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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    Satsuki

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    リハビリレトユリ。支援s妄想。

    「こっちか……いやうん、やっぱりこっちかな」
     ユーリスは煌々と蝋燭の火が照らす卓上で、小さな石を摘まみ上げると明かりにかざして見た。
    「台座は、こんな感じのシンプルな細工にしてもらいたい」
    「大きさはいかが致しましょう」
     そう、そこが肝心だ。職人の言葉に、ユーリスは細工の構想が書き付けられた紙と、あらかじめ用意しておいたガントレット取り出した。
    「これの左手の薬指に合わせてくれ」
     言って、もう一度、卓上で一番美しい翡翠を慎重に手のひらに乗せてみる。
    「うん、やっぱりこれだ。こいつで頼む」
     ユーリスの言葉に、職人は「すぐに取り掛かりましょう」と頷いた。

     戦争が終結して、ベレト率いる軍隊は無事、ガルグ=マク修道院へと凱旋した。集結していたベレトのかつての教え子たちも、ぽつりぽつりと自分の今後の身の振り方を決め、行動を始めようとしている。各々、平和になったこの国での新しい生活が始まるのだ。これからの人生を共にする相手を見つけ、平凡な幸福を手にする者もいれば、戦争によって大切なものを失い、新たな決意や目的を胸にこの地を離れようとしている者もいた。
     ユーリスはアビスの暗い路地裏を見廻りながら。地上へと続く階段を上がっていく。治安は相変わらず、本日も異常あり、だ。さて自分の今後は、と言うと、まだこの先の道を選べず、アビスの連中の世話を焼きながらもたもたしている最中だ。
    先ほど見た宝石たちの光が目の前にちらついて、頭の中はそれでいっぱいになってしまう。若草の色。麦の新芽の色。あの人の髪の色。台座は銀色にした。あの人の指に、さりげなく光る銀と翡翠が飾られる日が、本当に来るのだろうか。自分が指輪を贈ったら、あの人はどんな顔をして身に付けてくれる? いや、それ以前に、受け取ってもらえるだろうか。
     弱気になるな、大丈夫に決まってる。しかしこれは、勝てる賭けしかしないユーリスにとっても、大博打と言って差し障り無いような戦いだ。何しろあの先生に愛を誓おうというのだから……
     まずお互い男であるということは言うまでもない。フォドラでの同性婚は、あまり例がない。しかしそのことが障害になるとは思えなかった。ベレトがユーリスのことを特別愛おしく思っているであろうことは、周りの目からも歴然としていた。しかしあの『先生』のこと。他の生徒にももちろん平等に接しているように見えるし、ユーリスがいくら思わせぶな態度をとったり、直接的な言葉で反応を見ようと試みたところで、いつも巧くかわされて終わっていた。
    (または、本気で意味が分かっていないか、だ。その可能性も捨てきれねえ……)
     一度だけ、茶会の後に、「今夜はアビスに帰りたくない」と口走ったことがあった。まだベレトの部屋にいたかったのだ。二人きりで夜を過ごしてみたかった。それくらい、二人の間に特別な空気が流れているように思える日だった。いいや、実際、その時の茶会は特別な時間だったと言い切れる自信があった。ユーリスの申し出にベレトは少し驚いたような顔をしていたが、頷いた。
    「きみがそう言うなら」
     その言葉を聞いて、これ以上ないほどにユーリスの胸は高鳴った。部屋に戻りたくないという人間を受け入れたということは、つまりそういうことだろう。このまま夜を共に過ごす。つまり、……ああ、まずいぞ。そういうこと、をするためには、何か口実を作って準備をしに行かなくてはならない。なんてユーリスの心配をよそに、ベレトはそのままユーリスをいつもの食堂に誘い出した。そして夕食を共にし、浴室を使い、二人は再びベレトの部屋へと赴いた。さあ夜はこれからだ。肌を磨いたユーリスが期待に胸を膨らませて、狭い寝台に二人で潜り込んだその時だった。
    「では、おやすみ」
    「お、おう? おや、すみ……」
     ベレトは気を使ってか、寝台の一番端に身を寄せて、ユーリスの場所を広く空けてくれた。そうして行儀よく横たわり、……そのまま眠ってしまったのだ。ユーリスと、この世紀の美少年と同衾しておきながら、ただ眠るだけの男がこの世に何人いるであろうか。いや、そんな奴はいない。ベレトと同衾するまで、ユーリスはそう思っていた。これだけの美人が、寝台の隣で触れることを許しているというのに、眠るなど。
     尚且つ、その後なんと、一緒に寝入ってしまった自分も信じられなかった。自分から服を脱ぐなり、口づけをねだるなり誘う方法はいくらでもあったはずなのに。どうしてベレト相手だとこんなにうまくいかないのだろう。ユーリスは化粧の崩れかけた顔で、朝を知らせる鳥たちのさえずりを聞きながら考えた。だが、その朝は妙にすっきりとしていて、変な気分だった。
     誰かと一緒に眠った夜、こんなに安心しきって熟睡したことがあっただろうか。答えはもちろん、ノーだ。信頼している部下たちに見張らせて眠る日も、深い眠りについたことはない。アビスに落ちてから、一度だってそんな夜はなかった。いつだって自分や周囲の命を守るため、神経をとがらせていた。
     なのに、その日だけは違っていた。まるで眠っている間中、温かな羽毛にでも包まれていたかのような心地だった。胸の中が何か素敵なものでいっぱいになっていて、ユーリスは思わず、まだ眠っているベレトに身を摺り寄せた。起きればいい。起きて、近くにいる自分に驚けばいい。そう思った。少しでもベレトの心を揺らすことができるならそれでよかった。
     ベレトは大きく息を吐き、もぞもぞ身じろぐ。寝返りを打って、ユーリスの方を向く気配。ベレトの肩より下に潜り込んでいるユーリスを見つけて、戸惑ったように身を離す。そうだろうと、思った。
     腕が伸びてきて、ユーリスを毛布ごと抱きしめてしまうまでは。
    「……!」
     そこにいるのがユーリスだと分かっていたはずだ。念入りに手入れされた髪に触れ、ベレトの手はよしよしとその頭を撫でさえした。ぎゅっと抱きしめて、蹴とばさないよう優しく足をすり寄せて。思わず抱きつき返したユーリスに何の罪があろう。
    「……おはよう、ユーリス」
     朝日の中で見るベレトの顔は、どこまでも優しく微笑んでいるように見えた。
    (ああ……この人と、もっとずっと一緒にいたい)
     ベレトを選んだ理由は数あれど、この朝ほど彼を『手に入れたい』と願った日はなかった。




