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    _aonof

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    _aonof

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    夢の中でしか想い人に会えない☀️くんの話
    序破急の破くらい。

    休み時間は移動教室が多く、目的の人物に会いに行くことが出来なかった。ジャミルに遭遇しちまうかな、と思いながら、授業が終わってすぐ2-Cの教室に行くと、教室を出たアズールの背を見つける。駆け寄ったカリムは、アズール、と声をかけた。
    「おや、カリムさん。どうされました?」
    「相談したいことがあるんだ」
     真剣な声で告げたカリムに、足を止めたアズールは目を瞬いて眼鏡をかけ直すような仕草をする。
    「それは、ジャミルさんには内緒の話ですか?」
    「え? どうしてだ?」
     思いがけない推測に聞き返すと、アズールは嘆息した。
    「すでにジャミルさんに相談しているのなら、僕のところには来ないか、もしくはジャミルさんと一緒に来る筈だからですよ。まあ良いでしょう。あまり時間は取れませんが、カリムさんの頼みなら時間を作ります」
    「サンキュー! でも忙しいのか? アズール」
     カリムの問いかけに、ええ、とアズールは歩き出しながら答えた。
    「今、欠員が出ていますので」
     そのまま歩いて行ってしまうアズールを追いかける。モストロ・ラウンジのVIPルームに通された。
    「おや、お客様にカリムさんがいらっしゃるのは珍しいですね」
     ラウンジに行くとジェイドがカリムを見つけて寄ってきた。給仕の最中らしく、スマートに片手にトレーを持った姿に、ジェイド、とカリムは声をかける。
    「フロイドは居ないのか?」
    「ええ。全く、フロイドにも困ったものですね」
     苦笑するジェイドの婉曲な返事に、サボりだろうか。とカリムは想像する。
    「アズールにご相談ですか? お飲み物は……、ジャミルさんは居ないようですね」
    「大丈夫だぜ。ありがとな、ジェイド」
     カリムのことを知っているが故の気遣いに笑いかけた。
    「それで、相談というのは何ですか?」
    「えーっと、見たい夢があるんだ」
     何と説明したら良いものか悩み、そう切り出したカリムに、夢? とアズールは聞き返す。
    「それは睡眠時に見る夢のことですよね?」
    「そうだぜ」
     頷いて、カリムはルディにについて説明をした。
     夢の中でたまに会えること。
    「ルディさん、ですか。その人物には現実では会ったことはないんですよね?」
    「ないけど、実際に居たみたいなんだ。これ見てくれ」
     アルバムを取り出してアズールの前に広げると、カリムはスカラビアの制服を着ているルディの姿を指さす。
    「実際にいた人物と夢の中で会う……。現在のルディさんについての情報はありますか?」
    「…………いや、それが…………」
     カリムは挟まっている記事をアズールに差し出して見せる。興味があるらしく、ホールに戻らずやり取りを聞いていたジェイドも手元を覗き込んできた。
    「なるほど。となるとゴーストの類かも知れませんね」
    「やっぱりそうなっちまうよなあ」
     ルディが過去の人である。ということを認めようとするとひどく胸が空っぽになるような感覚がある。カリムの表情を見たアズールは、思案するように顎に指をかけた。
    「ルディと会ったときは、楽しくて、なかなか夢から醒めなくてジャミルに心配かけちまったんだが」
    「なんですって?」
     ふいにアズールとジェイドの気配が変わったのにカリムは驚いてアズールを見返す。
     真剣どころかいささか怖い眼差しのアズールは、カリムを見据えた。
    「夢から醒めない?」
    「あ、ああ。2時間目まで寝ちまってた時もあったんだ。でも、」
    「アズール」
     呼びかけるジェイドの声も妙に真剣で恐ろしいくらいだ。
    「カリムさん。この件はお引き受けしますし、お代はいりません。その代わり、知っているだけの情報を全部教えてください」
    「良いけど……、何かあったのか?」
    「目覚めないんですよ」
     言い淀んだアズールの代わりというように、ジェイドが口を開く。
    「フロイドが、目覚めないんです」
    「な……っ」
     いなかったのはそういうわけだったのか、と目を見開いて驚きながらカリムは理解した。二人昏睡している生徒がいると聞いていたが、一人はフロイドだったらしい。
    「今のところ、命に別状はありませんが、徐々に衰弱しているようなんです。何故かマジカルペンのブロットも溜まって行っている。早急に起こす手段を見つけないとなりません」
     フロイドの顔を思い浮かべ、それからカリムはルディの顔を思い浮かべた。
     やっぱり何かあったんだ。と思う。
    「そのルディについて、他に何か知ってることはありませんか?」
    「……オレが知ってるのは」
     アズールの、ルディに対する疑念と敵意を感じながら、カリムは慎重に口を開く。
    「ルディが悪い奴じゃないってことだ。オレが目覚めることが出来たのは、ルディが助けてくれたからだと思う」
     カリムはルディが最後に口にしていた、カリムには良く意味のわからない、それでもカリムを案じていた言葉を不確かながら繰り返す。
    「ルディはオレが夢を見ることを防げたはずだけど、弱っていたから出来なかったって言ってた。それから、ルディはこう言ったんだ。巻き込んで悪かったって。今夜は大丈夫だ。きちんと目が覚めるよ。って」
     不審そうに腕を組むアズールと、カリムは俯く。
    「オレ、またルディに会いたいんだ。ルディが何かに苦しんでるなら助けたい」
     沈黙が下りた。アズールは思案している様子であり、ジェイドもアルバムをめくりながら考えている様子だった。
    「ひとまず」
     アズールは思考を切り上げるように言った。
    「カリムさんの印象を信じましょう。ルディさんは元凶ではない、だがこの事件に関わっていることは間違いない。まずはルディさんについて調査をします」
    「おや?」
     そのアズールの声にかぶさるように、ジェイドが声を上げる。
    「二人とも、この写真を見てください」
     指さした写真を覗き込んで、アズールとカリムは目を見張る。
    「クルーウェル先生?」
    「みたいだな。ルディってクルーウェル先生の同級生だったのか。……じゃあ、」
     三人は顔を見合わせる。
     一番最初に調べるべき相手が決まったようだった。


