浴衣を着て、 「流石しのさん、よく似合いますね」
「あ、ありがとうございます…」
悪虂さんにそう褒められてはどうにも気恥ずかしく思わず顔を俯かせた。
――今日はお祭り、私は瀬見さんたちと一緒に第六妖守として力の暴走をしないようにと巡回することになっていたのだけれど季節に合わせてか、祭りの内容に合わせてか妖守の皆も一緒に浴衣や甚兵衛を着ることになっていて、そして私は悪虂さんに選んでもらった浴衣を着ていた。
「…でも、浴衣なんて久々に着ました」
そう言いながら悪虂さんの横を並んで歩く。いつも私に歩幅を合わせてくれる悪虂さんは更に合わせてくれていてその優しさに思わず頬が緩んでしまいそうになる。
「今更なんですけど…玻閏さんたちはいいんですか?」
「いいんですよ。私がいなくても玻潤たちも問題おこさずに出来るでしょうし、私は既に隠居した身ですし」
「隠居って…」
「少し手伝いはしますけど、気持ちとしてはそうです。玻潤たちも独り立ちしてくれないと困りますからね」
そんなことを言う悪虂さんはどこか嬉しそうで、思わず頬が緩んだ。
「ふふ…」
「しのさん?」
「あ、いえ…悪虂さんもやっぱり玻潤さんたちのこと大好きなんだなあってそう思っただけです」
「………それは少し複雑ですね」
「え?」
ぴたりと足を止めた悪虂さんはくるりとこちらを向く。そして私の左手を手に取るとその手の甲に口づけを落とした。
「!?」
「――…唇にはしませんよ。まだ、業務中ですからね」
そう言っていらずらっぽく笑う悪虂さんだけれど私はぱくぱくと口を開閉するばかりでまともに言葉を紡ぐことができない。
「確かに気の置ける仲であることはそうですが…私がそういった特別な好意を向けるのはしのさん、あなただけですよ。…分かりましたか?」
どうやら玻潤さんたちのことが大好き、と言ったのが気に食わなかったらしく私は何も言えず顔を赤くして頷くしかできなかった。
「さあ、しのさん行きましょうか」
「悪虂さんっ、?!ちょっと…手…!」
「大丈夫ですよ、皆さんもう知っていることですから」
「で、ですけど……!」
そんな私の抵抗も虚しく繋がれる手。諦めた私はその手に自身の指を絡ませ歩く。瀬見さん達に揶揄われたことは言うまでもないことだろう――。
-了-