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    46thRain

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    46thRain

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    付き合っていないけど家族な30年後ロナドラ。

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    やるよ、お前に 二十年前、ロナルドくんが入院した時、私は見舞いに行かなかった。その時の怪我は生死をさまようものではなく、単純な足の骨折だった。ただロナルドくんは躰を強く打ち、病院へ運び込まれた際には意識がなかった。私は救急車に同乗し、意識のない彼が処置室に運ばれるのを見届け、いくばくか説明を受けてから帰宅した。それ以降、病院に顔は出していない。
     退院した彼は松葉杖をついて帰宅して決まり悪そうだった。同時に少しすねたような目でじっと私を見て「……顔くらい、見せに来いよ」ぽそりと聞こえるか聞こえないかくらい小さな声で呟いた。
     あの時、キレなかった私は世界中から称賛されてもいい。
     けれど真実を伝えるのは癪で、あいにく私は暇じゃないんだ、暴れん坊の五歳児の世話までできん、と皮肉をこめて誤魔化した。だってきっとあの時のロナルドくんには、私の気持ちなんて理解できなかったに違いないから。わかりやしない。だからそれでよかったと思っている。
     けれどあれから二十年が経過し、そろそろ五十も半ばを迎える彼は、そのせいで何やら大きな勘違いをしているのだと――今日はじめて気が付いた。

     ロナルドくんは年に一度、兄妹と私宛に遺書をしたためる。阿呆だから、彼はおめでたいはずの年始にそれを行う。縁起が悪いことこの上ない。クソ真面目な顔をして、その時ばかりは無言でさらさらと書いていく。そのよどみない筆をロナ戦の原稿に分けてやればいいというのに、本当に馬鹿だ。
     ロナルドくんが友人と出かけて留守の今、それが未封の状態でデスクの引き出しに入っていた。きっちり封を閉ざされているならいざ知らず、簡単に読める状態で見つけたからには私が読むのは当然だろう。初詣だかなんだか知らないが、封を閉じてから行けばいいものを、ロナルドくんはやはり阿呆だ。
     私は長い脚をデスクに投げ出すと、自分に宛てられた遺書を読んだ。さすがに彼の兄妹宛のものは読まない。そのくらいの分別はある。だが私宛のものなれば、私がいつ読もうが私の勝手だ。
     そして遺書を読み終えたところで、長きに亘る彼の勘違いにようやく気付いたのだった。
     いや、そもそも遺書がある時点で冷静に考えたらおかしいのだ。別に今さら、他人だとか言う気はない。三十年も同居しているうちに、家族のように思われていることは知っていたから。もう彼が兄妹とともに暮らした時間よりも長く、一緒に暮らしている。事実婚ならぬ事実家族である。そんな相手にあのお人好しが、遺書を残さないわけがない。
     実際私だって、彼を単なる同居人だと呼ぶ気はもうない。けれど――ガチャリ、と事務所の扉が開いた。
    「ただいま〜。外めちゃくちゃ寒い……ってぁあああ⁉︎」
    「うわっ、うるせ」
     あまりのやかましさに耳の先がざらざらと崩れる。けれどロナルドくんはおかまいなしに、私を指差して叫ぶ。
    「ドラ公っ! テメェ、何勝手に読んでんだ!」
    「いや、こんなもん封もせずにしまっておく君が悪いだろ」
    「普段デリカシーなしゴリラとか、人を罵るのはどこのクソ砂さんですかねぇ?」
    「さーてどこのブェーッ!」
     未だゴリラは健在で、拳のキレもいい。私の躰は椅子の上に散っていく。ロナルドくんは人前で取り繕うことは、ちょっと上手くなった。だが本当に余裕がなければ、いつでも簡単に剥がれるメッキだと私は知っている。
     私から遺書を奪うと、彼は大事なものを扱うように封筒に入れた。馬鹿だなァ、とそれを眺めた。まったくもって阿呆らしい。くだらないメッキで飾って、そんなものを書く暇があれば彼は本質を見るべきなのに。
