王子と蔵内
防衛任務の交代時間まであとに十分ほどだろうか。
ちらりと見上げた時計は蔵内の予想した通りの時刻を指していた。六頴館高校では明日から定期考査ということもあって、早めに授業が終わった蔵内はその足で本部の作戦室で問題集に目を通していたところだった。さっきまでこの場にいた橘高は、王子隊と入れ替わりになる弓場隊の藤丸へ差し入れをしてくる、と言い置いて出て行ったばかりだった。程なく戻ってくるだろう。
さて、羽矢さんが戻ってくるより先に王子と樫尾、どちらが来るかな、と蔵内が思っていると、扉が音もなく開いた。
「早いね、クラウチ」
「明日から試験だからね」
「午前中であがり?」
「ああ。家まで戻ってからこっちに来るのも無駄だから、そのままここで明日に備えさせてもらってた」
「今更勉強しなくても全然楽勝だろう、きみなら」
「そんなことはな……王子」
少し声のトーンを落とした蔵内に、何? と荷物をロッカーに放り込んでいた王子は振り返る。
「樫尾が来る前に換装しておけ」
「別にいいけど……なんで?」
蔵内は微苦笑して指先で、自分のうなじのあたりを叩いてみせた。
「ああ、なるほど。中学生には目の毒だものね」
王子は軽く肩をすくめて、トリガーを手にした。こんなことなら家を経由してくるんじゃなかった、学ランだったら見えなかったのにね、と笑みを浮かべながら。
「それに、俺もつけたくなる」
「別に構わないよ、クラウチなら」
「そういうわけにはいかないだろう。水上に悪い」
「そう? 一度や二度寝ただけでみずかみんぐのモノになるわけでもあるまいし」
みずかみんぐが手に入れられないように、ぼくはぼく自身以外のなにものでもないさ、ともしかしたら水上が刻んだものではないかもしれない、情事の痕を誇るようにして微笑んでみせた。