一人んちの冷蔵庫は保存容器に入ったものが整然と並んでいる。
忙しい一人のご両親と執事の村井さんが少しでも休めるように、村の人が作って持ってくるのだ。
俺もよく親や祖父母から「先生たちに差し上げてな」とタッパーに切った果物や漬物を入れてあるのを持たされた。何なら一人んちの炊飯器で米を炊くお手伝いもする。
「氷室でーーすこんにちわー」
大きな扉を押し開け、診察室を覗くも人の気配はなく、不用心だなと思っていると、聞きなれた声がする。
「奥入ってきてー」
「一人ぉー?どこいんだよー?」
「台所ーっ」
診療所の玄関を入ってそのまま進むと、奥の通路がある。そこに田舎では中々ない洒落たキッチンで、ガス台の前に立つ一人は中華鍋を軽々と振って黒い長ズボンに黒いスニーカー。黒いTシャツに大人用のエプロンをかけ、三角巾を被ってる横顔は、そんなに真剣なものではない。
7467