12/7:ホットドリンク 聖夜の時期になると屋台が並ぶ通りがあるという話を聞き、この日非番だった団員達は皆、観光がてら夜の街を散策していた。
小規模なものかと思えば、ツリーの飾りの店だけでもかなりの数が連なっていた。装飾が施された蝋燭や食器、食べ物を売る屋台もある。通りかかる人を魅了するような、甘酸っぱいスパイスの香りを漂わせる目の前の店もそのひとつだ。
一行がつい足を止めると、大鍋の中をかき回していたエルーン族の女性がこちらに笑顔を向ける。
「ホットワインはいかがですか?熱で酒精は完全に飛ばしているので、お酒が苦手な人は勿論、子供も美味しく飲めますよ」
溌剌と呼び込む店員の後押しもあり、グランは人数分のホットワインを注文した。
手渡された紙製のカップの中で、薄切りの干したオレンジが深い赤紫の中で揺れる。濃厚な甘さがシナモンや他のスパイスと混ざり合い、火傷しそうなほどの熱さを身体の奥に届けてくれた。
香りだけでなく味もまた大したもので、酒精を残した状態を望む者も多そうだと、ランスロットは思い当たる人物の顔を頭に浮かべる。
ふと、そういえばジークフリートさんはどこにいるのだろうかと辺りを見回していると、当人は何やら店員と話しているところだった。周りの賑やかな声や音に掻き消され、会話の内容まではわからなかったが、店員は快諾した様子で頷いていた。
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「待て、ランスロット」
ジークフリートに口許を抑えられたランスロットは、瞳を丸くさせるとすぐに子犬の様な顔で眉を下げる。
寝静まった宿の一室、どちらが誘った訳でもなく2人は同じ部屋で過ごしていた。目が合った時、気が付けばお互いの顔が近くにあった筈が、唇は重なることなく止められてしまった。
自分の非を必死に探すランスロットの表情とは裏腹に、ジークフリートは悪戯に微笑むと聞き捨てならない言葉を放つ。
「お前は酔うと早く寝てしまうからな」
その意味に気付くまで時間は必要としなかった。先程買ったホットワインを、ジークフリートは確か2杯飲んでいた。店員の様子と、彼の飲み物の好みを思い返せば納得がいく。完全に沸かさず、酒精を残した状態ホットワインもあの店には置いてあったらしい。
身を包む高揚感に飲まれない様、理性を留めるためにランスロットはジークフリートの手を取る。
「流石に、そのくらいでは酔いませんよ」
そう溢すと、そのまま自分の意志を示す様にジークフリートの手に、頬に、耳へとキスを落とした。
「ん……そうか……」
応える様にジークフリートは両の手をランスロットの頬に添え、そのままそっと唇を重ねる。
舌同士が触れると、その熱は喉を通り身体も、心も何もかもを温めた。