推しがYou○uberになったら秒でチャンネル登録者数が万超えた件について「はい、以上が材料になります。ではまずジャガイモを…」
「あっ、七海!!これ、チョコ忘れてるよ!」
「カーット!!!!!灰原さん!!だから撮影中に本名言っちゃダメですってば!!」
「あ〜ごめんごめん、またやっちゃった。許して、釘崎ちゃん!!」
「あなたって人は…今日中に撮影終わらせなければいけないんですよ?」
ーーーーーーーーーーーー
遡ること数日前…
「釘崎さん。すみません、折り入ってお願いがあるのですが…」
「…………はい?????」
再びこの会話をする事になるとは誰が予想出来ただろうか。
事の発端は先日の合同演習。
ナナミンが五条にキレて冥冥さんを召喚し闇取引をした事にある。
その件で昨夜メールが来たらしく文面にはこう綴られていたそうだ。
『動画事業を始めようと思ってね。君映えそうだから試しに一本つくって投稿してほしい。料理関係がいいね。納期は1週間後で頼むよ。』
いやこれ絶対五条とナナミン沼の人間に売りつけるやつ…
と、思いながらも撮影を手伝って欲しいと言われればヨダレが出るほどの役得で、二つ返事で引き受けた。
さあ、冒頭に戻って現在。
只今絶賛撮影中である。
まず先に、恒例の釘崎野薔薇ファッションチェックをしておこう。
本日のナナミンのお衣装は緩めのジーンズに袖を捲った白いシャツ、黒の胸までのたすき掛けエプロン。そして身バレ防止用に白のマスクとメガネだ。
ラフに家でのクッキングといった感じの仕上がりだが如何せんオーラが隠しきれていない。これ、サムネでバズるぞ???
そしてお気づきだろうが出演者はナナミンだけでなくもう1人。
ナナミンの同期、灰原雄さんだ。
ついさっき顔合わせをしたがこの人めちゃくちゃ元気。
学生の頃の怪我で車椅子を使っているが、夏油傑特級呪術師の専属補助監督でバリバリ仕事をしてるらしい。
年の殆どは海外任務だがたまたま帰ってきたタイミングで、冥冥さんの生贄に捧げられたようだ。(ピクニック回後編参照)
さて、彼のファッションチェックもしていこう。
灰原さんの衣装は黒に白のラインが入ったジャージの下にVネック白シャツ。そしてナナミンと揃えの黒のエプロンだ。
そしてこちらも身バレ防止に黒のマスク。
男子高校生かっ!とツッコミがはいりそうだが本人が童顔なので、弟の服を勝手に部屋着にしている大学生のお兄ちゃん。みたいな感じで普通にいける。
二人とも体格がいいし引き締まってるのでこれだけで映えるし、見た目も性格も正反対に見えるが仲の良い雰囲気が伺えるのもとても良い。百点満点。
以上でチェックレポートを締めよう。
灰原さんの第一印象は、確実にパンピーではないが超ヤバイまではいかない、とんでもなく元気な大型犬といったところで安堵しつつ撮影を始めたがコレがなかなか進まなかった。
というのも、ものすごく元気に本名を連発、あと凄い勢いでフレームアウトする。つい呼んじゃうのは分かるがキャスター付きのカウンターチェアで高速移動するのはまじでやめて欲しい。
彼曰く、車椅子だったらナナミンの呪力込みの100メートル走でタイムはとんとんだそうだ。
(いや、バケモンかよ…)
そんなこんなで初っ端から現実逃避するくらいには進んでいないのだ。
はぁ…と、つい大きく溜息が出てしまう。
「…すみません…貴方の貴重な時間を頂いてるのに…」
「ほんとにごめんね!」
と眉を下げ申し訳なさそうな顔のナナミンとパンッと手を合わせこちらを伺う灰原さん。
2人からへにょんと垂れた犬耳と尻尾の幻覚が見える。
(チクショーーー!!!カワイイな!!!!)