    「ルディ? いや、知らんな」
     魔法薬学室の隣の準備室にいたクルーウェルを捕まえ、ルディについて尋ねてみると、クルーウェルは即座にそんな返事をした。椅子に座ったままのクルーウェルは、フロイドの件を知っているためか三人を邪険にはしなかったが、問いかけた内容に不審そうにしている。
    「え? でも同級生だろ?」
    「いや、同級生にそんな名前の人間は居ない。居たら覚えている」
     どういうことだ? と戸惑うカリムに、ジェイドは持っていたアルバムを開いて写真を指さした。
    「この人物ですよ。事故死しているという記事もあります」
    「何?」
     覗き込んだクルーウェルは、自分とルディが同じ写真に写っているのに目を瞬いた。それから額を抑えると苦痛を感じているような表情を浮かべる。
    「……ルディ……。いや、この写真……確かに……」
     思い出せずにいる様子のクルーウェルに新聞記事も差し出す。それを受け取り読んだクルーウェルは、眉を顰めた。
    「こんなことがあったなら絶対に覚えている」
    「だと思います。でもこの記事が偽造のは思えません」
     記事の切り抜きを返して裏側にも文字があるのを確かめると、クルーウェルはカリムたちを見やった。
    「このルディという人物は、昏睡事件に関わりがあるんだな?」
    「オレが目覚めなかったときに、夢の中で会っていた相手がルディなんだ」
     カリムの返事を聞いて少し考える間を取ったクルーウェルは、それから立ち上がった。
    「良いだろう。俺も調べてみる。生徒名簿があるはずだ。それに他の先生方にも聞く必要がありそうだな」
     協力してくれるらしいクルーウェルに、カリムはほっと息をついた。
    「サンキュー! クルーウェル先生!」
    「よろしくお願いします」
     部屋を出て行ったクルーウェルを見送って、カリムたちも廊下に出る。
     少しだけ進展し始めているように思える状況に気持ちが奮い立つようだった。でも不穏な気配は強くなる一方だ。
    「ルディ……」
     思わず呟いたカリムに、アズールとジェイドは何も言わなかった。
     その日の調査はそこで終わり、カリムはスカラビア寮へと戻る。夕食の支度をしているジャミルに、カリムはまだ事件のことは言わないことにした。
     目が覚めなかった時も心配してくれたのに、また夢を見たいとは言い難い。
     明日、授業が終わったらクルーウェル先生に会いに行こう、と考えながらカリムは目を閉じる。
     そうして、その晩夢を見た。

