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    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

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    村人A

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    過去小説修正版第二弾。
    これは確か、閣下に「浮気者」というセリフを言わせたいがために書き始めた話でした。モブ女出ますので注意。
    こうして時折、閣下はリッヒの地雷を踏みます。

    #執事閣下
    deacon
    #フェンヴァル
    fenval

    シモベを煽るものはそれは珍しく、主従が共にいなかった日。
    フェンリッヒは他の魔界へ出張のようなものへ行っていて、ヴァルバトーゼは普段の仕事をこなしていた。
    出張と言っても、向こうの悪魔と化かし合いのようなことになることも少なくない。その点で言えば、話術に優れるフェンリッヒ以上の適役はいないのだ。だが、優秀なシモベがいないと言うのは、それだけで負担な訳で。

    (……あいつが居ないだけで、こんなに疲れるとは…いつも無理をさせているのか…涼しい顔をして…)

    普段は休憩をあまりしないヴァルバトーゼも、人目につかない所で少し休んでいた。
    目を閉じていた彼の意識を浮上させたのは、女性たちの声。
    最初は見つからなければいいか、と考えるヴァルバトーゼだったが、ひとりの言葉で目が冴えることになる。

    「─アンタ、フェンリッヒ様狙いなワケ?」
    「だって、カッコよくない!?私も仕えてもらいたーい」
    「アンタじゃ無理無理」
    「わかんないでしょ!出張から帰っていらしたら、声かけてみよっかなー!」
    「なに、誘惑でもするつもり?惨敗するからやめときなよ」
    「ふーんだ、見てなさい!私が成功者第一号になるんだから!」

    それは明らかにシモベを誘惑しようとする女の声で。
    シモベといっても、兼恋人なのだが。
    フェンリッヒという悪魔は、基本ヴァルバトーゼにしか興味がなく、何と言い寄られても「有象無象に興味などない」とバッサリ切り捨てるほどだ。先程の女性が言うように、惨敗するのは目に見えていた。
    しかし、信じていても不安にはなる。

    (あいつが、もし心変わりをしたら?…俺から、離れていってしまったら?)

    そう考えたところで、首を横に何度も振った。
    疲れているから、こんな思考になるのだと。
    だが一度胸に住み着いた不安は消えることなく。紛らわせるようにプリニーたちが心配するほどの勢いで仕事を終わらせたヴァルバトーゼは、早めに自室へと戻ることとなった。それは考える時間も増えるという訳で。

    (……遅い)

    フェンリッヒが帰ってくる時間はとうに過ぎていた。
    時計を眺めながら、ヴァルバトーゼはモヤモヤで何も手につかない。
    ため息をついた時、ドアがノックされた。

    「閣下ー、お食事持ってきましたッスー」
    「…ああ、すまんな。…ところでプリニーよ、フェンリッヒはまだ帰らんか?」
    「え?フェンリッヒ様ならさっき帰ってきたッスけど…まだお会いしてないッスか?」
    「帰ってきた…?」

    なら何故、まずはここに来ない。
    そう言いたい言葉をグッと喉に飲み込んだ。その言葉は、目の前のプリニーにぶつける訳にはいかないのだ。

    プリニーが戻っていき、再び部屋にはひとりの状態になる。
    女悪魔の言葉がグルグルしていた。

    (…やはり、あいつは─)

    嫌な考えが出た瞬間、ヴァルバトーゼの部屋のドアがまたノックされた。

    「…開いているぞ。誰だ」
    「閣下、失礼します」
    「フェンリッヒ…!」
    「お待たせして申し訳ございません」

    入ってきたのは、彼が待ち焦がれていた人物だった。
    いつものジャケットではなく、茶色の革のジャケットに身を包み、その下は黒のタートルネックのシャツを着て、長い髪は赤いリボンで纏められていたそれは完全に余所行きの格好で、彼の見た目の良さを際立たせていた。
    部屋に入ると、流れるような所作で傅く。

