恥ずかしいことも苦しいことも我慢できる。ずっとシルバーアッシュに愛されるなら。
もし寄り道しても、最後にはちゃんと自分のところに戻って来てくれたらいい。
ドクターにはシルバーアッシュしかいないので。
フォーク病は世間から差別の対象としてみられている。
味覚が弱いと言い訳して、ケーキ病の患者を襲う気味悪い人間というイメージ。
勿論病気だから好きこのんでかかっている訳じゃないが他人の思考に蓋はできない。
世間一般で『厄介者』というカテゴリの人間を愛する要素は何処にあるんだろう。
地位も名声も、顔の良さまで備えたシルバーアッシュなのに。仕事中に選手が噂話をしている声が聞こえた。
フォーク病の人間は何を食べても美味しいと答えるんだ、と。
「なんかゴミ箱みたいだよなぁ」「それな。腐ったモンも喰うとか気持ち悪いよ」
バインダーを持つ手が震える。ゴミ箱、気味悪い…今までなら何を言われても良かった。
でもシルバーアッシュがいる現在はフォーク病への噂話は敏感に反応してしまう。
周囲に関係がバレたとき、迷惑をかけてしまうのもある。
しかし一番大きいのはシルバーアッシュも「そう思っている」かもしれないから。
非常に辛いもの、見た目からじゃ腐敗してると分からないもの。食べると勿論お腹を壊す。
普通なら食べる前に気がつくし口に入れたら慌てて吐き出すらしい。でもドクターには分からない。
食べ物はいつも薄い味しかしないからだ。それも薬で補ったものなので、こんな味なのかと食べ進めてしまう。
噂話をする声を身を潜めて聞くうち、更に自信が削がれて不安が増す。いつもシルバーアッシュとの行為のとき、快感と食欲が満たされる前にだ。羞恥と苦痛を覚えて震える。
シルバーアッシュを受け入れて、愛されるのは嬉しいけども体のコントロールが効かなくなり怖い。きっと本能的に過ぎる快楽と愛情が恐ろしいのだと分析してみる。
それでも好かれるためだと自分に言い聞かせていた。甘くて美味しいシルバーアッシュをつなぎ止めておく為には、多少の我慢が必要だと。だいたい自分の体液を欲しがる人間なんて気持ち悪いだろう。確かにゴミ箱みたいだ。
自慰をしたときに出した精液をティッシュで拭い捨てている箱となんらかわらない。
性行為のみな相手を乱暴に抱いたときオナホ扱いなんて言うけれど、それよりも悪いゴミ箱とおなじ。
ドクターは足音を消して、選手が会話している場を離れた。
どうにか自分の部屋まで帰り、ドレッシングルームに滑り込む。
バインダーを床に投げ出して、身を屈めて嗚咽を飲んだ。
「うっ、うぅ…」
シルバーアッシュは、いつ気がつくんだろう。
自分が選んだ人間がゴミ箱と同じだって。もしかしたら最初から分かってたのかもしれない。けど、それだけは信じたくなかった。
仕事を円滑に進めるため、フォーク病のドクターを上手く活用してるとしても信じたくない。でも純粋な愛情なら、何処に魅力を感じてるのだろう?
(…わからない。でもシルバーアッシュに嫌われたくない)
好かれる努力はしていたけど、もっとしないと。肩を震わせながらドクターはドレッシングルームの白い床に涙を溢した。
つづくのかな