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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    ニノカゲが盤をはさむ

    何割かは本当にあった話。

    #ニノカゲ

    なあ、おまえ、指せるか、と二宮の部屋へと来た影浦が、着替えやさしいれを詰め込んだジムバッグから取り出したのは、二つ折りの簡素な将棋盤だった。
    「駒の動かし方くらいなら知ってるが、ちゃんと指したいなら水上にでも頼めばいいんじゃないか。確かプロを目指してたとか聞くが」
    「わざわざ呼び出したり、押しかけたりしてまで指したいわけじゃねーし。イヤか?」
    「いや。たまにはこういう一対一も悪くない」
     と二宮は盤面にざらりと空けられた駒の群れから、王将と玉将をまずより分け、王将を影浦側へと押しやった。しかし影浦はおまえのほうがランクは上だろう、とよく分からない理屈を持ち出して、王将を二宮に託して、自分は格下の玉を引き寄せた。
     それとこれとは関係ないだろうに、とは思うが、そこまでこだわることでもかなろう、と二宮はいかにもなプラスチックの王の駒を5九へと招いた。
     意外なことに影浦の手は大きく定石から外れるものではなく、基本に忠実な、丁寧なものだった。
     影浦が指した3五歩を二宮はあえて相手にせず、3七銀とやや攻め気で応じたあたりで、彼はぼそりと話し始めた。
    「前のとこに店があった時にいつも来てたおっちゃんがいてさ。そのおっちゃんに俺の将棋は仕込んでもらったんだ。けどおととしくらいにこっちに移転して、そんなんでもねえけど少しは距離ができたから、それで来れなくなったのかなって思ってたんだけど、半年くらい前にさ、連絡が来たわけ。老人ホームから、亡くなったって。身寄りがなくて、生活保護で施設入ってたんだとよ」
    「……」
    「そんで少しだけ残った金を、俺にくれたいって遺言があったとかって言うんだけどよ。いらねえよ、はいくださいなんて言えるわけねえじゃねーか、おっちゃんが支給されたお金を節約して、大事に貯めた金なんか」
    「いくらくらいだったんだ?」
    「五十万円くらいかな。戦功取ればそれくらい俺だって稼げる。はした金だ」
     ぎらり、と金色の目が鋭く光るのは、ボーダーの上位攻撃手のプライドがゆえか。
     だがそんな言葉しか選べない、目の前の不器用な少年がただただ愛しくてたまらない。
     よせよ、と呟いたのは、そんな二宮の情が刺さってしまったのだろう。照れ隠しにいっそう険しい表情を影浦は取りつくろう。
    「……でさ、どうしますかって施設の責任者だか何だかの人が手続きの為に来て、聞くわけ」
    「どうしますもなにも……。いや相続放棄という方法もあるか」
     だが、それでも、係累を持たず、通っていた店くらいにしか残す相手がなかった、故人の気持をないがしろにすることにもなるのかと思うと、それも余り気が進まないのだろう。彼も、彼をはぐくんだ家族の人たちもみな優しい。
    「そしたらさ、生活保護の給付金ってゆーのは国から支給された金だから市に寄付しろって、くっついてきた福祉課のおっさんが言うワケよ。なんだかなって思って怒鳴りそうになって、兄貴に羽交い絞めにされてその場から連行されちまったよ。けどさ、けどよ、二宮、いるわけねえじゃん、そんなの。欲しくねえよ、そんなの」
    「……そうだな」
    「たださ、俺は、もっかいおっちゃんの顔見たかった。連絡くらいくれれば良かったのに。年に一回、住所も書いてない年賀状が来るっきりで。ひとりっきりでそんな淋しい暮らししてるなら、一言言ってくれればお土産持って、将棋盤持って遊びに行ってやったのに。水上とか連れてったらすごい喜んだろうになァ。あいつ将棋のプロになろうとしてたんだろ。指させてやりたかったな、おっちゃんに……」
     二宮は掌で影浦の目のあたりを覆ってやる。
    「泣いてるかと思った」
    「泣くわけねえだろ」
    「泣いてたら、抱きしめる口実になったのにな」
     バカ、と影浦は二宮の腹部のあたりを握り拳で殴ってきた。
    「そんな口実なくてもこんなん幾らでもしてやるよ。手も足も、生きてる体があるうちは、こんなのお安い御用だっての」
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    palco_WT

    PROGRESS冬コミ新刊の水王の、水上の過去の捏造設定こんな感じ。
    まあそれでも入会金十万円+月一万余出してくれるんだからありがてえよな……(ワが2013年設定だとたぶんんぐが小学生で奨励会にあがったとしてギリギリこの制度になってるはず。その前はまとめて払ってダメだったら返金されるシステム)
    実際、活躍してるプロ棋士のご両親、弁護士だったり両親ともに大学教授だったり老舗の板前だったりするもんね……
    「ん、これ、天然モンやで」
     黄昏を溶かしこんだような色合いの、ふさふさした髪の毛の先を引っ張りながら告げる。
     A5サイズのその雑誌の、カラーページには長机に並べられた将棋盤を前に、誇らしげに、或いは照れくさそうに賞状を掲げた小学生らしき年頃の少年少女が何人か映っていた。第〇〇回ブルースター杯小学生名人戦、とアオリの文字も晴れやかな特集の、最後の写真には丸めた賞状らしき紙とトロフィーを抱えた三白眼気味の、ひょろりと背の高い男の子と、優勝:みずかみさとしくん(大阪府代表/唐綿小学校・五年生)との注釈があった。
    「でも黒いやん、こん時」と生駒が指摘する。
     彼の言葉通り、もっさりとボリュームたっぷりの髪の毛は今のような赤毛ではなく、この国にあってはまずまずありがちな黒い色をしていた。
    1983