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    なつゆき

    @natsuyuki8

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    なつゆき

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    #ジャクデュジャク

    アネモネ 2 翌日、輝石の国の警察音楽隊が鏡を使って薔薇の王国にやってきた。ジャックも合流し、一行は時計の街のラビット国定公園へとやってきた。既に屋台は盛況で、お祭りは例年以上の期待感がふくらんでいた。宣誓台のふもとに、派手なデザインの、サーカスが使用するような大きなテントが張られている。たくさんの作業員たちが大声をあげながら設置を行っていた。天候が悪くても演奏は予定通り行えるように、今回はこのようにテントを設置することになったのだ。テント内でも観客にしっかり音楽を届けるため、音の響きなどの調整のための専門魔法士も付いてきている。
     テントの中でリハーサルを行う。リハーサルの時間はこの一回だけの予定で、みんな必死で演奏と調整を繰り返す。
     休憩が挟まれて、ジャックはちら、と入り口付近にいるデュースへと目をやった。
     昨日会った青年のマジカメのメッセージのスクショ画面は、サイバー犯罪対策の部署へと解析に回すことになった。
    「犯罪を犯したことのある人間を調べて、手当たり次第に送っているのかもしれないが、もしかしたら僕の関わった事件の関係者ばかりを狙っている可能性もある。ただのいたずらならいいが……」
     そう言っていたデュースは今、普段と変わりなく、警備の仕事を淡々とこなしている。ジャックの視線に気づいたかと思うと、隣にいた薔薇の王国側から派遣されたらしい警備の警察官を連れてきた。どうやらこちらも知り合いらしく、明るい赤毛の、浅黒い肌の男に元気よく挨拶をされた。
    「え、アニキのお仲間ですか?」
    「アニキじゃないからな!」
     デュースは必死に喚いている。何やら、学生時代にホワイトラビット・フェスに参加したときに、一悶着あって結局懐かれてしまった男らしい。彼はデュースに憧れを抱き、ついには警察官になったのだという。
     彼はデュースとジャックを交互に見遣る。どうやら自己紹介をした方が良い、と思ってジャックは口を開いた。
    「俺はデュースの……同僚で警察官の、ジャック・ハウルだ。警察音楽隊の隊員でもある」
    「演奏するんですね、楽しみにしています」
     彼は以前荒れていたなどとは少しも見えないほど、丁寧に礼をした。そしてデュースへと言う。
    「オレのところには変なメッセージ、来てないですよ。あの頃の仲間にも聞いてみましたが、心当たりはないそうです」
    「そうか……」
    「ただ」
     元不良のリーダーは顎に手をやり言った。
    「オレと、そのアニキの言うメッセージが来た人たちに違いがあるとしたら、逮捕、起訴までされてないってところっすかね。アニキに出会った頃けっこう勢いで何だってやれるって気になっててヤバかったんすけど、祭りで呼び込みしてるうちに楽しくなって。シロウサ宅配便でバイト始めたり忙しくしたりしてるうちに、足を洗ったんで」
     アニキのおかげで警察官になれたっす、と男は言う。デュースは横に首を振った。
    「いや、それはきっかけに過ぎないだろ。お前が頑張ったんだ」
    「でも、アニキに会ってなかったらと思うとけっこうゾッとしますよ。やってきたことが軽いわけでは決してないけど、もっと取り返しのつかない間違いをしてもおかしくなかった」
     召集をかけられ、持ち場に戻っていく彼にデュースは手を振る。
     その横顔は、懐かれた弟分を、先日の以前助けた者たちのことに思いを馳せているように見えた。それか、かつての過去の自分のことを考えているのだろうか。
     ジャックが彼に声をかけようとしたとき、逆にジャックを呼ぶ声がした。トランペット奏者の隊員が近づいてくる。彼は猫の獣人で、隊服の帽子から白い毛をベースに黒と茶色の模様になっている耳が覗いていた。
    「ハウル、次、後半のリハーサルやるって。俺の魔法とお前のソロのタイミングを相談したいんだけど……」
     そこで、トランペットの隊員は近くに立っていたデュースを見た。ジャックとデュースは顔を見合わせる。今回はお互いの知り合いに自己紹介をする機会が多い。
    「今回の護衛でついている魔法執行官のデュース・スペードです」
    「ああ! ありがとうございます。ハウルと親しいんですね」
    「ナイトレイブンカレッジの同級生なんです」
    「あ、もしかして、魔法執行官の入隊式の」
     デュースは自分がジャックの演奏で泣いたことを思い出し、恥ずかしさに軽く乾いた笑い声をあげてごまかす。音楽隊の人々はジャックが入ってくるなり必死に練習していた理由も知っているし、マジフト世界大会の事件で魔法執行官の友人がいることも知っているためすぐつながったらしい。
     猫の獣人はぴんと耳を立て、その名の通り猫目石のような目を見開いた。
    「そういえば先週、ハウルが誰かと出勤のために走ってるのを見たんだ。そうだ、君だな。仲いいんだなーって思っていたよ」
     ジャックの尻尾がぴんと張り、デュースは目に見えて顔色を変えた。
