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    nantonac64

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    漫画シナリオ

    【オリジナル漫画】『these stones』時計編 シナリオ7漫画シナリオ



    [アンナ療養病院の庭のような場所。一本だけ大きく育った木の下で、マフィーが膝に顔を埋めた姿勢で座り込んでいる。そこに芝生を踏み鳴らし、一人の男が近寄った。ジーニアスである。ジーニアスはマフィーを見て、一瞬だけ眉を下げる。マフィーが顔を上げる。]

    マフィー「ジーニアスさん…………」
    ジーニアス「やぁ、マフィーちゃん。木陰も似合う相変わらずかわいーい女の子だねぇ」
    マフィー「…………」

    [マフィーはキョトンとした顔でジーニアスを見つめた後、その顔に浮かぶ表情がだんだんと泣きそうな表情に変わっていった。ジーニアスは一度目をつぶると、マフィーの隣にドカッと腰を下ろす。ジーニアスは建物をまっすぐに見る。]

    ジーニアス「……君の親父さん、そんなに悪いのかね?」
    マフィー「………ちょっと前に、今の医療技術じゃどうにもならないって言われたの」
    ジーニアス「…………」
    ジーニアス「そうか。……辛かったな」

    [マフィーはまた顔を膝に埋める。彼女は歯を食いしばり、体を震わせる。]

    マフィー「……辛い…?」
    マフィー「私が辛いから、なんだって言うの……?」
    マフィー「本当に辛いのはお父さん? それだって私の妄想でしかないじゃない!」
    マフィー「お父さんはいつだってそうだよ!」
    マフィー「お母さんが死んだときだって、……私の、ことばっかり、で……」

    [マフィーはハッとなる。ジーニアスの方を見る。ジーニアスは微笑んでこそいるものの、なんとも言い難い表情を浮かべていた。]

    マフィー「…ご、ごめんなさい、いきなり……」
    マフィー「む、迎えに来てくれたんだよね? 私、お父さんにひと声かけて……」
    ジーニアス「マフィー=アップリー。」

    [立ち上がろうとしたマフィーは、それをやめてジーニアスをまっすぐに見る。]

    ジーニアス「それが君の本音だろう。」
    ジーニアス「例え親子といえども、その真意なんぞ当人にしか分かり得ない。」
    ジーニアス「人は理解し得ないものを恐れる。恐れるからこそ、悩み、怒り、苦しむ。」
    ジーニアス「そして、答えのないものに直面すれば、耐え難い痛みに蝕まれる。」
    ジーニアス「しかしなぁ、マフィー=アップリー。他者に対して心を痛めることに、罪を感じるかね?」
    マフィー「………ジーニアスさん……」
    マフィー「たまに難しいこと言うよね」
    ジーニアス「ならば、言い方を変えよう。」
    ジーニアス「悲しいと思うなら、思いっきり泣いてやりなさい。」
    ジーニアス「怒りを感じるなら、思いっきり怒ってやりなさい。」

    [ジーニアスは、自らの胸に手を当てながら言う。]

    ジーニアス「親父さんの優しさと、決意がわかるのならな。」
    ジーニアス「でも、お前さんたちはそれを噛んで飲み込めるほど、互いのことを伝えあったことはあったのか?」
    ジーニアス「君は、何を知らず、何を知っているのか。それを考えたことは?」
    マフィー「……………」

    [自分の胸に手を当てるマフィー。ややあって、彼女は立ち上がり、病院に駆け出そうとして、一度ジーニアスに振り返る。]

    マフィー「……ありがとう、ジーニアスさん」

    [建物の扉に向かって走っていくマフィーを見つめるジーニアス。]

    ジーニアス「マクス=アップリー……。」
    ジーニアス「このまま、何もなく……行ってほしいのだがな……」

    [何となしに病院の窓を見るジーニアス。窓から見える院内の廊下を歩く人がいる。ジーニアスは目を見開く。そこを歩いている人物はハタフク医師とレンカだった。]

    ジーニアス「…………」
    ジーニアス「レンカ=ベルドリッチ……」
    ジーニアス「マクス、お前には、そんなにも時間がないのか……」


    [立ち上がり、病院に向かって駆け出すジーニアス。]

    [場面転換。街への道を歩くクリスとマッキンリー。クリスはマッキンリーの様子をうかがいながら、口を開こうとしてはやめた。やがて、決意したように前を向いてしっかり歩き始めたとき、マッキンリーがクリスを一瞬だけちらりと見る。視線を戻したマッキンリーは口を開く。]

    マッキンリー「クリス」
    クリス「えっ、はい」
    マッキンリー「聞きたいことがあるんだろ」
    クリス「!」

    [クリスは体を震わせたあと、口を引き結んで立ち止まりかける。]

    クリス「…………マクスさんの、」
    クリス「あの、あれは……」
    マッキンリー「………………」
    マッキンリー「ああ。お前に見せたら、すぐわかると思ったよ。」
    クリス「じゃあ、やっぱり……」
    マッキンリー「………」
    マッキンリー「……ああ。あれは……」
    マッキンリー「『ノムレスの心臓』だ。」

    [クリスは顔を顰める。]

