【まさかの出来事】ヒュンポプさきほど連絡があって、ポップが大変らしい。
そう伝令を受け、オレは慌てて執務室から飛び出した。
連絡は姫から。
今日、ポップは討伐任務だったらしい。
魔物は無事に倒せたようだが、ポップに何かあったと。
それだけを聞いて、仕事を投げ出し走り出した。
「ポップ!!」
マァムの部屋にいることを聞いていたオレは、バン!と扉を開ける。
そうしたら、マァムの「ヒュンケル!」と、何時になくオレを諌める声が聞こえた。
ズカズカと部屋に入れば、部屋にいるのはマァムと小さな少年だけ。
周りを見渡しても、ポップの姿はない。
「マァム?ポップは…」
「とりあえず落ち着いて?」
「ポップに何かあったのだろう?」
「それは…」
「おねえちゃ…」
小さな少年の声に、マァムは笑って、大丈夫よ、と頭を撫でてやっている。
肝心なポップの事がわからず、焦りが支配する。
どうしたのか、怪我でもしたのだろうか、心配が募る。
そうこうしているうちに、姫が部屋に入ってきた。
「あ、ヒュンケルもう来ていたのね」
「真っ先にきたわよ、扉壊れそうな勢いで」
「仕方がないだろう!いい加減ポップはどこにいるのか教えてくれないか」
「「ここにいるでしょう」」
「…は?」
二人が指を指した方向に居たのは、さっきの少年だった。
確かに、よく見たら面影はある。
ポップを小さくしたらまさに、というかそのままだ。
気づかないオレもオレだが、焦っていたのだから仕方ないと言いたい。
マァムに詳しく話を聞いてみたら、魔物を倒す瞬間に何かをされたらしく、その影響でポップは小さくなったらしい。
先程から、マァムにの隣に座って、ぎゅう、としがみついている。
どうやらマァムが最初に傍にいたからか、懐いているらしい。
「ポップ?」
「っ…」
オレが話しかけたら、ポップはびくりと身体を震わせて、マァムに隠れるように顔を隠してしまった。
ぴしり、と固まるオレに、マァムと姫は声を殺して爆笑している。
どうしたものかと考えるが上手く出てこない。
そうこうしているうちに、姫が、少年の前にしゃがんで、目線を合わせて挨拶をしていた。
「ポップ、でいいのよね?はじめまして、かしら?」
「…」
ちらりとポップはマァムを見て、すぐに、姫を見たらこくりと頷いた。
それに、姫は優しく頭を撫でてやって、にっこりと笑いかけた。
「私は、レオナと言うの、仲良くしてくれる?」
「…うん、いいよ」
「ありがとう、嬉しいわ」
姫の言葉に、ふにゃ、と笑いながらポップは頷いて答えている。
ちょっと待ってくれ、オレの扱いとの差は?
男だからか?
オレもしゃがみこんで、ポップと目線を合わせてみる。
「ポップ?」
「…っ」
「……」
「「……」」
話しかけたら、またびくりと身体を震わせて、隠れてしまう。
これには、流石に声を抑えきれなかったのか、二人は声を出して爆笑していた。
「どうやら、ヒュンケルは苦手意識を持たれてしまったみたいね」
「マァム、声が笑っているが」
「ごめんなさい、でも…」
「…(しゅん)」
見るからに肩を落とすオレと、くすくすと笑うマァムと姫だった。
一通り話をして、二、三日で戻るらしいから、マァムが面倒を見るという事に決まった。
先程から、ポップはマァムにべったりとくっついていて、離れようとしない。引き離すという選択肢はないから、そのまま任せようという事になったのだ。
そして、今はマァムはポップと手遊びをしている。
オレにはそういうのが無縁だったから物珍しくみていたら、おず、とまたポップはぎこちなくなる。
そうしたら、また二人は笑うのだ。
「すまない、マァム、姫!」
「な、何」
「ヒュンケル?」
耐えきれなくなったオレは、大きく声を上げて、がしり、とポップを抱き抱えると、部屋を飛び出したのだった。二人の声を後ろに聞いて。
外に飛び出せば、さあ、と風が吹き、雲ひとつない夜空。
抱き上げたままのポップを、庭園にある椅子に座り膝にのせてやる。
身体に触れる度にびくりと震えるから、慎重になってしまう。
もしもこれが、ポップではなかったら、こんなに慎重にはならないなと思いながら、それでもやはり怯えられるのには流石に悲しい。
「ポップ」
「??」
「そんなに、オレが怖いか?」
「にいちゃ、なんか、いや」
「そうか…」
やはり、本人に直接言われるのが一番こたえる。
がくり、と項垂れると、ポップは不思議そうに見上げてくる。
それに、ふ、と笑って頭をわしゃわしゃと撫でてやれば、いゃー!と嫌がるポップが可愛くて仕方がない。
「まあ、オレはポップが好きだがな」
と呟けば、ポップは、キョトンとした顔をして、すき?と聞いてくる。首を傾げるその可愛さは、いつものような面影が重なって見えた。
頭を優しく撫でてやりながら、囁くようにいう。
「そうだ、お前が好きなんだ」
そう言えば、くる、と振り向いて、見上げてくるポップに、そっと、額に口付けをしようとしたら。
「「はい、ストップ」」
と、ポップと引き離された。
ポップは姫が抱き上げて、俺はマァムに腕を引かれ引き離されてしまう。
「……二人とも、なんなのだ」
「ごめんなさい、ヒュンケル…、でも元々歳が離れていたのに、またさらに離れてしまった今はもっと犯罪よ」
「あらぬ噂が立ってしまったら、貴方も困るでしょ?」
「……」
そんな二人に守られながら、ポップが元に戻るまで、オレは接触禁止令が出たのだった。
(おわり!続かないよ!)