    「ねぇ、ちょっと話そうよ」
    「……内容の異論は聞かねぇぞ」
    「構わないさ。でも聞いておいたほうが、君も無駄なことをしないで済むと思うよ」
     ロナルドくんが眉をひそめた。じっと私の腹の内を見定めようとするみたいに、真っ直ぐ見つめて「……わかった」と頷く。
     そのまま二人で予備室へ向かった。いつからか、本当に二人きりになりたい時は、決まってここに訪れるようになっていた。だって事務所では二人きりになんてなれやしない。いつだっておかしな客が飛び込んでくるから。もっともそれとて、日常を彩る最高のスパイスではあるのだけれども。
     予備室の扉を閉ざせば、ロナルドくんは仁王立ちをしたまま「それで?」と先を促してきた。待てのできないゴリラだ。まあ、いつものことでもある。
     私は配信用の椅子に腰掛け、脚を組んでロナルド君を見上げた。相変わらず無駄にハンサムで同世代の人間に比べれば若々しい。だが昔と違い、その膚からは瑞々しさが失われつつあり、彼は間違いなく歳を取っている。老いている、確実に。私は口を開いた。
    「君が遺書に何を書こうと確かに君の勝手だが、さっきも言った通り、無駄だからやめることをお勧めするよ」
    「……何がどう無駄なんだよ」
    「そうだなァ、全部としか言えないけれども」
     ピクリとロナルド君の片眉が跳ね上がる。私に揶揄われているとでも思ったのだろう。けれど昔よりは多少成長した彼はすぐには暴力を振るわず、じっと私を見据えた。
     嫌だな、私たちらしからぬ空気だ。さっさと終わらせよう。
    「ほら、ここはドラルクキャッスルマーク2だろ?」
    「今は俺の城じゃボケ」
    「まあ、聞きたまえよ。かつて私の居城であった埼玉の城は、あくまで御真祖様の城だった。だから城や調度品が破壊されても、正直そこまで私にダメージはなかったのだよ。もちろん、それなりに気に入っていたから、ショックは受けたがね。けど私個人の物である棺桶とか、据え置きハードはほぼ無事だったし、一度死ねば解消できる程度のショックだ」
     ロナルドくんは腕を組んで、じっと私を見ている。今さら昔の話を掘り返した意図が掴めないのだろう。私を見据えるその瞳の色だけは若い頃と変わらないが、もっと歳月を重ねれば濁ってしまうのだろうか。それはあまり見たくないけれども、目を逸らすのはもっと癪だから、きっと私は見るのだろう。
    「でも、この事務所は君のものであると同時に私の城だと、私は認識している。事実ではなくて認識の問題ね。だからまあ、喪ったら相当なダメージを受けるだろうね。軽く数ヶ月は棺から出られないかな……で、君はその遺書に書いた通り、死後は私に事務所の権利を正式に譲る気なのだろう?」
    「……そんなダメージ受けるなら、無駄とか言ってねえで、なおさら受け取れや」
    「うん、ただ私が喪失の衝撃を受ける条件も、人間の決めた権利とかはほとんど関係なくてね。私が『それ』を私の物だと思って、執着しているか否かが重要なわけだ。まあ要するに、だ」
     言葉を一旦切った。見上げた彼の瞳に私の姿は映らない。けれど私の瞳にはロナルドくんの姿がくっきりと映っているだろう。私は彼に告げた。
    「君が死んだら私も死ぬから、その遺書の中身は無駄ってこと」
     しん、と沈黙が流れた。防音の効いた室内は私たちが音を発しなければ不気味なほど静かで、いっそ耳鳴りがしそうだ。ロナルドくんは瞳をこぼれ落ちそうなほど見開いていた。美しい虹彩をゆらゆらと揺らして、何か言いたげに唇をわななかせる。それでも言葉は生まれないから、私は代わりに続けた。
    「死ぬ……だとわかりにくいかな。消滅と言えば伝わるかい? 言っておくが、後追いとかそんなものではないぞ。なに、単純な話だ。ロナルドくん、この事務所と同じように、私の中では君もすでに、私のものなのだよ」
     脚を組み替えて「それで、だ」と続ける。
    「靴下一つ盗られて弱る私が、三十年以上執着した人間を亡くして、生きていられると思うのかね? ……無理に決まっているだろう。ちゃんと、みくびりたまえ」
     ひゅっとロナルドくんの喉が鳴った。顔色が我々のように青白くなっていく。かわいそうだと思った。けれど真実は変えようがない。