    「少しゴタつきまして…遅れましたこと、お許しください」
    「……良い。顔を上げろ」
    「有り難き幸せでございます」

    顔を上げたフェンリッヒの表情は、穏やかに微笑んでいた。
    ヴァルバトーゼ以外には見せることのない顔だ。

    (…何故、何も言わぬ?あの女に声をかけられたのではないのか?気にしていないから言わぬのか、それとも……)
    「ヴァル様?」
    「ッ!!」

    覗き込んできたその顔に思わず赤面し、ヴァルバトーゼは咄嗟に距離を取る。
    だがそれを意に介さず、フェンリッヒはゆっくりと主の手をすくい上げてその甲に口付けを落とした。

    「何をお考えなのかは存じませんが、今はわたくしとふたりきりなのですから─その心、わたくしにも分けて欲しいものです」

    とびきりの甘い声、甘い仕草。
    それは普段なら甘い空気になる所だが、今のモヤモヤを抱えたヴァルバトーゼには逆効果だった。

    「─うるさい!浮気者めっ!!」
    「……は?」

    そこで口から勝手に出た言葉にヴァルバトーゼは焦った。
    顔は見ていないが、シモベの空気と声が完全に不機嫌な時のそれになったのだから。

    「…ほう?浮気者、ですか?何を疑っておいでですか」
    「あ、いや、それはだな……」
    「…ご無礼をお許しください」
    「は?─うぐっ!?」

    ソファーの上、ヴァルバトーゼは両腕を掴まれて強引に押し倒された。
    倒された後に片手で両腕を纏めて頭上で掴まれ、もう片手が顎を持って強制的に目線を合わせられる。

    「疑うということは、理由がおありなのですね?」
    「いっ…!」
    「答えてください」

    ギリ、と腕が音を立てた。
    その目には怒気だけが含まれている。
    普段ならこんなに乱暴な真似は絶対にしない。それ程怒っているということなのだろう。

    どうにも出来なくなり、ヴァルバトーゼは耳に入った女たちの話と、それが不安だったということを吐露した。

    「─ということがあっただけだ」
    「…そういうことでしたか。…確かに、帰ってきた時に女には声をかけられましたが」

    腕を放したフェンリッヒはそう話し始めた。
    その声色は、「そんなこともあったな」とでも言いたげだ。
    ヴァルバトーゼも起き上がり、座って話を聞いた。

    「別にやましいことがあった訳ではなく…あれが誘惑などと、笑わせるなという話ですよ」
    「ゆ、誘惑されたのか」
    「そのお話しから察するならば、そうなのでしょう?」

    本当にしたのか、と勇気ある女性に心の中で言葉を投げかける。
    といっても、当の本人には気付かれていないようだが。

    「わたくしには、閣下が真っ赤な顔で震えている方が余程劣情を煽られます」
    「ば、馬鹿者…」

    顎に指をかけられ、微笑まれる。
    このシモベは素でそういうことを言ってのけるのだ。

    「そうですね。言わなかったのではなく……気付かなかった、ということです」
    「そうか。…悪かった、あんなことを口走って」
    「構いませんよ。…ですが、疑われたことは正直面白くない」
    「は、わっ」

    謝り許され終わり──とはいかない訳で。
    慣れた手つきで再び押し倒され、あっという間に押さえつけられる。
    ニコリと笑うその顔からは、嫌な気配だけが漂っていた。

    「浮気?…わたくしが、どれ程の間あなたのことを想ってきたか、どれ程想っているのか、わかっていないのですね?」
    「いや、その」
    「ヴァル様以外の有象無象にどう思われようと、知ったことでは無いです。わたくしは、あなた以外要らないと言っているのに」

    重なった唇が、ちゅ、と音を立てて離れる。
    マズい、とヴァルバトーゼは本能的に思った。

    「わたくしの想いが伝わっていないようですので、じっくりと教えて差し上げます。今日は少し気が立っているので、無茶をしないためにも我慢しようと思っていたのですが…そうにもいきませんね」
    「いや、ちょっと待て」
    「待ちません」

    もう一度唇が重なる。
    しかしそのまま離れてはいかず、唇を舐められた。

    「ヴァル様。口を開けてくださいますか」
    「待て、あれは…んぅ!」

    舌同士が無理矢理絡められる。
    息がしづらく、ヴァルバトーゼが苦手だと言うので、ほとんどしないキスだ。
    絡めた指をギュッと握って抗議しても無駄だった。

    (…食われる……)

