現パロ 公主抱「阿植?」
さっきまで、クスクス笑ったり、話し声や叫び声がしていたのに、急に静かになったリビングを覗いたら、汪植がソファで寝落ちしていた。
傍らにはスマートフォンとタブレット。
どうやら唐泛と、ゲームをしながら通話をしていたらしい。
『ごめんなさい、汪植、寝落ちしています。また今度遊んでやって』
と返信しておいた。
…後で履歴を見たら嫌がるかもしれないけど。
歳の近い友達と楽しそうに話をしている汪植を見ると、年相応で安心する一方、少しだけ複雑な気持ちになって、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
まだ幼い寝顔を見ていると、世の中の全ての災いや苦しみから守ってあげたい気持ちになってしまうが、それ自体はどう考えても親の気持ちではないか、と丁容は苦笑した。
お互いに身内の縁が薄く、今はこうして二人で暮らしているが、万が一、汪植が私から離れていってしまうとしたら…と、ほんの少し考えただけで、茫漠とした寂寥感と喪失感が胸に迫ってくる。
これは愛なのか、それとも執着なのか。
執着を捨てれば、「苦」から逃れられる事は、十分に分かっている。
しかし、この先に「苦」があったとしても、汪植と共に居られるのならば、私はもう少し足掻いていたいし、そうしなければならない気がしている。
ぼんやりとそんな事を考えながら、汪植にそっとブランケットをかけようとしたその時、丁容は閃いた。
アレをやってみる絶好のチャンスではないか。
実は、ここ数年筋トレにハマっていて、密かにビルドアップしている。
起きている汪植に「お姫様抱っこさせて」と頼んでも嫌がるに決まっている。
今しかない。
よし、最初の体勢作りが重要だ。
手はこっちで…いや、こうした方が腕を入れやすいか…
よっ。
…。
全体が弛緩している状態でもこれくらいの体重なのか。
結構食べさせてる筈なんだけどなあ。
若いから代謝が良いのか?
あーもう、寝顔、ホントにカワイイんだよなあ。
なんだろう、このカワイイ生き物。
一緒に寝起きして、一緒にご飯食べて、好きなだけ抱っこ出来るって、前世の私は一体どれほどの徳を積んだのか、と伏して拝み倒したい。
今も十二分にカワイイんだけど…。
もし、願いが叶うなら、小さな子供の頃の小植を抱っこしてみたい。
まずはそっとベッドへ運ぼう。
最近ゲームばかりしてるから、少し注意しないといけないな…。
ゲームが楽しいのは分かるけど、どうも私との時間が削られている気がして、正直気に入らない。
揺らしたせいなのか、汪植がうっすら目を開けてしまった。
「容哥?えっ⁉︎」
いきなり身体を起こそうとしたので、私は落としてはいけないと思って、お姫様抱っこのままでぎゅっと抱きしめた。
「何だよコレ!何で僕抱っこされてるの」
仕方がない。
悪い大人を発動しよう。
「だって、阿植、ゲームしながら寝落ちしてたから。ベッドに運んであげようとしただけだよ?何か問題ある?」
と、耳元で小さく囁いた。
耳朶に触れながら。
「ヤダっ、それダメっていつも言ってる!」
「ふふっ。悪い大人に自分の弱点を教えるなんて、阿植は本当に素直でカワイイ子供だよね」
こういう時の丁容は、とても、とても悪い大人の顔をしている。
こんな悪い顔している丁容を見る事が出来るのは僕だけなんだろうな、と何となく思った汪植は、思わず丁容の顔にそっと指で触れた。
「何?もう怒ってない?許してくれるんだ。優しいよね、阿植」
「違うよ!なんとなく、こんな悪い顔してる容哥を知ってるのは僕だけなんだろうなって思っただけだよ…別に深い意味はないから」
丁容は膝から崩れ落ちそうになった。
「はぁ…。萌え死ぬってこういう事か…。阿植、それこそ深い意味になってしまうよ?さて、これから、この無自覚の羊はどうなると思いますか?」
「いや、先ずは下ろしてくれない?筋トレの道具にしないで欲しいんだけど」
汪植はすっかり拗ねてしまい、お姫様抱っこのままで口を尖らせている。
「あぁ、もう、なんでさ、そう、いちいちカワイイの?ねぇ、その尖らせてる口って食べてもイイやつ?」
「ヤダ。じゃあ、無自覚の羊はどうなるのさ。折檻でもされる?」
「折檻ね。なかなかのパワーワードじゃないか。でも私は残念ながら大変甘い男なんですよ、知ってますよね?」
この顔も僕しか見てないんだろうな。
汪植はいつもいつも甘やかされている事がくすぐったいのだが、それを拒否出来ない。
「うん…知ってる…僕が散々甘やかされていることも自覚してる」
「じゃあ、この後どうなるかは予想出来るんじゃないですか?」
「う、うん。何となく…分かる…」