     二十年前、ロナルドくんが入院した時、私は見舞いに行かなかったのではない。行けるわけがなかったのだ。だって私はロナルドくんが入院中ずっと――塵のままだったのだから。
     骨折して、足の処置は終わったが意識が戻らない。頭の打ちどころが悪かった可能性も――そんな話を病院で聞いてふらふらと帰宅して、入院セットを作っておいてやらねば、と考えたところで塵になった。躰を形作ろうとしてもまるで上手くいかず、塵のままどうにか棺の中に避難した。完全に再生できるようになったのは、それこそロナルドくんが退院する日になってからで、それなのにどうしたら見舞いになどいけるものか。
     でも、言いたくなかったから、当時は言わなかった。若造には私の気持ちなど、わからないと思った。教えたくなかった。まさかそのせいで、こんな勘違いをしているとは思いもしなかったけれども。
    「……まあ、そういうことだから私宛に何か遺す必要はないよ。話はそれだけ」
     立ち上がろうとしたところで、手首を掴まれた。
    「……俺が、お前を……お前たちを、殺すっていうのか?」
     顔を青褪めさせるロナルドくんの声は、気の毒なほど震えていた。想像もしていなかったのだろう。いっそロナルドくんが死ぬ時まで黙っておいてもよかったのだけれど、あんなものを書くから悪い。
    「そうとも言えるかもね。でも、私は悪い気はしないよ。あの退治人ロナルドがハントした最後の高等吸血鬼として、有終の美を飾るのなら――」
     ガンッ! ロナルドくんの拳が壁に打ち付けられた。もちろん私は音で死んだ。躰を復活させながら見たのは、骨が軋むほど強く拳を握りしめたロナルドくんの姿だ。
    「……ちょっと出かけてくる」
     感情を押し殺したような低い声で、ロナルドくんはそのまま部屋から出て行った。一人になりたいのだろう。止める理由はどこにもない。ゆっくりと躰をすべて復活させると、椅子に腰掛け直す。
    「……やっぱり、内緒にしておいたほうがよかったかなァ」
     でも、それは三十年以上共に暮らしておいて薄情な気もしたのだ。呆れるほど健気にロナルドくんは自分のものを、私に遺そうとしていたから。いらないのだと、そんなことに割く時間があるのならば、この馬鹿馬鹿しくも愉快な日々を笑って過ごしたい。きらめく一日一日を最期の時まで彼と一緒に踊っていたいのだ。
     彼を恨む気持ちもない。二十年前のあの時だって驚きはしたけれど、納得もしてしまったのだから。だってたしかに私は、ロナルドくんを愛している。家族愛にも性愛にも似て非なるその愛の名前こそ明確に定義はしていないが、否定しようがない事実だ。そうでなければいつまでも彼と一緒に暮らすわけがない。
     ロナルドくんお人好しだから、今ごろ罪悪感に苛まれているのかもしれない。それはなんだか面白くない。だってまるで私の愛を否定されているみたいじゃないか。帰ってきても暗い顔をしていたら、おやつはセロリブレンドにしてやろうか。それがいい、そうしよう。
     肩に流れていた髪をそのまま背中に流して、あれ、と気が付く。先ほどまでリボンで結んでいたのに、ゴリラが壁を殴った衝撃波で解けてしまったのか解けている。辺りを見渡したものの赤いリボンは見つからなくて、あ、と思った時にはざらりと耳の先から崩れていった。
     一度復活してもぞわぞわとした焦燥感にも嫌悪感にも似た感覚は拭えず、必死で床を探す。あれは十年前にロナルド君がプレゼントしてくれたものだ。彼らしくないほどセンスのいい品で、私のお気に入りだった。こんな狭い部屋で失くすわけが――ふっとロナルドくんが部屋を出て行った時のことを思い出した。あのきつく握られた拳、その隙間から赤いものが見えていたような、気がする。
    「……何の嫌がらせだ、ロナ造め」
     口では悪態を吐いてもロナルドくんが持っているとわかれば、ぞわぞわとした感覚は消えていく。まったくあのゴリラはいったい何がしたいのやら。ため息を吐きながらゆっくりと立ち上がって、リビングに向かった。

     一通り夕食を作り終えたところで、ロナルドくんは帰宅した。思いの外早い帰宅だったし、出て行った時と違い、彼の表情には憂いの影など残っていなかった。ただ、何かに驚いたように目をしばたかせ、私を見つめている。
    「おかえり。私に返すものがあるんじゃないのかね」