     あの夢だ、と周囲を見回したカリムは、色褪せた自分の部屋にいることを確かめる。それからカリムははっと目を見開くとベッドと飛び降りた。
    「ルディ!」
     ぐったりとソファに倒れ込んでいるルディに駆け寄る。
    「ルディ! ルディ! 目を開けてくれ!」
    「…………カリム……どう、して」
     弱々しい声音にぞっとしながら体を抱き起こす。体は冷たくてカリムは抱きしめるようにぎゅっとルディを自分に寄りかからせた。
    「ルディ。教えてくれ。一体何が起こってるんだ?」
    「…………お前には関係ない」
     カリムの腕から逃れようとするルディをカリムは引き止める。顔を背けるルディにカリムは言った。
    「駄目だ。教えてくれよルディ。オレ、ルディを助けたいんだ」
     カリムが引っ張る腕に、抗うルディの力は弱い。本当に嫌がってないなら、とルディを自分に向き直らせたカリムは、ルディの返事を待った。
    「……俺は助からないよ」
     深いため息を後にそう言ったルディにカリムは息を飲む。
    「ルディ、やっぱり死んじゃってるのか?」
     恐る恐るのカリムの声にルディは首を横に振った。
    「いや、まだ生きてるが……。もう死んでるのも同然だ。……何で来たんだ。と言っても、俺が弱ってるからだな。ごめんな、カリム」
    「何で謝るんだ? ルディは何も悪くないだろ」
     肝心なことを何も話してくれないルディに、感情で詰まりそうになりながらカリムはその目を見つめる。血の気が引いている顔、でも瞳は、最初にあった時と同じ光を灯している。
    「何も悪くない、か。きちんと事情を聞いてからそういうことは言え」
    「……ルディは悪いやつじゃない」
     カリムの言葉にルディは口をつぐむ。
    「俺は人を見る目には自信があるんだぜ。ルディは絶対悪い奴じゃない」
     そのカリムを見つめていたルディは、目をすがめるような顔をする。
    「……入り込んできたのがお前で良かったよ。カリム。……いや、お前じゃなければ良かったのかな。望みを探せば辛いことなんて知ってるのに」
    「ルディ」
     その絶望めいた声音にカリムはその手を握る。
    「頼む。教えてくれ。何が起こってるんだ?」
    「…………」
     迷うようなルディはため息をつく。
    「どうしてそんなに尋ねるんだ。お前には何も出来ないよ。カリム」
     どう説得したらいいか分からずに、カリムは迷った末にフロイドのことを話すことにした。
    「……オレの友達も目覚めなくなっちまった奴がいるんだ。それにオレは……」
    「……誰か昏睡したやつがいるのか?」
     声音の変わったルディに、カリムは目を見張る。
    「あ、ああ」
     返事をしたカリムに、ルディは痛みに耐えるような顔をしてから、表情が消える。
    「…………カリム」
     静かな声音に、カリムは嫌な予感がした。
    「お前の友達は大丈夫だ。明日には目が覚めるよ」
    「っルディ、何をするんだ?!」
     ルディの声音にただならぬ真剣さを感じてカリムは声をあげる。
    「残っている魔力で何とかするよ。ずっと覚悟がつかなかった。だから14年も待ってしまったんだ。……悪かったな。巻き込んで」
    「う、ルディ……!」
     不意の目眩にカリムはルディに倒れかかるように崩れた。目眩が強い眠気だと気づいた時には、指先一つ動かすことが出来なくなっている。
    「ひとときの夢をありがとう。カリム。……楽しかったよ。デイヴィスにもよろしくな。と言っても、思い出せるかは分からないが」
     名前を呼ぶことも叶わず、カリムは心臓を掴まれたような痛みに耐えながら眠りに落ちる。
     一番言いたかった言葉を逃してしまった。
     会えた時の喜びと、倒れていたルディを見ての、恐れが胸に渦巻いている。そして今は喪失の予感に息が詰まりそうだ。
     ルディ。オレはお前が好きだから、お前を助けたかったのに。
     一生、こんな言葉を抱きしめて生きていくなんて、出来ない。
     目が覚めればまだ世界は夜中だった。
     カリムは目を閉じる。
     全ては夜が明けてから。
     カリムは朝まで夢も見ずに眠った。
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