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    namo_kabe_sysy

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    お題「誕生日」
    もしかしたらこんなお祝い?もあるかもしれないな〜という話

    #アル空
    nullAndVoid
    ##アルベドワンドロワンライ

    星の先にシュガー アルベドに送るプレゼントが決まらない――
     悩みの種を持って早一週間。空は彼の欲しいものをプレゼントしたいと考え、あらかじめアルベドに「誕生日プレゼントに欲しい物はある?」と質問を投げていた。「あるなら教えてね」とも付け足している。するとアルベドから、
     一日目は「ありがとう、考えておくよ」
     二日目は「ああ、実験のあとに考える時間をとろう」
     三日目は「野外の採集に時間がかかってしまって。これから考えるね」
     ……という調子で、明確なリクエストを得られないまま、四日目以降も似たような返事を貰い続けている。
     空のことを疎かにしているのではない、というのはわかっている。実験で忙しいことも承知しているし、野外の採集はきっと珍しい植物か何かを発見したのだろう。知識に貪欲な彼のことだ、あれこれ調べていたら時間が経過していた、ということは想像に難くない。
     アルベドの大事にしていることを、空も大事にしたいとはずっと思っている。アルベドが優先する事柄も、その目的も理由も知っているからこそ、邪魔はしたくないし邪魔な存在とも思われたくない。だからこそ、強気に踏み込めずにいる。
     たとえ今日がアルベドの誕生日当日で、結局なんのプレゼントも用意できていなかったとしても。

     そんなに落ち込むなよとはパイモンの励ましだった。アルベドからの呼び出しで工房に向かう前、ガイアにも似たような台詞で見送られている。誕生日に招かれるのだから、遠ざけられている訳ではないだろうと。前向きな発言だった。それもそうかと思い直して、空はアルベドの工房へと赴く。
     何も持たずに訪ねるのも申し訳なくて、実験に使えそうな植物を箱に詰めた。以前手伝った時にすり鉢の中で粉末になったものと同じ植物だ。あらゆる実験に使うものなんだと教えてもらっていたから、そのうち機会もあるかもしれないと踏んだのだ。
     扉には〝実験中〟とかかれたプレートが下がっている。遊びにきたクレーが無邪気に中へ入らなくなるような魔法のじゅもん。彼女でも正しく理解のできる言葉の最後には、小さな星のしるしがあった。
     それは実験中であっても、空だけは入室を許可されているという意味だ。ふたりで決めた、ふたりしか知らないひみつの星。
     光の宿らない星をつついて、軽くノックをする。「アルベド、入ってもいい?」緊張を帯びた声になってしまったが、気にされなかったようだ。やがてかえるのは、耳に馴染んだ彼の声。「どうぞ。鍵はあいてるよ」
     アルベドの工房には、錬金術に使う道具や器具があちこちに並んでいる。彼にしかわからない規則で決められた場所に礼儀正しくあるのが常だ。けれどそれらの器具たちは今、部屋の隅に片付けられている。どちらかというとやや雑然としたそれらを眺めつつ、工房の中央にあるくっついたふたつの長テーブルを見やると、ありとあらゆるスイーツが、ほぼ隙間なく陳列されているのが分かった。
     ひとつひとつはどれも小ぶりなサイズで二、三口もあれば食べ切れてしまうものが多い。ロールケーキにマカロン、チーズケーキにムース――空が名前を知らないような、凝った見た目のケーキもあった。
     一体どれだけ豪華なお茶会をするのだろうと思いつつ、空は椅子を引いて待っているアルベドのもとへ近づき、持ってきたプレゼント(仮)を手渡した。無駄にはならないと思う、よければ使ってと言えば、中身をたしかめたアルベドはくすぐったそうに微笑んでいた。
    「あの、お誕生日おめでとう、アルベド。……それで、ええと、これは?」
     着席すると間もなく、空の目の前には通常より半分くらいになったサイズのショートケーキが運ばれる。磨かれたカトラリーも並べられ、いよいよ訳がわからなくなってとなりに立つアルベドを見上げた。
    「誕生日プレゼントに欲しいものを訊いただろう? だから、欲しいものを貰おうと思って」
     ティーカップには紅茶が注がれている。知っている香りだ。アルベドが好んで飲む紅茶。はちみつを足すとより美味しくなるのだと、ティースプーン一杯だけを足されたこともある。しかし今日はこのまま飲んで欲しいと言われ、ケーキがのった皿の近くに置かれた。
     欲しいもの……? 果たしてどれのことを言っているのだと首を傾げる。
     そんな空の隣に椅子を持ってきたアルベドは、腰を下ろして「どうぞ」と手を述べる。ケーキを食べろ、という意味だろうか。
    「……? 食べていいの?」
    「もちろん。そのために作ったからね」
    「作った? え、まさかここにある全部!?」
    「ああ。久しぶりにこれだけの種類を作ったから、少し時間がかかってしまったけれど」
    「そうなんだ……? でも、アルベドの分は?」
    「ボクは試食をしているから。これはキミが食べて」
     言われ、もう一度どうぞと促される。空はおずおずとフォークを手にして、目の前のショートケーキを一口頬張った。
    「ん、美味しい」
    「それは良かった」
    「……ねえ、アルベド。結局なにが欲しかったの?」
     ケーキはあっという間に皿から消えて、空の胃の中におさまった。淹れられた紅茶を飲めば、すっきりとした後味が口全体に広がっていく。
     からっぽになった皿を引き取ったアルベドは、次はこれをと、苺がたっぷり詰まったタルトを前に置く。浮かべているのは、愛おしいものを見つめているような微笑だった。
    「ボクの作ったケーキを食べるキミを見たかったんだ。それもできるだけ長くね。だから、そうだな。今この時間が、ボクの欲しかったものになると思っていいよ。プレゼントとして受け取りたいと思う程にね」
     それくらいいつでもできるのに。何も今日でなくたってよかったのでは? それに、わざわざプレゼントの代わりにしなくても、アルベドがしたいことなら喜んで付き合ったのに。
     とは思いつつ、言わないでおいた。誕生日だからと理由をつけることで、普段あまり言わないお願い事を言えているのかもしれないし、それに、今日この日だからこそ、いつものことが特別に映ったりするかもしれないのだ。
     ならば彼の望むまま、美味しいケーキを食べていよう。食べる姿をまじまじ見つめられるのは気恥ずかしいけれど、大切なひとが望むことなら応えてあげたい。その心のまま、空はスプーンを手に取った。
     かすかな微熱を宿したふたつの翡翠の視線を感じながら、空は身を寄せ合った苺をひとすくい、口の中へと運んでいった。
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