    「あ……ああ、」
     歯切れ悪くリボンを差し出してきた。それを受け取って髪を結い直していると「リボンは大丈夫なんだな」とぽそりと呟かれる。その言葉にこめかみがひきつった。
    「大丈夫じゃないが⁉︎」
    「でも今、普通に料理してんじゃねえか」
    「というか何? もしかしなくても、私がダメージ受けるってわかっててやっただろ!」
    「そうすりゃ逃げねぇかなって……」
    「ファーッ! 意味わからん! なんで私がゴリラから逃げる必要があるというんだ! 今日はお前の飯はセロ――」
    「ドラ公」
     皆まで言い切るより前に遮られた。つい口を噤んだのは、彼の眼差しが息を呑むほど真っ直ぐだったからだ。ロナルドくんの唇がわなないて、告げる。
    「――俺と結婚して、俺を吸血鬼にしてくれ」
     そう言って彼がポケットから取り出したのは、ベルベットのリングケースで――その中には美しい指輪が収まっていた。
     二人の間を沈黙が流れた。本気で目の前の光景が理解できなかった。私とロナルドくんは、三十年間一緒に暮らしているものの恋人なんぞではない。つまり、こんな言葉をもらう覚えはない。
    「…………なんの冗談だね? 私は巨乳の美女でもなければ、君の恋人でもないが」
    「わかってるよ。でも本気だ。もともと、お前が笑って暮らせればいいって思ってこの家も遺すつもりだったんだよ」
    「……だから? 安易に結婚して吸血鬼にしろと?」
     深く息を吸って、目の前の男を睨みつけた。
    「馬鹿じゃないの? あいにくだが、同情とかそんなものでくれてやるほど、私の血も誇りも安くはないんだ」
     沸々と腹の奥底から怒りが湧き上がる。何よりも不愉快なのは――嬉しいと少しでも思ってしまった自分だ。
    「同情じゃねえよ。ただ俺のわがままだ」
    「わがままとやらで性癖でもないおっさんと君は結婚するのかね? そりゃ私は確かに高貴で可愛いが、見た通りガリガリの男だ。君、興奮なんてしないだろ?」
     結婚イコール性行為に必ずしも結びつくものではないことは百も承知だ。だが、もしもロナルドくんと結婚をした場合、私は彼が他の人間と性行為することを許せないだろう。だって結婚したら、男としての彼も私のものだ。それなのに私が知らない一面を他人にさらすことなど、到底受け入れられない。
     そもそもともに暮らしている同居人ロナルドくんが死ぬだけで、自分も死ぬのだ。結婚相手が一部でも他人に奪われて、死なないわけがない。
    「結婚に色事は必須ではないかもしれんが、私は結婚相手の不貞を許す気はないからね。というか死ぬ。つまり私と一緒になったら君は一生童貞だ。わかったなら――」
    「あのさ」
     ロナルド君は指輪を差し出したまま、照れくさそうに片手で頬を掻いて言った。
    「ごめん……お前に興奮したことは、ぶっちゃけ今まで何度もあるんだわ」
    「…………は?」
     思わず間の抜けた声を上げた。ロナルドくんをガン見して、続けて自分の躰を見下ろす。すとんと足下まで見渡せる絶壁だ。彼の大好きなおっぱいは、もちろんどこにもない。
    「……なんで?」
    「え、なんでって言われても……エロいから?」
    「まるで私が卑猥みたいな言い方するなIQ3猿ルド!」
    「いや、実際エロいし」
    「どこがだ! 生きてりゃなんでもエロいとか抜かす気か⁉︎ 今ならまだ間に合うからプロのお姉さんのところにでも行ってこい!」
    「行かねえよ! つうか普通にてめえがエロいんだよ! エプロンしてるとことかゲームしてる指先とか脚の隙間とか肩にかかった髪払う時とか……とにかく、そういうところがエロくて抜いたことはもうあるって言ってんだよ!」
    「いやいやいや! 聞いてないが⁉︎ 君さっき興奮したって言っただけで、おかずにしたなんて一言も抜かしてないが⁉︎」
    「あ」
     ロナルドくんは、やっちまった、みたいな顔をするが正直私のほうが混乱しきっている。え、君今までそんな目で私のこと見てたの? いつから? 気にはなるものの聞いたら終わりな気がするし、そもそも話の本題はそこではない。
    「……まあ、とにかくそういうことだから、結婚したら童貞卒業させてほしい」
