2人して溶けていく暑い。とにかく暑い。
蛍光町にも夏が訪れ、学校は夏休み。
学校がない分朝はゆっくり寝ることができるし、光クラブの活動も暑さで作業が進まないのもあり、暑さに弱い機械の点検を毎日交代で行くだけで、全員での活動は少ない。その代わり、夏休みの宿題が決められた日付までにできていないといけないので気は抜くことはできない。それでも、まだ14歳の俺らにはこの休みは毎年の楽しみでもある。
母やタマコが出かけている今、付き合ったばかりの恋人カネダとこの暑い部屋の中で2人っきりである。宿題一緒にしようとカネダの方が持ち出してきたものの、耐え難い暑さと恋人と2人っきりと言う状況に集中などできるわけがない。今はやっていたはずの宿題は手をつけず、2人して下敷きでパタパタ仰いで暑さを凌ごうとしている。
「本当に暑いな…汗が止まらねぇし…カネダ暑いの苦手だろ?大丈夫か?」
昔から3人で遊んでいても、暑さにやられ鼻血が出たり気分が悪くなりやすいことを思い出しカネダに聞く。実際、今も普段の青白い肌が赤くなっており辛そうだ。
「ありがとう…でも大丈夫だよ。暑いけど昔よりかは耐えれるようになってるから」
タミヤくんは心配性だな〜と言ってカネダは笑う。
笑った顔を見れば、長い前髪が、汗でくっつき邪魔そうだ。今ぐらい2人しかいないのだから、髪を上げればいいのに。
「カネダ前髪汗でくっついて邪魔だろ?今だけでも前髪かけたらどうだ?」
「えっ」
そう言いながらカネダの汗で濡れた前髪を耳にかけてやる。俺が髪を触ったことに、カネダはびっくりした顔でこちらを見る。さっきより少し顔が赤くなっている。そんなカネダをよそに、なかなか見ることのないカネダの右目をみながら「どうせならタマコのピンで止めた方が邪魔にならないか」と考えながら見ていた。
すると、不意にカネダが目を瞑り唇をムッとさせた。
もしかして、キス待ちと勘違いされたのだろうか。
そのつもりはなかったが、ギュッと目を瞑り、唇を突き出すカネダの顔はずっと見ていたいぐらいに自分の中で何かの音が鳴っていることがわかる。そうだ、恋人が待っているのだからしないわけにはいかない。なかなか行動しない俺に少し目を開けようとするカネダ。今するから…の意味を込めて開けようとした右の瞼に軽くキスをする。そちらにされると思っていなかったカネダは少しぴくっと反応し、顔の汗が頬をつたって落ちた。
暑さで赤みをおびた頬、キスされたことで固く閉じられた瞼、いつされるかわからずぴくぴく動く唇。
そんな可愛い恋人と2人っきりでキスだけで終われるだろうか…と思いながら、健気にキスを待っているカネダに唇を重ねる。最初は短く、そして離れればまだ足りないと縋るようにもう1回。次は俺からカネダの舌、唾液、息を奪うように深く、お互いの汗が、鼓動が、気持ちが全て一緒になって溶けていくように。
これも、暑い日の俺らの夏の1つの思い出だ。