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    なつゆき

    @natsuyuki8

    絵とか漫画とか小説とか。
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    なつゆき

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    【ツイステ】マリーゴールド(https://poipiku.com/580868/8103870.html)→最初の冬の日(https://poipiku.com/580868/9112321.html)のあと、薔薇の王国のホワイトラビット・フェスで演奏会が行われることになり、参加するふたりのお話。

    #ジャクデュジャク

    アネモネ 1 ホワイトラビット・フェス特別公演
     輝石の国警察音楽隊コンサート〜輝石の国から音楽の力を届けます

     輝石の国の警察音楽隊が、時計の街にやってきます。マジフト世界選手権決勝戦の舞台でも演奏した、世界でも指折りの実力の音楽隊。薔薇の王国での演奏は初! ぜひホワイトラビット・フェスにお越しください!

     音楽隊の皆さんのプロフィールを公開!「推し」を決めてその姿を追いながら演奏を聴くのもいいかも?
     名前/出身/パート/Q1.薔薇の王国でやってみたいことは?/Q2.輝石の国のオススメスポットは?/Q3.自分の演奏の見どころは?/Q4.音楽の力とは?

     ジャック・ハウル/輝石の国/フルート/時計の街のお土産に腕時計をもらったことがあるので今度はお返しに自分が買いたい/ウインタースポーツが盛んです/ソロの場面があるので注目してください/時間が経つところ


