そういえば今日ハグの日だったのか全然頭になかった。SNSを見ながら今日の出来事を振り返る。お祭りとか○○の日とかに別段何かするわけでもないから引っかからなかったけど、今日は何となく心にハグの日という言葉が引っかかった。あのイルミはハグしてくれるかな。でもあんな背が高く程よく筋肉のついた美人にハグされたらたまったもんじゃない。すっぽりとはいわないけど包み込まれて呑み込まれて吸収されそうになるんだろう。
今日は、ハグの日はあと数分で終わる。邪な気持ちをしまってさっさと寝よう。ぼやぼやと部屋に入り、電気を消して布団に潜り込む。1人とわかっていても言い聞かせるように呟く。
｢おやすみなさい｣
｢早いね。おやすみ｣
あるはずのない返事があった。携帯端末を声のする方へ向けるとイルミがいた。手からすり抜ける携帯端末は布団がキャッチした。思考が絡まり、言葉がまとまらない。何も言えずに魚のようにパクパクとするしかできなかった。
｢そんな驚くかな。部屋間違えてそのまま寝ようとしてるキミにオレは驚いてるけど｣
衝撃事実に更に驚き、急いで電気をつけると本当にイルミの部屋だった。疲労と眠気でダメになってたようだ。動揺しまくる私を横にイルミは布団に突っ伏す携帯端末を取り、私に見せた。そこにはさっきまで見ていたハグの日の記事。
｢これ見せてきたのはして欲しいってこと？｣
｢違うっ！ライトつけたら眩しくて可哀想だと思ったから携帯端末の明かりを使っただけ！！返して！！｣
急いでイルミの持つ携帯端末に飛びつくも上にひょいと持ち上げられる。こいつが身長高いの許せない。絶対取れないのを分かっているけどここで食い下がったら負けたみたいで嫌だ。イルミは余裕そうに携帯端末を少し眺めたあと、必死に手を伸ばす私をじっと見つめてきた。睨んでやるわ。
｢なにさ……｣
｢わかった。こうすれば…いいんだ｣
｢ひゅぇ…っ｣
長い手が降りてきて私の腰を抱き寄せた。疲労と眠気でできていた私にはもう力もない。腰から抱き寄せられ、イルミの胸元に頭が磁石のようにくっつく。動揺もせずトクトクと規則正しく波打つ鼓動が聞こえた。そんなことはどうでもいい。それより腰に当てられた手が気になって仕方ない。少しズクンときた。危ない。ハッとして離れようとする。腰だけならと上半身をそらす。するともう片方の手が回ってきた。私の背中を覆い二の腕をグッと掴む。想像以上の体格差に何も声が出なくなった。ああ、本当に包み込まれて呑み込まれて吸収されそう。
｢思ったよりも小さいし細い。着痩せするタイプなのか。……すごいドクンドクン聞こえるよ。大丈夫？｣
大丈夫なわけないだろ。服はあれどぴったりと密着した状態が大丈夫なわけがない。声も出せないほど煮立った頭。イルミの胸元を額でグリグリする。
｢痛いなー。こうされたかったんじゃないの｣
だからさっき違うって口で言ったじゃん。私を抱き締める腕に少し力が入りこのまま呑み込まれそうになる。早くこたえろという催促。
｢ゃ……その、少しはされたかった…です……｣
｢そうじゃなきゃ調べないよね。よかったー。ここで間違えてたらキミに針刺してたかもね｣
物騒なことを言いなさんな。でもイルミに針刺されるなら…なんて考えてるのも危ない。悶々と考え始めると私を呑み込んでいた手と体はパッと離れた。
｢はい。素直に話してくれたから離してあげる｣
ちょっと切ない。物足りない。ここまで期待させておいて……なんて。少し目線をイルミの顔に向けると相変わらず何考えてるかわからない顔をしてた。
｢物足りなそうな顔してるけど、さっき言ってた"少しはされたかった"顔じゃないよね｣
｢……イルミが腰を抱くから、そういう気分に…ひぇっっ……｣
｢煽ったのはそっち。オレは煽られてあげるから……これから先、言い訳しないでね。疲れてるようだから抱き枕にして寝てあげる｣