     先週、ふたりの住む家の給湯器が壊れて、連絡やら何やらで出発が遅れた日があったのだ。大慌てでふたりで仕事に向かった。そのときだろう。
     別に、同じ家に住んでいることを隠しているわけではなかった。あえて話す機会がなかっただけだ。近くまでは同じ道であるものの、仕事のための行き先は別々だし、時間がずれていることも多い。
     一緒に住んでいることを言っても良いが、なんとなくお互いに顔を見合わせて出方を伺ってしまう。
    「ふーん、俺もナイトレイブンカレッジの卒業生だけど、今も連絡ついてるやつってほんの少しだよ。やっぱり長い時間一緒だったからか、ハーツラビュル寮で一緒だったやつとかさ。大事にしたらいい」
     隊員はうんうん、と勝手に頷いて納得したらしい。「……魔法のタイミングのことでしたよね」とジャックが言うとああそうそれ、と話題は移っていった。デュースが平静を装って聞いている。
    「護衛のためにも、一度見てもらった方がいいよな」
    「ええと、俺が立ち上がって吹き始めて……」
    「ハウルが立ち上がったらすぐ魔法をかけるって話だったけど、ソロをじっくり聴いてほしいなと思ってさ。お前の演奏が終わるタイミングでどうだ」
    「いいですね」
     ジャックがフルートを持ってきて、軽く吹き始めた。世界規模で有名なスタンダートナンバー、星に祈り、孤独な魂を慰め、夢はきっと叶うと歌う曲。ジャックが吹く部分が終わり、余韻が残るところでトランペットの隊員が呪文を唱えて魔法をテントの天井に向けて放った。
     わあ、と歓声が上がる。
     天井が透明になり、明るい光が差し込む。眩しさに目が慣れると、よく晴れ渡った青空が見えていた。
    「俺のユニーク魔法は、何でも表面を透明にする魔法なんだ。本番のときには夜だから、ここで星空がばーっと広がる光景が見える最高の演出になるはず!」
    「わあ、素敵ですね!」
     デュースが感嘆の声を上げた。トランペットの隊員は彼の素直な反応にはにかみながら、この魔法の使い勝手の悪さについて語り出した。
    「透明にする、なんて聞くと女性にとても警戒されるんだよね、無理ないと思うんだけど。透明にするときの厚みまで操作できないから、実際のところ人体に使ったって裸どころか内臓が見えるんだよ。医療現場では役立つユニーク魔法なんだろうけど、俺は職業に音楽隊を選んだし、日常生活ではほとんど役に立たないんだ。シークレット商品の中が見えるくらいで……今回、天候に左右されないようにってテントを使うことになったけど、けっこう中にいると圧迫感もあるから、こういう演出を考えたんだ。ようやくユニーク魔法が仕事で役立ちそうでよかったよ」
     彼はトランペットのメンバーに呼ばれて三色入り乱れた尻尾を揺らして戻っていった。
     デュースがぼそり、と呟く。
    「なんだか薔薇の王国に来てから僕たち、誰かに関係を説明してばかりいるな」
     ジャックは頷き、今までの答えを脳内で並べた。
     同居人、友人、同僚、同窓生。
     そのどれもが間違ってはいない。だが、ぴたりと当てはまるものでもない。自分たちはただ一緒にいるだけだが、そこに第三者がやってくると説明せざるを得ないのだ。
     そうして仕方なくどれかを名乗る。そのときに、その関係性の名前では掬いきれなかったものが切り捨てられたように思えてもどかしくなる。第三者は特に悪くもないのに、もやもやとしたものが降り積もる。
     しかも、同居人、友人、同僚、同窓生ーーその言葉のどれでも掬えていない要素が、最も自分たちにふさわしい気すらしているのだ。
     ぱしん、と音がした。デュースが己の頬を両の手で叩いた音だった。
    「さあ、仕事だ! 集中しないと。お前も最高の演奏、届けてくれよ」
     彼はにっとジャックに笑いかける。ジャックは苦笑した。
    「誰に向かって言ってる」
     ジャックはデュースの肩に拳を押し付けると、音楽隊の席へと戻る。デュースは反対の、テントの出入り口へと向かっていく。
     ジャックは息を吐いた。相変わらず、あまり言葉は得意ではない、と思う。ああして向けられた勝ち気な笑顔や、肩にお見舞いした一発の方が、よっぽど何かを伝えられている気がする。誰かに説明しなくちゃいけない関係性よりも自分たちの関係性をきちんと表しているとも思う。
     俺も言葉が欲しい。
     ふと、そう言ったことを思い出す。デュースに再会したときだ。あのとき、デュースはむにゃむにゃとまるでグリムが眠いときのような声を出すと、顔を赤くして停止してしまった。その様子にジャックは大笑いし、まあいい、と言ったのだ。
     再会するまでは不安だった。ここまでやるほどの関係性が自分たちふたりの間にあるのか疑問に思うこともあった。それでも突き動かされるように演奏してしまったのだが、だからこそ「勝った」と確信したときには少しほっとしていた。これからは一緒にいるのだから、いくらでもその事実でかたちにできると思った。だから、最終的には言葉にならなくても納得したのだ。
     自分は今も、言葉が欲しいと思っているだろうか。そう考えると、実際よくわからなかった。とりあえず、一緒にいられる現状に満足している気もしている。
     再開するよー、と隊長が全体に声を張り上げる。
     ジャックは先ほどのデュースのようにぱしん、と己の頬を打った。
    「集中!」
     そう言い聞かせると、自分の席に座った。
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