『雨の街を』
「ねぇ、カルロ。
本当に出掛けるの?
すぐそこだからあたし一人で大丈夫よ?」
玄関先で車のキーを片手に支度を待っていたオレの瞳を、ジュリオの淡いブルーの瞳がどこか心配そうに見上げる。
ジュリオが用事があるのは、我が家からゆっくり歩いたとして15分もかからない場所にある、一軒の小さなパン屋だ。
ジュリオはその店のクロワッサンが大のお気に入りらしく、ここのところ3日と空けずに通っている。
一度オレが軽口でそれをからかうと
「なら一度食べてみたらいいわ。
カルロだってきっと虜になるに違いないから!」
そう膨れたジュリオが買ってきたクロワッサンは、世界中のどのホテルの朝食で食べたものとも比にならないくらい、美味しかった。
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