオレが欲しかったものは手に入ったからいいんだよ。オレにとっての勝負はババ抜きで勝つことじゃなかったから」
「…どういうこと?」
肝心なところを理解しないゴン太に苦笑する。
――まあ、わざと負けたのはゴン太の言う通りで百田ちゃんは分からないけど最原ちゃんは気づいてしまっていると思う。オレの勝負はゴン太が教室に入ってきた時点で始まった。最原ちゃんとカードゲームをしていたのはただの暇つぶしに過ぎなかったけれど。そしてゴン太とついでに百田ちゃんに勝負をしかけた。ゴン太がジョーカーを持っていたのはすぐに分かった。ほんっとに考えてることがすぐ顔に出るっていうか…だから、可笑しくて、可愛くて、そしてジョーカーを取った時の驚いたような顔といったら滑稽だった。負けた理由なんて本当に単純。ゴン太を信じたから。きっとわざとオレが負けたって知ったゴン太は罰ゲームを受けるオレについてくるはずだって。オレが信じた通りにゴン太は着いてきて、オレはゴン太と無事【二人きりになること】ができた。何か特別話したいことがあったわけじゃない。ただ、ゴン太といる時間が欲しかっただけ。ゴン太を揶揄って、ころころ変わるゴン太の表情をオレだけが見ていたい。ただ、それだけの願いのための策だった。
「ま、ゴン太にはちょっと難しいかもね~!」
「うう…確かにゴン太はバカだけど…でもバカだから教えて欲しいよ!…ねえ、どうして?」
「そうだなあ…ゴン太がオレとのゲームに勝ったら教えてあげてもいいよ」
「えっ、本当?」
「さあ?嘘かもね」
そう言って笑うとゴン太の一歩先を駆け出し後ろからゴン太のオレを呼ぶ声がする。追いかけてくる足音がする。
――うん、やっぱりオレは勝負に負けてない。勝負に勝ったんだ。欲しいものがこの手にあるのだから。
-Fin-