    マッキンリー「義兄さんは、心臓が悪くてな……」
    マッキンリー「心臓に小さな『ノムレスの心臓』を取り付けて、血液の循環を促してるんだ。」
    マッキンリー「『人工透石』という技術らしい。」
    クリス「人工…透石…」
    マッキンリー「………『ノムレスの心臓』は、今でこそ先の大戦で使用された、言わばエネルギーの塊だ。」
    マッキンリー「ただ、何もそうした戦争の道具としてだけじゃなく……」
    マッキンリー「医学分野にも使われていたんだとさ。」
    クリス「……………」
    マッキンリー「その中で偶然……奇跡的に出来た技術の一つが『人工透石』……なんだと。」
    クリス「でも、ノムレスの心臓を植え込まれた人たちは……」
    マッキンリー「……俺たちが見ている限りじゃ、人としての意識はなかった。」
    マッキンリー「だから、偶然で奇跡なんだよ。」
    マッキンリー「だが、確立されなかった。リスクが高すぎたからな」
    クリス「…………成功例が少ない、ってことですか」
    マッキンリー「分からねえ。公表されてないからな」
    クリス「じゃあ、……臨床に関わった人たちは……」
    マッキンリー「………………」
    クリス「そんな危ない技術を、どうしてマクスさんに……?」
    クリス「それに、実用化されなかったのに何で……」
    マッキンリー「…………マクス義兄さん自身が望んだんだ」
    マッキンリー「この心臓をいつか止めるとしても、やり残したことがまだあるから……ってな。」
    マッキンリー「そして、その技術をマクス義兄さんに施すことができたのは……」
    マッキンリー「……………」
    マッキンリー「ああ、着いたぞ。」
    マッキンリー「ラインライクの街だ。」

    [マッキンリーは街の奥へと進んでいく。それを追いかけるクリス。街の人はすれ違うマッキンリーに挨拶をしたり、クリスに手を振ったりする。やがて大通りを抜けて人が掃けて来たとき、マッキンリーはクリスの方に視線を向け、また前を向いた。]


    マッキンリー「……クリス、『十五番隊』を知っているか」
    クリス「へ?」
    クリス「……十五番隊……、欠番になったっていう?」
    マッキンリー「ああ。当時は最強を誇り、『心臓』の回収にも誰も抜くことができない功績を上げた、幻の隊……『ノエシス隊』」

    [マッキンリーは立ち止まり、クリスの方を向く。]

    マッキンリー「その隊長が俺の姉さんなんだ」
    クリス「それって………」
    マッキンリー「義兄さんは姉さんの功績があって、人工透石の提案をされたらしい」
    クリス「…………」
    マッキンリー「…………今……」
    ???「おや! なんだいなんだい! ずいぶん陰気臭い顔してるじゃないさ」
    マッキンリー「痛ってぇぇぇッ」

    [快活な声とともにマッキンリーの背中が何者かにぶっ叩かれる。マッキンリーはあまりの痛みに座り込む。驚いた二人が見るとふくよかな体型の女性が腕を組んで仁王立ちしていた。]

    マッキンリー「す、スーラおばさん」

    [スーラのげんこつがマッキンリーの頭に容赦なく落とされる。]

    マッキンリー「痛ってぇッ!」
    スーラ「お姉さんと呼べといつも言ってるだろう! 幾つになっても学習しない子だね! まったく!」
    クリス「スーラさん、こんにちは」
    スーラ「こんにちは、クリスくん。マッキンリーのバカが世話になってるね!」
    クリス「えっ」
    マッキンリー「姐さん、どっちかって言うと俺が世話して……」
    スーラ「それで? 二人は仕事で来たのかい?」
    マッキンリー「姐さん……俺の話聞いて……」
    スーラ「いつまで情けない顔してるんだい! シャキッとしな、シャキッと!」
    クリス(あ、相変わらずパワフルだなぁ……)

    [頭をさすりながらマッキンリーは立ち上がる。]

    マッキンリー「あー、姐さん? 丁度いいところに来てくれたんで聞きてぇことがあるんだけどさ」
    スーラ「なんだい?」
    マッキンリー「サドマン=スニキットって人の奥さんを知らないか?」

    [スーラは呆けたような顔になる。その後、その表情があからさまに曇る。]

    スーラ「……知ってるよ。」
    クリス「本当ですか」
    スーラ「その人と会ってどうするつもりだい? ……いや、質問が違うね。」
    スーラ「その人に何を言うつもりだい」
    クリス「………え……と」
    マッキンリー「………………サドマン=スニキットは亡くなりました。その遺留品をご家族に返しに来たんです。」

    [スーラはマッキンリーを見る。そして目をそらした。]

    スーラ「そうか……。」
    ???「………スーラ……さん………」

    [路地の方からか細い声が聞こえる。スーラたちがそちらに目を向けると、細身で前髪の長い女がスーラたちの方に歩いてきた。]

    スーラ「タリーシャ……。」
    タリーシャ「……いま………話していたの………ナタリー……さんの……こと……ですよね………?」
    クリス「タリーシャさんも…ご存知なんですか?」
    タリーシャ「ナタリー……さん……と……私……仲良く……して……貰ってた……」
    タリーシャ「だから……お見舞いに……行ってた……んです……」
    タリーシャ「………サドマン……さん……いなく……なってから……ナタリー……さん……憔悴……してるから……」
    スーラ「……そういうことだ。……だから今は、勘弁してやってくれないかい……」
    ???「いえ、そうもいかないんですよ。」
    ???「どうにも、話が変わってしまったので。」
    マッキンリー「さ、ササラギ お前、なんでこんなところに」
    ササラギ「私のセリフですよ。どこほっつき歩いてたんです?」
    マッキンリー「そりゃ、お前もだろ……」
    ササラギ「ご無沙汰してます、スーラさん、タリーシャさん」
    タリーシャ「ご無沙汰……でも……どう……したの……?」
    スーラ「…………話が変わったってのは?」
    ササラギ「ナタリー=スニキットは死にました。すでにこの世にいませんよ」

    [全員が驚愕する。]

    ササラギ「先程、ロマンシーが死亡を確認したので」
    タリーシャ「で……でも……私が……会ったのは……」
    ササラギ「ええ。タリーシャさんが訪れた後」
    ササラギ「ナタリー=スニキットは殺されました。」


    【七話終了】







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