     1

     デュースはメットを外して息を吐くと、輝いた瞳をジャックに向けた。
    「あー、最高だった!ジャック、どうだった!?」
    「ああ、いい風だったな」
    「だろ!」
     デュースは満足そうに頷いた。涼しい風が、ふたりのジャケットに吹き付ける。デュースは労わるように、マジカルホイールの機体を撫でた。
     ジャックは長い時間メットに押し込められていた髪と耳を、首を動かすことでぶるぶると振るうと、眼下に目をやった。
     抜けるような青空のもと、今登ってきた峠の道のさらに下に、時計の街と呼ばれるこじんまりとした街が広がっていた。丘陵地帯が多く、庭園文化が盛んな薔薇の王国の景観は、輝石の国に比べると全体的に緑色の印象が強い。
     あっちが首都の方、あのあたりが僕の家、とデュースは次々と指を指して伝えてくる。頬が上気して興奮している。
    「ーーで、あの時計台があるあたりが全部、ラビット国立公園。お前が明日、演奏をするところだ!」
     ジャックはあそこが、と呟いた。
     マジフトの世界選手権決勝戦で起こった事件は、世界中の耳目を集めて数ヶ月報道が続いた。犯人が有名人であったこと、決勝戦という注目の舞台だったこと、耳慣れぬ花が凶器として使われたこと、要因はさまざまだ。その中で、演奏を行った警察音楽隊が活躍したということは特に大きく取り上げられた。たいした怪我人もなく決勝戦も無事行われたという結果も良い印象に作用したのだろう。ジャックも国内を歩いていて声をかけられることがあって驚いた。
     いつも警察音楽隊の存在意義が認知されていない、と嘆いている隊長はとても喜んだ。警察音楽隊がない国からいろいろ問い合わせも来ていてね、などと話していたのだ。
     そしてある日、大きな発表がされた。
     警察音楽隊のない薔薇の王国から、輝石の国の警察音楽隊へ公演依頼が来たのだ。
    「薔薇の王国の警察内部では、ぜひ自国にも警察音楽隊を作りたい、という声があるそうなんだ。今回の公演をきっかけに市民の声を収集して、創設への根拠にしたいらしい」
     隊長は嬉しそうに語った。しかしすぐに責任重大だ、と眉をぐいと上げた。公演の評判が悪ければ薔薇の王国の市民たちは音楽隊など別になくてもいいと思ってしまうかもしれない。そうすればこの話はおじゃんである。
     公演の舞台は薔薇の王国の時計の街。ホワイトラビット・フェスの今年の目玉イベントとして企画された。例年であれば午後には祭りが終わるところを、ラビット・ラン・レースも終わった後の夕方から夜にかけての時間が音楽隊の公演として設定された。ラビット国立公園の迷路の出口、宣誓台のある広場に舞台を設置して演奏を行うという。白うさぎがラッパを吹いたという逸話から、音楽との親和性を見出され、この街、この行事での公演が選定されたのだという。
     早速、トランペットが主役に据えられた楽曲をメインに公演の演目が決められた。ジャックも練習に励むうち、デュースが音楽隊の護衛として一緒に薔薇の王国へと行くことが決まった。地元の国、地元の街のため勝手がわかるだろうというわけだ。
     どうせなら、とふたりは公演前に休みを取り、一足先に時計の街へ来ていた。今日はデュースの実家に宿泊する予定で、先ほど荷物を置いてきたところだ。デュースの母・ディラはホワイトラビット・フェスの前ということでどうしても休みが取れなかったと悔しがっていた。夕食はゆっくり取れるよう、店を予約してくれたらしい。デュースはジャックを輝石の国の同居人だと正式に紹介し、ディラはいっぺんにジャックを気に入ったようだった。
     せっかくの帰省になったのだ、何をするかとデュースに尋ねると「峠を攻める」と言われた。ジャックは公演前後には音楽隊と行動を共にすることになるし、そこで観光予定も組まれていたため、前日の今日はデュースの希望に付き合うことになった。デュースの愛機は輝石の国のふたりの自宅にあるため、今日はレンタルのマジカルホイールだ。デュースは後ろにジャックを乗せて走れるのが相当楽しかったらしく、かなりはしゃいでいる。彼のそういう様子を見るのを、ジャックは悪くない、と思っていた。明日しっかりと役目を果たすためのエネルギーがチャージできたと感じる。
     しばらく眼下の風景を感慨を持って眺めていると、デュースがスマホを見た。
    「ジャック。実は僕、待ち合わせをしているんだ」
    「ん? 地元の友達……とかじゃねえか」
     地元の友達、という言葉にデュースが複雑な顔をしたのを見て、ジャックは言葉を続けるのをやめた。荒れていた、という時代の彼には友達と呼べる人物がいないとは知っていたのだが、思わずありきたりな推測が先に出ててしまったのだ。彼が声を潜めて言う。
    「以前、薔薇の王国勤務だったときに捕まえたやつだ」
    「……あ?」
    「更生して、今はこの休憩所で、車やマジカルホイールのエネルギー補給所の仕事をしてる……ああ、来た」
     デュースの指差す方向から、ツナギの青年がやってきた。脱色した髪を揺らし手を振りながらやってきた彼は、「スペードさん、お久しぶりっす!」と告げた。その視線がふい、とジャックを見た。デュースは少し考えた後、「……友人の、ジャックだ」と言った。ジャックが「ジャック・ハウルだ」と言うと、彼は自らの名前を言って頭を下げた。デュースがジャックを見上げながら言った。
    「ちょっと相談がしたいらしくて、呼び出されたんだ。ジャックはどうする?」
     飲食物も売っているし、テーブルや椅子もあるので景色を見ながら待っていてもいい、と言われ、ジャックは少し考え、青年を見遣る。
    「デュース個人への話か? それとも、魔法執行官であるデュース・スペードへの話か? 後者なら、俺も警察官だ。俺が聞いても大丈夫な話か」
     ジャックが尋ねるとツナギの青年はデュースを見た。彼は信用していい、と言うように頷いた。
    「ああ、そういうことなら大丈夫っす。というか聞いてくれる人が多い方がいい。オレにもちょっと、どういうことなのかわからないので」
     ふたりと青年は休憩所で軽食と飲み物を購入すると、観光客や地元民であろう者たちから離れた席に座る。
    「スペードさんが遊びに来てくれたらオレ、奢りますって言ったじゃないですか。せっかく真っ当に稼げるようになったのに」
    「いいんだよ、今はしっかり給料を貯めておけ」
     デュースが兄貴分ぶっているように見えて、ジャックは内心でにやりとしてしまう。今度エースあたりに会ったら話そう、と思っていると、青年はスマホを取り出した。
    「半年前くらいに、マジカメに変なメッセージが来たんす。これっす」
     青年が見せる画面を、デュースとジャックは覗き込む。それはスクリーンショットだった。マジカメの個別メッセージのやりとりが映っていて、そこには「こんな世界めちゃくちゃにしないか」というメッセージと共に、別ページへ飛ぶリンクが貼られていた。
    「オレ、ちょうどムショから出て最初の勤め先で、取引先にあいつは前科者だって噂流れて揉めた時期だったんすよ。結局ごちゃごちゃしてやめることになって、ムシャクシャしてて。こんなの超怪しいけど、正直、もうちょっとでここ押してたかもしんないっす」
    「……でも、押さなかったんだな」
    「はい。だって、あからさまに怪しいじゃないっすか。だからスクショも残してたんです。このメッセージ送ってきたアカウントの個人ページも見たんですけど、写真も上げてないし、プロフィールにも何も書いてない。いつの間にかアカウントも消えてて、今は何も見られなくなってます」
     正直こんなこと忘れてたんすけど、と青年は続けて、何やら女性の名前を出して、デュースに「知ってます?」と尋ねた。
    「ああ。薔薇の王国で関わった事件の関係者だ。知り合いなのか?」
    「たまたま、トラブルになってるっぽいところを助けて意気投合したやつなんですけど。数回会って話してるうちに、まあ、なんていうかいい感じになって。でもオレの事情とか最初に話しておかないと、深い関係になった後に揉めたら嫌じゃないっすか。それで離れてくならもうしょーがないし。で、話しているうちに向こうもいろいろ昔やらかしたこと話してくれて、あれオレら同じ魔法執行官の話してねえ? ってなったんすよね」
    「へえ、世間は狭いな」
    「なんか、知っている人間同士がそういう仲になってるのも、知らないところで自分の話されているのも、照れるな……」
     感心したジャックと顔を赤くしたデュースが相槌を打つ。青年はあはは、と笑った後に表情を引き締めた。
    「お互い、これからは真っ当に暮らしてこうって誓って、頑張ってるところっす。で、一回気持ちがぐらついたときがあるって話になったんすよ。そうしたら彼女の方も同じ変なメッセージが来ていたって話になって」
    「えっ」
    「本当か?」
    「残念ながら、彼女は怖くなってすぐアカウント消したらしいっす。だから何も残ってないんすけど、オレのこのスクショ見てたぶん一緒だって言うんすよ」
     青年は気になって、罪を犯したときの仲間たちで、連絡を取れる者にはいろいろな手段でツテをつけて、確認を取ってみたのだという。
    「マジカメのアカウントとかあると、また面倒なやつとつながって何かしらに巻き込まれることがあるからって持ってないやつもいたし、持ってても別に来てないってやつもいました。でも、ふたり、いたんすよ。そう言われれば来てた気がするってやつが」
     しかも、と青年は声を潜める。
    「真面目に働いてたのに首になったとか、自立しようとしたら部屋の審査落ちたとか、更生に挫折しそうなときにちょうど来てたからよく覚えてるって言うんすよ。ねえスペードさん、これって、世間が狭いからっすかね?」
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