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    花毒の呪術師2 後編

    虎杖の背が見えなくなるまで見送って、春永は、車のところに帰ろうと身を翻し、それから驚いて足を止める。気配なく行手に立っていた五条は、軽い調子で口を開いた。
    「どう?殺せそう?」
    あまりにも口にするには鋭い問いかけに、春永は言葉に詰まった。
    「…………性格が悪いですよ」
    「自覚済みだからなんとも思わないねえ。で?どう?」
    逃がさないと言うように問いかけられて、春永は視線を逸らす。
    「良い子ですね。真っ直ぐだ。知っていましたけど」
    「死という永遠の春を与える処刑人の末裔、春永藤太くんにその良い子は殺せる?」
    「毒は効かないんですよね。俺には荷が重いですよ。……でも、すごく……慕ってくれているから、ただ殺すことなら簡単だと思います」
    苦しそうにそう表現した春永も、少なからず虎杖に思い入れがある様子であるのに、五条は満足そうに頷く。
    「だろうね。ま、春永の家が僕側についてくれてるなら、暗殺の心配もないと思って藤太に戻ってくるように声かけたんだよね」
    「……信頼してますよ。五条先輩」
    「まっかせといてよ」
    任せて良いのか心配になる調子だったが、その点に対しては、春永は五条を誰よりも信頼していた。
    約束しちゃったしね、と春永は思う。この胸のつかえは取れないだろうけど、約束を楽しみにするくらいは良いだろう。





    「嘘だ」
    任務先でかかってきた電話に、春永は最初にそう言った。
    『残念ながら、嘘じゃないよ』
    信頼する先輩の言葉も、今はどうしても信じられなずに呆然と虚空を見つめる。
    『虎杖悠仁は死んだ』
    2度目の言葉にスマホを握りしめて俯く。歯を噛み締めてないと何を叫び出すか分からなかった。
    『僕が出ている隙に、特級呪霊の現場に連れ出されたみたい』
    淡々という五条の声は、それでも春永には憤りに満ちているのが伝わってきて、でもそれはなんの慰めにもならなかった。電話の向こうで淡々と状況が説明される。まだ呪術師のひよっこなのに、特級を相手に、三人とも頑張ったのだと春永は目を閉じる。
    呪術師として戻ってきたからには、仲間の訃報の電話も聞くことがあるだろうとは思っていた。よりにもよってそれが、一番可愛がっている相手のものだったなんて、受け止めきれずに春永は片手で口元を覆う。手が震えていた。いつでも死が隣にある仕事であるのはよくわかっている。自分だっていつ死ぬか分からない。
    でも。
    「彼は今どこですか」
    『高専に運ばれてる。……会いにくるかい?』
    「はい」
    待ってるよ。の声に電話を切り、春永は自分の車へと向かう。運転席に座って、何をしないとならないのか分からずに手を止め、それからなんとか、エンジンをかけて車を走らせた。
    高専に到着し、走って校内に入ると、遺体が保管されているはずの部屋へと向かう。呪術師の死因を調べるために、高専に死体安置室がある。その部屋のドアをノックして、春永は足を踏み入れた。
    振り向いた家入が、手をあげるのに、頭を下げる。五条と伊地知の姿もあり、春永は足早に部屋に入ると、彼が横たえられているストレッチャーに近寄った。
    「……悠仁」
    苦痛も何もない表情で目を閉じている虎杖の姿に、春永は黙ってその顔を見下ろすと、そのまま動けなくなる。
    「藤太」
    「……はい」
    「これから悠仁を解剖するって。出ようか」
    解剖の言葉に顔を上げた春永の表情を見て、伊地知は視線を下に向け眼鏡を直すような仕草をする。自分が悲痛な表情を浮かべているのが自覚できないほど、動揺しているようだった。その春永に、五条は家入を振り向く。
    「硝子ちょっと待っててくんない?」
    「はいはい」
    「藤太。ちょっとこっち」
    長椅子を一人座れるスペースを開けて座り直した五条の隣に、春永は座る。
    「…………正直、ちょっと受け入れられないです」
    「……そうだね。僕もこんな早く、なんて思いもしなかったよ」
    約束したのに。なんて恨めしい言葉を春永は堪えた。虎杖だって死にたかったわけじゃないだろう。そして、その死に様を知った今は、本当に良い子だったと思う。自分の命と世界を守る選択なんて、大人だって出来ないのに、高校生の子供ならもっと怖かっただろう。
    どうして。と誰に問いかけるべきでもない問いが浮かぶ。呪術師が抱きがちな理不尽さと憤りをぶつける相手なんてこの非情な世界には存在していない。
    虎杖の笑う顔を思い出して俯いた春永に、家入の声がかけられる。
    「そろそろ始めるけど……」
    顔を上げた春永は、そして家入の背後で、身を起こしたその人影に目を見開く。伊地知も驚いた反応をし、五条に至ってはクックッと楽しげに笑った。
    「悠仁!おかえり!」
    ハイタッチをする二人に春永も立ち上がると虎杖に近寄った。
    「あ、藤太さ、ん……」
    そのまま飛びつくように抱きしめて、虎杖の肩に顔を埋めてしまった春永に、虎杖は固まった。春永はそのまま動かなくなる。
    体温がある。温かい。呼吸してる。生きてる。
    「良かった」
    それ以外、なんの言葉も浮かばずにただ縋り付くように抱きしめていた春永に、肩口が濡れたことに気づいた虎杖が、瞳を揺らしてから春永を抱き返す。泣いてる、とは聞かずに、虎杖は言った。
    「ごめん。藤太さん。心配かけてごめん」
    返事が出来ない春永の肩をそっと掴み、自分から離して、泣いてる頬に手を当てる。
    「俺もっと強くなるからさ。……泣かないでよ」
    どうしたら泣き止むのか困っている様子の虎杖に、春永は深く息を吐き出すと、涙を拭う。安堵したあまり、我慢していた感情が溢れてしまったようだった。
    「藤太は結構泣くよねえ」
    「そうなんすか?」
    五条の言葉に、春永の顔をまじまじと見つめた虎杖はぽんと頭を軽く叩かれる。痛くはない無言の照れ隠しに、虎杖は笑った。
    「ちゃんと強くなってね。悠仁」
    安心した表情でそうようやく微笑んだ春永に、虎杖は頷く。
    「俺もしごいてあげるから」
    「うえっ」
    本気の声音の春永に、一体どんなしごかれかたをするんだと声を上げた虎杖は五条が笑っているのに顔を向ける。
    「藤太、可愛い子こそ厳しくするタイプだから覚悟したほうがいいよ。近接めちゃくちゃ強いし」
    「俺可愛いんすか?」
    「もちろん。可愛い後輩だよ。ね、藤太」
    「そうですね」
    すっかり落ち着いた春永は、楽しげな五条に視線を向けた。
    「じゃ、これからの方針について話そうか」
    巻き込まれるな、と予感した春永が五条の話に耳を傾けている中、虎杖を介して、別の存在に観察されていることに、春永は気づかなかった。
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