午前1時、共同浴場にて湯船に足を突っ込んで、ゆっくりと中へ入っていく。湯の中に腰を沈めるとじんわりと熱さが広がっていき、自然とため息を吐いた。
私はフィガロの向かいに陣取り、かつ彼女は私の方を向いて座っているので、その表情がよく見えた。目を閉じて心地良さげにしている。つられてこちらも顔が緩んだ。それからしばらくの間私たちに会話はなく、湯船に湯が足される水音だけが2人きりの浴場内に木霊していた。
そういえばフィガロの紋章は右肋にあると言っていたが、全く見えなかったな。なんてことを考えつつ彼女の方を眺めていると、突然ぱちりと目が開かれた。慌てて目を逸らしたが、くすりと笑われてしまう。
内心酷く焦りながらも何食わぬ顔で紋章について訊くと、ああ、と納得したあと、見せてあげようかと言ってくれたのでお願いすることにした。
816