Switchのセコム事情(つむぎ編)深夜に放送されるゲーム実況番組の初回収録は、メインの春川宙くんのお陰で随分と巻くことが出来た。
僕たちが思っていた以上に彼はゲームが上手くて、どこで覚えたのかゲストへの“接待”も忘れない。それを思い切り“接待プレイ”と称すのが玉にキズなくらいだろうか。
春川くんはすっかり僕のお気に入りだった。
仕事に満足したというだけではない。
なにより、彼は書類で見たよりもずっとずっと愛らしかった。
話し方だろうか、それとも声からだろうか、幼くて元気いっぱいの彼は僕の好みそのもので、撮れ高的にもこれから暫く続くであろう収録に胸を高鳴らせていた。
もう外は暗いけど、いつもよりずっと帰宅してからの時間もある。
なんていい日なんだと足取りも軽くエントランスを歩いていると、どうしてか大きな柱によじ登って遠くを見ている春川くんが目に入った。
エントランスの柱に登る人なんて見たことがないのでギョッとした。あんなところ、よく登れたな。というか、このままだと警備員が来るんじゃないだろうか。
少し不思議ちゃんなのはキャラじゃないらしい。
「おーい春川くん。なにしてるの、危ないよ?」
「あ!ディレクターさん!偉い人に会った時は、きちんと下に降りて挨拶します。んしょ…っと、お疲れ様です!!」
「春川くんお疲れ様。今日はありがとうね」
目の前に飛び降りてきた春川くんに、再び驚きつつも特技の欄にパルクールがあったこと思い出す。
ゲームが上手いからといってインドア派ではないらしい。こういうギャップも春川くんの魅力の一つなんだろう。
「こちらこそです!宙、今日は凄く楽しかったな〜♪」
にこにこと愛想よく受け答えをする春川くんを見ているとどうしても、こう、アレなのだ。
「あ、ええっと、宙はせんぱいが迎えに来てくれるのを待っています!」
「せんぱい……あぁ、青葉くんか。でももう暗いし……送っていってあげようか?」
収録が終わってもう20分以上は経っている筈だ。暖かくなってきたとはいえ、夜は少し冷えるし、それに……それにこんなに無垢で無知な春川くんなら……。
腹の奥からぐつぐつと欲望が湧き出す。
ついハーフパンツから覗く白い脚に目がいってしまい、口元が歪みそうなって慌てて笑顔を取り繕った。マスクをしてて本当によかった。
「?優しくしてもらったらお礼を言います、ありがとうございます!でも、宙は大丈夫です!せんぱいと約束してるので!」
「でも早く終わっちゃったし、青葉くんは事務所の仕事してて忙しいんだったよね?もしかしたら時間がかかるかもしれないし…」
それにしても、春川くんって二次成長期は来てるんだろうか?
声も高いし、体毛も随分と薄いようだ。肌の白さや瞳の色からして、きっと今はシャツに隠されている胸だってピンク色で可愛らしいんだろう。
これならまだえっちなことも知らないかもしれないな。そしたら僕が教えてあげよう。小さな春川くんのそれがふるりと震えるのを想像すれば熱い吐息がマスクに充満した。
ふと春川くんが静かなのに気づいて逸らしていた視線を戻す。
「……宙は、センパイに迷惑をかけてますか?」
少し困ったような、それでいて落ち込んだ様子の春川くんが不安げな声を漏らす。
首を傾げて上目遣いにこちら見られると、僕のこと好きなんじゃないかって思っちゃうくらい可愛いな。
青葉くんにどう思われているのか怖くなっちゃったのかな?
小さな男の子が困ってもぞもぞしている姿はなんとも言えないいやらしさがある。
「うーん、迷惑ではないと思うけど、仕事を切り上げてくるんだから大変だろうねぇ。だから、ね?どうかな、宙くんの寮の近くに住んでるんだよ」
これはチャンスだ。
春川くんを庇いつつ、大人として青葉くんに気を遣うフリをする。
本当はあの辺に家なんてないけど、こうして可愛い子を連れ込むための自宅兼ホテルならあるのだ。
みんな車にさえ乗せてしまえば、思惑に気付いても仕事をやると言えば従う。
だから、ただ車にさえ乗せればいいのだ。
「ううん……」
あと一押し、あと少しで陥落する。
そう思った時だった。
「宙く〜ん!」
「せんぱい!!」
顔を上げると青葉くんが車の窓を開けて大きく手を振っていて、春川くんは既に振り返って駆け出してしまっていた。
「お待たせしちゃいましたか?あぁ、ディレクターさんお疲れ様です。俺が来るまで宙くんと一緒に居てくれたみたいで……ありがとうございます。」
車から降りて、青葉くんが春川くんをぎゅうっと抱きしめる。跳ねた柔らかそうな髪を撫でられて嬉しかったのか、春川くんは弾けるように笑って頬擦りしている。
うわ、いいなそれ。僕がしたかった……。
「せんぱい、忙しくなかったですか?」
「ん?いえ、大丈夫ですよ。丁度休憩を取っていたので……それに、書類のお仕事よりも宙くんがずうっと大事ですから」
父親にするみたいにぴったりくっついて甘える春川くんをぼんやりと眺めていると、ふと青葉くんと目が合った。
気のせいだろうか、穏やかな印象の強かったはずの青葉くんが鋭い目をしていて心臓が嫌に大きな音を立てる。
気道が狭まって息が詰まった。
「せんぱい……?」
「ん?あぁごめんなさい、宙くん。何でもありませんよ♪」
じっと不自然なくらい青葉くんを見つめて首を傾げる春川くんに救われた。
は、と呼吸が戻ってきて肺に酸素が入って、背中に冷たい汗が伝う。
夏目くんが過保護だという噂は届いていたけど、こちらもそうだとは知らなかった。
幾ら若い事務所でスタッフが少ないとはいえ、メンバー兼副署長が直々に来るのだから相当だろう。
「それにしても来るタイミングがバッチリでした!宙はせんぱいがお迎えに来てくれて嬉しいな〜!でももし忙しそうだったらディレクターさんが送ってくれるって提案してくれてました!」
でも、少し変な『色』してたな〜?とよく分からないことを言いながら春川くんが思い出したかのように僕の方に振り向く。
言っている今はよく分からないが、青葉くんの表情を見る限りなにか宜しくない意味なのかもしれない。
肩を抱く手にも力が入った様で、春川くんがよろめいて青葉くんの胸の中にぽすりと収まる。そのまま嬉しそうにまた青葉くんの方に振り向いて胸板にすりすりと頬を寄せて、抱きついた。
「えー?そうなんですか?お気遣いありがとうございます。でも俺、宙くんの送迎が結構気分転換としても有り難くて…それにディレクターさんのお宅って割とここからは遠いですよね?」
「え、ぁ……」
「申し訳ないですし、お気持ちだけ有り難く頂きますね。これからも僕たちSwitchをを宜しくお願い致します。」
「よろしくお願いします!!」
畳み掛けるように話す青葉くんに抱きついたままにっこり笑顔で復唱した春川くんを手早く助手席に座らせて、車はすぐに姿を消してしまった。
本当に先程までが嘘みたいにエントランスがふと静かになる。
青葉くんってあんなによく喋る子だったろうか。
ていうか家の場所をどうして知ってるんだろう、若い子って怖い。
暫くは大人しくしておくべきだろうか。
それにしても春川くん、可愛かったなぁ……。