Gift「贈り物を受け取ってくれないか。」
「構わないが」と短く返事をすると、目の前で不安気だった顔がぱぁっと明るく、花開く様に輝き、月桂冠はまるで花冠の様に眩しく、火の粉が花弁の様に空気中にふんわり舞い散った。
「これは……血珠か?」
「ああ……あ、これはまた血に戻ったり、俺に吸収されたりしないから安心してくれ。ちゃんと切り離した。」
「……。」
手渡された深緋色に輝石をじっと見つめ思案を巡らせていると、その沈黙に不安がまた戻ってきた様で、ザグレウスは呟く様に声を上げた。
「……や、やっぱり嫌か?」
「……否、そうではない。……すまない、少しばかり、意表を突かれただけだ。嬉しく思う。」
「そうか、良かった!」
「……だが急にまたどうした? お前からはネクタルにアンブロシア、返しきれない程に品を贈られてきたが……。」
「いや、あれらはよくよく考えたら全部父上の領域で手に入れたものだと思ってさ。俺も、お前がしてくれたみたいに、自分らしい物を……俺にしか作れない物をお前に贈りたいと思って。」
「……感謝する、ザグ。しかし、差し支えは無いか? 自分の身を分けた物を贈るとは。」
「ヒトに蝶の標本を贈ったお前がそれを言うのか?」
「……正直、俺には何もないと思ってたからな。師匠に『血の神』だなんて言われた時も実感が無かった。けれど……確かに、俺が持つ神らしい特性なんて、これくらいしか無い。」
「……俺が持ち得る物は、これくらいしか無いんだ……。」
「……あの示範役がそんな短絡的な見解でお前をその様に評価するか、俺は彼の者を詳しくは知らない故に定かな事は言えまいが……。」
「血とは巡るものだ。お前が冥府を昇る行為は本来澱んだままの冥府に流れを生み出した。女王陛下を呼び戻し、多くの者の縁を結び……再び、その時を動かした。」
「まるで生者の世の様に……。」
「本来ならば、考えられなかった事だ。お前はお前自身を持って冥界を循環させている。恐らく、お前の権能の一つが循環なのだろう。権能とは自然にその身を宿り、また周囲に影響を与える物だ。かの者がお前を『生なる神』と称し、血を司ると言った由縁もそこからだろう。俺はそう認識する。」
「……もう、何者でもない、などと言わせんぞザグレウス。お前は死を司る神の番なのだから。」
「そうか……ありがとう、タナトス。死をもって世界を循環させているお前にそう言われるなんて、光栄だ。」
「その『血の神』の片鱗を受け取れた事、俺も光栄に思う。これは現状、お前が考えた最高の贈り物なのだろう?」
「……とても美しい。死の化身には勿体ない程に。」
「ちょっと、褒め過ぎじゃないか?」
「何を言う。冥府で産まれた落ちた者の中でもお前しか持ち得ない輝きだろう? これは。」
「本当に……ありがとう。」
心が、魂が輝けるのも、きっと彼のお陰だ。
「だが……もし、俺の血が枯れて、その輝きも消え失せた、その時は……お前の腕の中で終わらせてくれ。」
「伴侶に死をもたらせなど、随分酷な願いをする。」
「……では、『その時』など来ないよう、俺は全力を尽くそう、ザグレウス。……死の神に唯一の生の息吹をもたらす、我が伴侶よ。」