恋人が可愛かったので、 アルバーンは先日、友人であるサニーからの告白を受けて改めて恋人としての交際をスタートした。それ自体に特に驚きはなく、友情以上の好意を持たれていることは前々から気付いていたし、同性を恋愛対象として考えたことはなかったもののサニーならばアリだなという結論も既に出ていたので、特に悩むこともなくまあなるべくしてなった関係といったところ。強いて言うなら、告白の仕方があまりにも可愛かったので少し食い気味に返事をしてしまったくらいか。でも仕方がない。あの時のことを思い出すと、今でも胸がキュンとするくらいなのだから。
サニーとは気もあったから一緒にバカをすることもあれば、時には特にふざけることもなくただ穏やかに過ごすことも出来て、とにかく時間を共にすることが心地よかった。そして極めつけは時折見せるなんとも言えない可愛さ。アルバーンは綺麗なものが好きで面食いであるからサニーの外見もそれはそれは気に入っていたが、それだけで成人した男を可愛いとは思わない。というか、綺麗と可愛いはそもそもカテゴリが別だ。こう、女の子達や猫に感じるような可愛さとは別種のものをサニーは持っていた。これは彼が弟だからというのも関係しているのかもしれない。妙に甘え上手というか、普段からそうという訳ではないのだけど時折そんな態度を取られるとなんとかしてあげたくなってしまう。アルバーンに可愛さを求めてきたり、兄弟ごっこをしたがるのだってそうだ。最初はやけにウケが良かったから軽い気持ちで応えていたけれど、あまりにもイイ反応ばかりくれるものだから最近では喜ばせたいという気持ちの方が勝ってしまっていた。
そんな訳で、顔を真っ赤にして一生懸命に愛を告白されれば口から出てくる答えなんて決まりきっている。僕もだよと微笑んで握りしめた拳を包みこむように触れると、返ってきたのは呆けたような表情。 まさか断られると思っていたとか?いやいや、普段から分かりやすく特別扱いをしていたと思うのだけど。そうかと思えば感極まった表情でがばりと抱き着かれ、力強いハグを受けとめることになる。あ、これは、いつもよりちょっと、いや、結構痛いかもしれない。それだけ喜んでくれていると思えばなんとかしてやり過ごす事もできたが、あれはなかなかに骨が折れた。
そして付き合い始めてから何が変わったかというと、いつも通りに遊ぶ中でもふとした瞬間に何かしたそうな気配が伝わってくる。それはみんなで遊んだ帰り道であったり、ふたりで遊んでいて会話が途切れた時であったりと様々。だが、共通して言えるのはサニーのそれはアルバーンにとっては非常に分かりやすいということ。だからやっぱり、応えてあげたくなってしまう。
繋ぐタイミングを計りかねて空を彷徨っている手があれば躊躇なくその手を取り指を絡めるし、ちらちらとこちらを窺う視線の向かう先が自分の唇と気付けば掠めるように口付けて驚きに丸くなる瞳にしてやったりと微笑みかける。ああ、なんて可愛い恋人。彼のしたいことをなんでも叶えてあげたい。そんな調子で少しずつ恋人らしい触れ合いも増やしていたが、そんなふたりに一大イベントとも言える日が近付いていた。恋人関係になってから初めてのお泊りである。
一応、付き合うことになってからアルバーンも考えてはいたのだ、サニーはどの程度のペースを望んでいるのだろうと。アルバーンとしてはさして急ぐつもりはなく、サニーもあの調子であるからゆっくり段階を踏めばいいかと思っていたのだが、緊張した様子で泊まりに来ないかと誘われてしまえば察する他ない。これは、ステップアップを期待されている。それならアルバーンのすることはひとつ、恙無くコトを行う為の準備だ。
ゴムとローションは勿論用意するとして、問題はサニーの望む行為がどんなものか。具体的に言うなら、挿入行為を伴うアナルセックスをしたいのか、それともペッティングをメインにバニラセックスをしたいのか。後者なら大抵のことは出来るだろうからいいが、前者なら話は変わってくる。サニーに経験はないだろうし、アルバーンもさすがにアナルセックスに関する知識は持っていない。痛くないように、ちゃんと気持ちよくなれるように勉強しなければ。可愛い恋人のために。
