クルトラの民は知っている きょろきょろと辺りを見回してばかりのティファリアがおかしくて思わずザフォラは笑みをこぼす。
「も、もう!笑わないでよ!」
「お前が落ち着きないのが悪いんだろ」
「だって、旅の最中に滞在したのと実際に住み始めるのとじゃ印象が全然違うし…こんなにまだ知らないハーブを使った料理のお店があるなんて知らなかったわ!それに…ザフォラとこんな風にデート出来るんだってことも思ってなかった」
そう言って嬉しさを隠せないティファリアはにこにこと笑う。
「…喜びすぎだろ」
「だってザフォラってば滅多に休みが取れないじゃない。デートらしいデートは付き合ってからこれがはじめてだし…だから、すごく嬉しいの」
外でそんな殺し文句を言うティファリアに深くザフォラはため息を吐く。
「お前…帰ったら覚えておけよ」
「ええっ!?」
そう言われてしまうわけがよくわからないティファリアは首を傾げてしまうがそうしている間にハーブティーとこの店の目玉であるハーブを混ぜ込んだハーブケーキが運ばれてくる。
「わ、美味しそう…!」
きらきらと瞳を輝かせるティファリアにまた自然とザフォラの頬が緩む。
「ザフォラが頼んだのも美味しそうね?」
「ここの店はどのハーブケーキも美味いからな。…一口食べるか?」
「いいの?」
「ああ…ほら、」
フォークでふわりとした生地に切り込みを入れ掬い上げるとそのままティファリアの口元へと運んでいく」
「え…?」
「ほら、早く口開けろ。食べさせにくいだろ」
「えっ…ええっ…!?」
顔を真っ赤にしてぱくぱくと口を開閉させるティファリアに思わずザフォラは笑ってしまう。
「な、なんで…えっ、どうして…!?」
「…お前は恋人らしいことに憧れてると思ったから。違ったか?」
「ち、違わない!それにザフォラがしてくれるなんて思ってなかったから…その、すごく嬉しい!」
「…そうか。なら、早く口を開けろ」
「う、うん…」
そっと口を開けるとザフォラによって運ばれたケーキがティファリアの口の中に味が広がっていく。
「このケーキは甘さ控えめなのね」
「ハーブケーキだからな。甘さ控えめなのもある、どうだ、美味いか?」
「うん、とっても!」
「なら、いい」
ふ、と笑うザフォラにまた顔を赤くしつつティファリアは同じようにフォークでケーキを切り、掬った。
「ザフォラもどうぞ?」
「………ああ、頂くか」
まさかザフォラがそんな風に言うことも、無防備に口を開けることもしてくれるなんて思わなかったティファリアは恐る恐ると言った様子でフォークを口元へと運ぶ。運ばれたケーキを味わったザフォラはまた薄く笑う。
「このケーキは甘いがハーブとの相性もよく考えられてるな、美味い」
「本当?」
その言葉を聞くと照れなど気にせず、間接キスになってしまうことなど考えずケーキを口へと運んだ。
「本当!美味しい…!」
「…ふ、くくっ……」
「え、何笑ってるの?ザフォラ…」
「いや?やっぱりお前は色気より食い気だなって思ってな」
「ええ?一体何が…」
「く……ふふっ…いい、お前はそのままでいいよ…ははっ…」
「ええっ…?」
分からないと言ったように首を傾げるティファリアとそんなティファリアの様子がツボに入っておかしくてたまらないといった様子のザフォラ。カフェの一席で新たな迷宮守の幸せでたまらないといった様子にクルトラの民らは頬を緩め、その一部始終を見つめていたーー。
-Fin-