    文字通り貪るようなキスがようやく終わった時には、ヴァルバトーゼは息も絶え絶えだった。

    「…ほら、やっぱり。あなた様のそういう顔の方が、わたくしは余程好みですよ」
    「お前は…!!」
    「お嫌でしたら、舌を噛んででも逃げてください」
    「そんなこと出来るわけなかろう!?」
    「でしたら諦めてください」

    舌を噛んで血でも飲んでしまったら大変だということを分かった上でフェンリッヒも言う。
    逃げていいと口は言うが、目は絶対に逃がさないと言っている。

    (やっとだ。やっと手に入れたのに、この手に抱くことが出来たのに。易々と逃がすわけが無い)

    そんなことを考えるフェンリッヒの口が弧を描く。悪いことを考えるその顔が、己を求めるそのギラつく目が。全てがヴァルバトーゼを煽る。

    (…ああ、要らぬ事を口走るものでないな)

    その教訓を胸に刻みつつ、ヴァルバトーゼは来たるシモベに備えるのだった。

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    此処は、魔界。魔神や邪神はいても救いの手を差し伸べる神はいない。そもそも祈る等という行為が悪魔には馴染まない。この暗く澱んだ場所で信じられるのは自分自身だけだと、長らくそう思ってきた。

    「お前には祈りと願いの違いが分かるか?」

    魔界全土でも最も過酷な環境を指す場所、地獄──罪を犯した人間たちがプリニーとして生まれ変わり、その罪を濯ぐために堕とされる地の底。魔の者すら好んで近付くことはないこのどん底で、吸血鬼は気まぐれに問うた。

    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

    また始まってしまった。そう思った。かすかに胃痛の予感がし、憂う。
    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

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    Deep Desire【悪魔に愛はあるのか】の後日談として書きました。当社比アダルティーかもしれません。煩悩まみれの内容で上げるかどうか悩むレベルの書き散らしですが、今なら除夜の鐘の音に搔き消えるかなと駆け込みで年末に上げました。お許しください…【後日談】


    「やめ……フェンリッヒ……!」

    閣下との「戯れ」はようやくキスからもう一歩踏み込んだ。

    「腰が揺れていますよ、閣下」
    「そんなことな……いっ」
    胸の頂きを優しく爪で弾いてやると、我慢するような悩ましげな吐息でシーツが握りしめられる。与えられる快感から逃れようと身を捩る姿はいじらしく、つい加虐心が湧き上がってしまう。

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    衣服の上から触れると肌と衣服の摩擦が響くらしい。これまで幾度か軽く触れ合ってきたが素肌に直接、よりも着衣のまま身体に触れる方が反応が良い。胸の杭だけはじかに指でなぞって触れて、恍惚に浸る。

    いつも気丈に振る舞うこの人が夜の帳に腰を揺らして快感を逃がそうとしている。その姿はあまりに 2129

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    ……その「戯れ」がかれこれ幾月進展しないことには苦笑する他ない。月光の牙とまで呼ばれたこの俺が一体何を 3613

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    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

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    last_of_QED

    CAN’T MAKE十字架、聖水、日の光……挙げればきりのない吸血鬼の弱点の話。おまけ程度のヴァルアル要素があります。【吸血鬼様の弱点】



    「吸血鬼って弱点多過ぎない?」
    「ぶち殺すぞ小娘」

    爽やかな朝。こともなげに物騒な会話が繰り広げられる、此処は地獄。魔界の地の底、一画だ。灼熱の溶岩に埋めつくされたこの場所にも朝は降るもので、時空ゲートからはささやかに朝の日が射し込んでいる。

    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

    「プリニーもどきの分際で何様だお前は。ヴァル様への不敬罪で追放するぞ」

    地獄にすら居られないとなると、一体何処を彷徨うことになるんだろうなあ?ニタリ笑う狼男の顔には苛立ちの色が滲んでいる。しかし最早馴れたものと、少女は臆せず言い返した。

    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱 3923

    last_of_QED

    DOODLE【10/4】ヴァルバトーゼ閣下🦇お誕生日おめでとうございます!仲間たちが見たのはルージュの魔法か、それとも。
    104【104】



     人間の一生は短い。百回も歳を重ねれば、その生涯は終焉を迎える。そして魂は転生し、再び廻る。
     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。
    3272

    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
    2926