ちなみに今回はカメラ四台で合法的に撮影をしている。全体、個人、手元用だ。各方面からカメラを借りてガッツリカバーしてるのでもちろんこの幻覚も撮れているはず。
皆、楽しみにしててくれ。
「慣れてないから仕方ないです…次こそ気をつけてくださいね!!」
「はい。」
「はーい!!」
「じゃあチョコの紹介も忘れてたので材料の所からやり直しましょうか。」
「オッケー!」
「わかりまし…」
♪ピロロロピロロロ
ナナミンが答えようとした所で私のスマホが鳴った。
「あ、すみません…」と言いつつチラリと画面を確認すると非通知。
ん?と思いつつもなかなか切れないので断りを入れてから通話をタップする。
「もしもし…」
『釘崎野薔薇のスマホで間違いないね?』
えっ?と思ったがこの声には聞き覚えがある。冥冥さんだ。何故この番号を知っているかは怖いので考えないことにしよう。
「っはい、そうです。」
『なかなか苦戦しているようだね。ふふっ…』
その言葉にバッと窓の方を見やると1匹のカラスがとまっていた。
(うわ、マジか…)
『二人がやりたいようにやらせるといい。カットではなく長回しで。』
「え?でも…」
『その方が面白いからねぇ…そうそう、君の部屋に編集ツールと諸々一式届けておいたから好きに使うといい。それでいくらでもミスは消せるさ。』
「えっ、、ちょ」
『サイトにアップしたら撮ったデータと機器のその後の扱いは君に任せるよ。』
♪プッ
通話が切られる音とともにバサリと羽ばたく音。
(マジかーーーー!!!!!!!)
「釘崎さん、大丈夫ですか?」
「っ、えっと、はい、ダイジョウブデス…」
「ん〜大丈夫じゃなさそうだね…?」
「…その、冥冥さんが編集道具一式送ってくれたみたいで…」
「それは…すっごい期待されてるね!僕もっと頑張るよ!」
「あの人は回収見込みのない投資はしませんから…適当な物は作れませんね…」
「デスヨネ…ヒェ…」
正直ここまで本格的にやるとは思っていなかったが、頼ってくれたナナミンのためにもやるしかない。
パンッと頬を張り気合いを入れ直す。
「よしっ!!やりましょう!!長回しで最初っから、私が編集で全部どうにかします!!」
「よーーーい…アクション!!!!」
「初めまして、ようこそキッチンなまくらへ。第1回目のお料理はカレーです。私、料理が趣味の七と申します。よろしくお願いします。」
「僕はお手伝いの灰です!!よろしくお願いします!!」
「まず、材料を確認しましょう。ニンジン、タマネギ…」
滑り出しは順調だ。今のところミスなく進んでいる。二人には間違えたり何かあっても音声を被せたりカットしたりするから止まらず続けて欲しいと言ってある。
無事隠し味のチョコまで紹介を終え、食材の洗浄・カットに進むようだ。
「まずジャガイモをカットしていきます。土が着いているのでしっかりと洗います。灰、これ洗っといてくれ。もう少し持ってくる。」
「オッケー!!」
同期の前で敬語外れるナナミン…!!
これ、普段を知ってる奴らが見たら鼻血もんだぞ…!!!
かく言う私はハンカチ二枚目だ。
準備しててよかった。
灰原さんが元気に返事をしたと思ったら巨大な洗い桶に水を溜め始めた。
巨大という所に少々嫌な予感がする。
溜めつつ丁寧に泥を落としていく姿を見ていると追加のジャガイモを持ってナナミンが戻ってきた。
(…待って。)
ナナミンの持つ段ボールに描かれたアホ面のジャガイモのキャラクターと目が合う。
テープをカットし洗い桶にゴロゴロと大量のジャガイモを落としていくナナミン。
(待って!!!何人前作るつもりよ!!!)