    「は⁉︎ 要求が上がってんだが⁉︎ 意味わからん! というか私に嫌がられるとか思わないのかね⁉︎」
    「なんで? ドラ公、俺の顔も躰も好きだろ」
     実にあっさりとロナルドくんが言いやがるから、私は脱力してそのまま砂と化した。事実だと疑わない様子に、育て方を間違えたと思うべきか、よく育てたと思うべきか自分でも判断がつかない。三十年前の若造であれば、間違いなくこんなことは言えなかったというのに。
     よろよろと再生すると、調理台に手をついて立ち上がった。
    「……その自信は、どこから?」
    「どこって、普段からお前が言ってんじゃん。俺のことハンサムだの整ってるだの、いい躰してるだのって」
     なるほど、確かに身に覚えがある。昔のロナルドくんは言われると赤面して可愛らしくて面白かったが、今は平然と認めている。おかしい、どうしてこんなことになっている。確かにあったはずのシリアスな空気はもうどこにも残っていない。なぜなら目の前のロナルドくんは、私が指輪を受け取ると信じて疑っていないのだから。
    「なぁ、お前が好きな顔と躰、お前だけが好きにしていいんだぜ? 好きなだけ見ていいし触っていい。その権利だと思ったら、結婚ってよくねえ?」
    「ぐっ……ぎぃ〜‼︎」
     実に卑怯な言い方だと思った。こちらの執着心をものすごく刺激してくる。しかし、これまで私はロナルドくんを性的に見たことはない――だがありかなしかで言えば、ありである。何しろ彼は美しい。吸血鬼は美しいものが好きだ。美しい彼の顔が快楽に歪むところは――見てみたい、と思ってしまったらもう、駄目だった。
    「それにお前、さっきから俺と結婚するのが嫌だ、とは言わねえじゃん」
     勝利を確信したロナルドくんが私の左手を勝手に取った。するりと薬指に指輪がはめられる。というかなんで彼は私の指のサイズなんてわかるんだ。怖いから聞かないでおこう。寝ている間に測られていても意味がわからなくて怖いし、長年一緒にいるからわかるなんて言われても不整脈で一度死ぬ。
     きらりと薬指で白銀が輝く。ロナルドくんは指輪の上から私の指に口づけて、ニッと歯を見せて笑い、高らかに宣言した。
    「一緒に死なせてなんてやんねえよ、ばーか!」
     その瞬間、私の二十年に及ぶ覚悟は、音を立てて破壊されてしまった。まるで彼が私の城を壊した時みたいに、実に呆気なく。
     指輪よりもきらきらと輝く笑顔はやはり吸血鬼が執着するほど美しかったから、とりあえず私は腕を伸ばして、意趣返しに彼のファーストキスを奪ってやることにしたのだった。
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    46thRain

    DONE退治人を引退し転化予定の八月六日のロナドラSS①です。
    ソファ棺開催、そしてロナくんお誕生日おめでとうございます!
    ②(https://poipiku.com/5554068/9163556.html)
    転化前50代の8月6日「――君を転化する日だが、明後日の八日でもいいかね」
    デザートのプリンを食べ始めたところで唐突に言われたものだから、ロナルドは危うくプリンをテーブルにこぼすところだった。スプーンから落ちかけたそれを慌てて口に運んで味わう。いつも通りうまい。ごくりと飲み込んでから、八日ねぇ、と頭の中で呟く。
    転化自体は異論ない。むしろ結婚してから二十年がかりでやっっとドラルクを説得したのはロナルドのほうだ。
    つい先月退治人も円満に引退したし、そろそろ本格的に決行日を定める必要もあると思っていた。ただ気になったのは、ドラルクがわざわざ八日を指定したことだ。
    「構わねぇけど……なんで誕生日に?」
    明後日の八日はロナルドの誕生日だった。独りだった頃はただ事実として歳を重ねる日に過ぎず、忘れていることも多々あったがドラルクが来てからは違う。毎年あれこれと計画して祝ってくれるものだから、いつの間にかその日が近付くとそわそわと楽しみになっていた。それこそもう還暦を迎える今なお。
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