そう、この時点でアルバーンは自分が抱く前提で考えていた。HOW TOを熟読し、アナル開発に必要な道具をピックアップして次々に通販の買い物カゴに入れていく。指サックにアナルパールにアナル用ローター、薬局で浣腸液も忘れずに。問題はアナル開発というのは時間をかけて行うものであるからその日に挿入というのはまず難しいという点だったが、そこは話し合えば納得してもらえるはず。傷付けたくないのだと、ちゃんと気持ち良くなってほしいのだと、誠意を持って説明すればきっと。そう思いながらサイトを繰り返し見ては手順を頭に叩き込んでいた。
そしていよいよ明日は勝負の日。帰り道でひとり分かれふたり分かれ、最終的にふたりきりになったところでそれは起こった。どこか緊張した様子のサニーに名前を呼ばれ、なぁにと返すとその足がぴたりと止まる。
「その、明日のことだけど…!」
(そうだよね、緊張しちゃうよね。分かる分かる、初めてだもん、仕方ないよ)
それはあの告白を受けた日を彷彿とさせる必死さで、その様子がアルバーンには可愛くてたまらない。
「俺、上手くは出来ないかもしれないけど…」
(大丈夫だよ、ちゃんと僕も調べてあるから心配しないで)
心の中では色々と言いつつも、せっかくの決意表明を遮ってはいけないとうんうんと相槌だけ打っていたアルバーンだったが、この後のサニーの言葉におやと首を傾げる。
「アルバンがその……ちゃんと気持ちよくなれるよう」
(ん?んー……いや、ふたりで気持ちよくなる行為だし、間違ってはないんだけどこれって…)
急に気恥ずかしさでも感じたのか尻すぼみではあったが、確かに『アルバーンが気持ちよくなれるように』と言っていた。それはアルバーン自身がごく最近サニーに対して思っていたことと重なる。そして、これが決め手とばかりぎゅっと両手を握って告げられた言葉にアルバーンはぴしりと固まった。
「なるべく痛くないようにするから!」
(あ、これ僕が挿入れられるやつだ)
締め付けが強すぎて痛みを感じるということもあるだろうが、この発言がそういった意図ではないことくらいさすがに分かる。そして予期せず、サニーがアナルセックスをするつもりであることも知ってしまった。予定外の展開と情報量。加えてなかなかに覚悟のいる決断を迫られたアルバーンはすぐに言葉を返せない。
確かにサニーの意思をはっきりと確認したことはなかったけれど、普段からリードされても嫌がらないからてっきり…
(なんて答える?というか本当に僕が…?)
そんなアルバーンの葛藤を知ってか知らずか、握られた手にぎゅっと力がこめられ自然と視線がそちらを向く。瞳に映ったサニーの顔は逆上せてしまったのではないかというくらい真っ赤で、唇だって引き結んで、とにかくいっぱいいっぱいなのだということが見るからに分かった。
ああ、これはまずい。そんな反応されたら――
「えっと…、優しくしてね?」
若干のぎこちなさは否めないものの、にこりと笑ってそう口にするとサニーはくしゃりと顔を歪めてからぶんぶんと首を縦に振った。その様子に髪をわしゃわしゃっとかき乱して抱きしめたい衝動に駆られるアルバーンだったが、そこはぐっと堪えて周囲を窺う。そして人気がないのを確認すると、さっと赤く染まった頬に口付けた。
「んはは……かわいっ。それじゃあまた明日、バイバイ」
それだけ言い残すと、アルバーンは身を翻してその場から駆け出す。もう少し恋人の可愛い反応を堪能したいのはやまやまだったがアルバーンには時間がない。明日の準備にすぐにでも取り掛からねばならないのだ。
道具は十分、知識もそれなりに。ならもう、自分で自分の準備をするしかない。
サニーの言葉を信じない訳ではないが、しっかりと予習した分そう簡単な話ではないのだとアルバーンには分かってしまっている。でも、なるべくなら良い形で初夜を迎えたい、そしてあわよくば挿入にまで至りたい。
(痛いかもしれない…ううん、多分痛いけど、今日のうちに触っておいた方が少しは楽だろうし)
そんな意気込みのもと、頭の中でアルバーンはさっそくおさらいを始める。どういう手順で、どう慣らして、どんな道具を使うのかを。
その勉強熱心さが災いして当日ひと悶着あるのだが、それはまた別のお話。
恋人が可愛かったので、抱かれてもいいかなって思いました。