    「……それで、わざわざ呼び出しに応じたってことは、今から俺が何を言うか、想像ついてるよな」
    「さて……」
     ベレトの返答に、ユーリスは頭を抱えて首を左右に振った。全く、この人は。しかしもう後戻りはできない。今夜こそ、この人を手に入れたい。他の誰にも渡す気などなかった。きっと自分が選ばれるはずだと、根拠のない確信もあった。彼に比べれば、何も持っていないに等しい自分でも、きっと。
     ユーリスはひとつ深呼吸をして、まだ冷たい夜明け前の空気をいっぱいに吸い込んだ。ベレトはこちらの言葉を待っている。待って、くれている。
     出来上がったばかりの翡翠の指輪をそっと確かめて、ユーリスは自分の想いを言葉にして、慎重に紡ぎ始めた。
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    recommended works

    Satsuki

    PROGRESS脱走フェリをお散歩させる。フリートしてた話の進捗です。そのうち続きを書くと思います。
    シルヴァンはしゃがみ込み、床に倒れ伏したまだ歳若い男の首に手をやった。まだ温かなその体は、昼までは食堂で勤勉に動き回っていたものだ。
    「どうだ?」
    ディミトリが静かにそう聞くと、シルヴァン首を横に振った。
    「だめですね。首を折られてます」
    「あいつ、やるな」
    「腕の力は、弱ってなかったですもんね」
    「ああ……さて、それじゃあ追いかけるか」
     どこか楽しそうに言うディミトリに、シルヴァンは立ち上がって暗い廊下を見つめた。所々に燭台があるが、この冷たく寂しい道を、フェリクスはどこまで進んでいったのだろう。

     ハァハァと荒い呼吸を吐きながら、フェリクスは床に爪を立てる。辺りの様子を確かめるために首を大きく動かさなければならなくて、体中の筋肉が悲鳴をあげていた。簡素な服はまくれ上がり、硬い石造りの床に擦れた膝や腕には無数の細かな傷ができ血を滲ませ始めている。ここはどこだ?目線の高さが変わってしまったせいで、距離感が全く掴めない。おまけに、さっきから同じような場所を延々と巡っているような錯覚に陥っている。いや、それが錯覚なのか、本当に同じ場所から動くことができていないのか、それすら分からない。
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