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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    「GEGO DIG. SUMMER 2」の展示品でした。
    見てくださりありがとうございます😊

    呪専時代の、これから始まる夏五のお話。

    #夏五
    GeGo
    #呪専時代

    【夏五】通り雨 ――どうして、こうなった。
     夏油は頭を抱えた。だから寄り道なんてしないでさっさと帰ればよかったのだと隣を睨む。憎たらしい同行者は夏油とは正反対に、嬉々として覗き込んでいる。この状況を楽しんでいる。バカ、よさないか。窘めたところで聞くはずもない。
     さっさとひとりで帰ればよかった。あるいは最初からひとりでいいと強く断ることができていれば。
     どちらにしろ、後悔しても今更遅い。
     唯一の出口は塞がれ、外に出ることはできない。ただ向こう側の「彼ら」が、好奇心旺盛な見学者の存在に気づくか、さっさと終わらせてくれるのを待つしかなさそうである。


     今日の任務は、呪詛師から取り返した盗まれた一級呪物をもともと保管していた寺へ返すという、珍しく単純かつ簡単なものだった。本来任せるはずの下級生が、別の任務が長引いて帰ってきていなかったので、たまたま残っていた夏油に白羽の矢がたったのである。先方との約束を反故にするわけにはいかないという理由だ。
     急な任務、多少面倒だとは思ったが、それでも素直に受けた。半日で戻ってこられる距離である。公共交通機関でも十分行けるので補助監督に車を出してもらう必要もない。
     ひとりでいいと思っていたのだが、予定よりも早く任務を終わらせて戻っていた同級生――五条がちょうど話を聞いてしまったのである。結果。
    「俺もついてってやるよ!」
     必要ないと夏油が断る前に、そうかなら一緒に行ってこいと担任が許可してしまったのである。
     おかげで、さっさと終わらせて帰りに久しぶりに買い物でも行こうか計画は台無しである。やれコンビニでスイーツだスーパーでジュースだと寄り道して予定よりも遅い時間に寺に到着し、無事に呪物を返却した後も、今度は別ルートを辿りながらあっちへふらふらこっちへふらふら。
     結果、突然の雨に降られて、道沿いにあった小屋を借りる羽目になったのである。何に使っていたのかわからないが入り口に鍵はかかっておらず、少々立て付けは悪いが簡単に中に入ることができた。
     そこそこ大きいが古い小屋だった。中は空っぽで何もない。あちこちから風が入り込み、屋根の隙間からは雨漏りがしている。
     それでも、外にいるよりはマシである。すぐに止む通り雨だとわかっていたので、ほんの少しの時間我慢すればいいだけだ。そんな夏油の読みは当たって、数分で雨は止んだのだが――予想外のことが起こった。
     雨宿りをしようと考えたのは、夏油たちだけではなかったのだ。
     五条と小屋の中に入ってすぐ後、外で物音がした。開けようとしたのか、ガタガタ音を立てた引き戸を咄嗟に内側から押さえたのは五条である。あれ、開かないな。鍵閉まってるんじゃない?そんな男女の声が聞こえた。ここでもいいよと女が言って、それから静かになった。覗き見る穴はいくつもあり、不満げにまず五条が確認して――打って変わってにやにやした顔で手招きした。傑も覗いてみろよ、面白いもんが見れるぞ。小声で告げられた内容に嫌な予感はしたのだからやめておけばよかったのだ。しかし結局は好奇心に勝てずに覗いてしまい、息を呑んだ。
     小屋の軒は長く伸びていて、雨宿りだけなら確かに十分である。その下の、カップルらしき若い男女。年上であることは確実だ。たぶん大学生くらいだろう。同じように傘を持っていなかったのか突然の雨に全身が濡れ、髪も乱れている。雨が止むまで軒下を借りる――それだけならばよかったのだが、五条と夏油がこそこそ隠れている目の前で互いに顔を寄せ、唇が重なった。
     夏油はすぐに隙間から顔を離した。少なくとも夏油には、他人のキスを見て興奮する趣味はない。なにも見なかったのだと思うことにした。きっと雨が止めば去ってくれるはず。それまでの辛抱だ。そのはずだった。
    「すげぇ、全然気づかねぇ。盛り上がってるぅ」
     ケラケラと、一応声を潜めて笑う五条に、うんざりとため息をつく。いっそ今ここで戸を開けてやろうかと本気で考えはじめていた。ここにも人はいる、全部見てるぞと知らせるのだ。
    「なあ、すぐる」
     予想外に近くで五条の声がして、思わず体が強張った。目を開ければすぐ隣、息が触れ合う距離に五条の顔がある。
    「…なに」
    「傑はさ、経験ある?」
     何の、と尋ねかけて口を噤む。この状況で好奇心旺盛な坊ちゃんが興味を持つことなど1つしかない。
    「さあね」
    「えー、教えてくれてもいいじゃん、ケチ」
    「君ねぇ」
      視線を、逸らす。腹が立った以上に、気まずい。正直に言えば、目のやり場に困っていた。
     全身濡れた夏服はまだ乾いておらず透けており、ぺたりとボリュームをなくした白い髪が負けないくらい白い頬や首筋に貼り付いている。
     いや、そんなことはただの言い訳に過ぎない。いつも通りの姿でいたとしても、同じように意識してしまうだろう。夏油にとって五条は、そういう存在だ。
     だから、考えないないように努めた。
     それなのに。
    「もしあるならさぁ、」
    肩に手が触れる。視線を戻せば、あと少しで触れ合う距離で五条が笑う。
    「俺に、教えてよ、すぐる」






     外から小さな悲鳴が聞こえる。お楽しみの最中だったのに、邪魔をして申し訳なかったと苦笑する。
    「いってぇ…」
     思いっきり殴りやがったな、あの前髪野郎。じんじんと痛む頬を擦る。もしかしたら腫れているかもしれない。不意打ちに近いので、無下限で防ぐこともできなかった。
     殴りつけた本人はすでに、風のようにお堂から走り去っていった。
     これ、硝子に見られたら絶対笑われそう。
     慌てた様子で去っていく2つの足音を聞きながら、置いてけぼりを食らった五条は薄汚れた床に寝転がった。手加減なしに殴られたのに、怒りは沸いてこない。可笑しさの中に、驚きと困惑が入り混じる。
     本気じゃなかった。
     ほんの、イタズラのつもり、だったのに。
    「あんな顔もするんだ」
     笑おうとして失敗する。いつも真面目ぶって正論を吐く顔が慌てふためく様が見たかった。細い目が大きく見開かれた、ところまではよかったのに。

     指で、唇に触れる。
     確かに、ここに触れた。ついさっき。
     キスをしたのだ。夏油と。

     何度も、何度も、角度を変えて、そして――突然我に返った親友に殴られたのである。
     ひどくない?迫ったのは五条だけれど、先に触れたのは向こうだというのに。
     でも、怒りはないのだ。代わりにじわじわと胸の中に広がるのは。

    「――やば」

     小さな声を聞き咎める者は、お堂の中にはいなかった。



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