「おお〜立派だね!!美味しそう!!」
「朝市で買ってきました。さ、手早く済ませますよ。」
じゃっぱじゃっぱと高速で桶を掻き回し仕上げに綺麗な水で流していく。
これが正に芋洗い…
おわーっとスペースにゃんこ状態で眺めていればいつの間にかキロ単位のイモは綺麗になっていた。
「皮を剥くのは数が多いので今回は芽を取るだけで、食べやすいサイズにカットしていきます。」
「僕は大きめが好き!」
「煮込むので小さくなりますしね。」
トントンとリズム良く包丁の音が響くが如何せん量が多い。
これは後で早回しにするかカットだなと考えていると灰原さんが話し出した。
「ねぇ七〜。そろそろ時短?作業でいいんじゃない?」
「…そうですね。細かくなりすぎてしまいますが時間も押してますし…」
ジャガイモカッターなんてあったか?と、思っていると二人は包丁を端に置き、徐にジャガイモを握りこんだ。
(あ…待っ)
バギィッッッとおおよそジャガイモからは出ないであろう音が二人の拳から響く。
「あ〜やっぱりちょっと小さいね…。」
「炒める時にしっかり油を回して溶けにくくしましょう。」
「そだね!!」
メギッッ、バコッッバカンッッ
と恐ろしい音をたてながら笑顔で会話を続ける二人。
え、これR-18Gつけた方がいい?と思いながらも同期ののほほんとした雰囲気は明らかに子供向け。
なんだコレ??
BGMは確実にメルヘンな感じなんだが???
「さて、次はニンジンですね。」
「あ、僕追加のやつ持ってくるね!!」
「頼んだ。…こちらは洗ってピーラーをかけていきます。」
「持ってきたよ!!!!」
高速移動の灰原さん。さすが。
扉から出て閉まる前に戻ってきた。
そしてやはり段ボールに描かれたアホ面したニンジンのキャラクターと目が合う。
分かってたわよ…??
既にツッコミが追いつかなくなってきている私。まぁ、つっこむ暇があったらもう愛でるわ。
「この前散歩してたら農家の婆ちゃん達が持たせてくれたんだ!!」
「相変わらずあなたは人たらしですね。」
「えへへ!!佐藤のお婆ちゃーん!ありがとう〜!!」
「ありがとうございます。」
カメラに向かって手を振る灰原さんとナナミン。
ホームビデオかっっっっ!!!
ありがとうございます佐藤のお婆ちゃん!!
スルスルとピーラーでこちらも順調に皮をむいていく。
ニンジンでもバキバキ素手でいかれたらどうしようかと思っていたが丁寧に乱切りにするようだ。
ふぅ…と小さく息を吐くと今度はナナミンが話し出した。
「そういえば学生の頃は料理しながら訓練してましたね…。」
「そういえばそうだね!!懐かし〜…」
は?訓練??
筋トレでもやりながら作ってたんか?
という疑問はすぐに解決した。
「よっしゃ!!七海!…っあ、やば…」
「ちょっ…貴方ね!!」
ナナミンの本名を誤爆しながら剥いたニンジン全てを放り投げる灰原さん。
「はぁぁぁあ?!?!」っと危うく声を上げそうになったが、子音だけで口を抑えた私。
まじグッジョブ。
宙を舞うニンジンにナナミンの包丁が走り空中でバラバラになった。
それを鍋でキャッチする灰原さん。
いや、どんな芸当だよ?!?!?!
「え〜と…さっすが七!!」
という言葉にすかさずナナミンのチョップが飛ぶ。
「食材を投げるのは良くなかったですね、と話そうとしたのに…ほんとに貴方は…」
「ごめん〜…そうだよね…佐藤の婆ちゃんもごめんね〜!!!!」
わちゃわちゃと涙目でカメラに駆け寄る灰原さん。叱られた黒のラブラドールじゃん…
垂れた耳が見える…
も、わけわからん…
「すみません、佐藤さん…」
しゅんとしたゴールドのラブラドールだ!!