みゃくみゃく様とオクタヴィネル「みゃくみゃくさま?」
少し発音しづらそうに、アズールはその言葉をゆっくりと声に出した。
「そ。今なんか噂になってるらしーよ」
フロイドがキャンディをがりごりと鋭い歯で削りながら、スマホをタップする。ほら、と見せられた画面には赤くて目玉のついたドーナツの失敗作のような代物が映っていた。
「みゃくみゃく様は、願い事をなんでも叶えてくれるらしいですよ」
話に入ってきたジェイドが、アズールよりもずっと滑らかに発音してみせると勝手にフロイドの見せてきた画面を二本指ですいっと拡大する。広がったその画像は余計に歪で薄気味悪いものになった。
「はっ。対価も無しにか?」
鼻で嗤うアズールはこの話題に取り合う気はない、ということを態度で表していた。現実主義を煮詰めて、合理性を突き詰めるタイプの彼は、こういう類の与太話は時間の無駄だとばかりに切って捨てることが多い。
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