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    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

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    村人A

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    クリスマス暴シス小説。
    アルティナちゃんの純真さにペースを乱される暴君様が大好き。

    #ヴァルアル
    varial

    聖夜の逢瀬雪が降り、辺りを白く染めていく。
    ツンと凍える空気は、息を吐けば靄のように広がる。
    既に足を踏み出せば、ザク、と音がするくらいに雪が積もっていて、そこに真新しい足跡がついていた。
    黒い装束についた雪を手で払い、紅の瞳が闇夜の中で動く。

    (…今夜は人間共の気配を感じぬな)

    目的の場所は明かりがついていて、光が漏れていた。
    力を入れると、ギギ…と音を立てて開く。

    「あら、吸血鬼さん。今日は遅かったのね」
    「……何をしておるのだ?」

    いつもより煌びやかな教会の中。
    そこに現れたのは、“暴君”と謳われる吸血鬼、ヴァルバトーゼ。
    笑顔を向けるシスター、アルティナは彼を招き入れる。

    「今日はクリスマスですわ」
    「クリスマス…?なんだ、それは」
    「そうですわね…この世にとある神が降臨された日…と言われている日ですわ」
    「何かと思えば…悪魔の俺が、神などの出生を知るはずがなかろう」
    「ふふ、そう言えばそうですわね」

    溜息をつきながら、部屋の中へと足を踏み入れる。夜だからか、戦争も動く気配がない。

    「…それで?クリスマスとやらは、このように飾り付けるのか?」
    「ええ。今は物資もまともにないので、このようなことしか出来ませんが…神がそのご加護でわたくしたちを守って下さるよう…早く戦争が終わるよう…祈りも兼ねていますわ」
    「人間は下らぬな。神とやらがこの現状をどうこうするはずはなかろう。奴らほど合理的という名の冷徹な判断をする者はおらぬぞ」
    「……そうですね。それでも、わたくしたちはまた明日もこの現実を生きてゆくのです」

    だから、今だけは。
    そう言いかけた唇が意味をなさず閉じられる。
    俯いたアルティナの手に在る紙の飾りが、くしゃりと音を立てた。
    ヴァルバトーゼはその手から飾りを取ると、壁に貼り付ける。

    「…吸血鬼さん?」
    「祈るなど俺のすることではないが、お前が今日も生きていたことだけは、俺に約束を破らせなかったことくらいは感謝してやっても良い。それだけの話だ」

    ぶっきらぼうに背中を向けたまま言うヴァルバトーゼに、アルティナは目の端に涙を僅かに溜めたまま微笑んだ。

    「ありがとうございます」
    「礼など言っている暇があるのなら、さっさと済ませろ」
    「はい」

    簡素な飾りを終わらせると、アルティナはやり切ったというように息を吐いた。

    「これで満足か?」
    「満足と言うには…ですが、贅沢は言っていられませんわ。何より、ひとりじゃありませんもの。それだけで充分です」
    「……そうか」

    笑顔で言うアルティナに、居心地悪そうに目を逸らすヴァルバトーゼ。

    「…それより、夜だからか?人間共が動く気配が見られぬぞ」
    「ああ、クリスマス休戦、ですわ」
    「何だそれは?」
    「クリスマスの今日は兵士の方々も大切な人と過ごそう、と今日だけは休戦していますの」
    「…理解に苦しむな。明日からはまた元通り戦争か?なぜ今日休戦したならそのままに出来ぬ?いやそれより、クリスマスだからと闘争をやめるというのも理解出来んな……」
    「ふふ、悪魔の観点ですか?」
    「互いの暴と暴をぶつけ合ってこそ、闘いというものは面白いのであろう?そこに他者のことなど関係ない」
    「残念ながら、人間はそうもいかないのです」
    「愚かだな」
    「ええ、愚かです。でも、だからこそ愛しいのですわ」

    慈愛に満ちた表情でそう言うアルティナに、ヴァルバトーゼはさらに首を傾げて「…分からん」と言う。

    「本当は子供たちも呼んでパーティーをしたかったのですが…子供たちにも親がありますし、いつまた戦争が始まるかわからない今、外に出るのは危険ですから」
    「それでお前ひとりでやっていたのか?」
    「きっと、あなたがやって来ると思っていましたもの。だから、ひとりで飾り付けていても寂しくなかったんです」
    「…本当に来るかなどわからないであろうに」
    「きっと来てくれますわ。そういう方ですもの」

    くすくす、とアルティナが笑う。

    「だから─ありがとうございます、吸血鬼さん」
    「…例を言われる謂れなどない。俺はお前を恐怖させ、さっさとその生き血を啜ってやりたいだけだ」
    「ええ。ですが今日はクリスマスですから、それも休止ですわ。だからまた明日から─頑張ってくださいね、吸血鬼さん?」
    「俺がお前たちの決まり事に則る必要はなかろうが…」
    「あら、悪魔の考えを押し付けるのも良くないのではなくて?」
    「傲慢とでも言うのか?どっちにしろ俺は悪魔だ、傲慢で何が悪い」

    フン、と鼻を鳴らしながらヴァルバトーゼは壁に凭れて座る。
    その横に、アルティナも腰掛けた。

    「…なぜ横に座る」
    「いいじゃありませんか、寒いんですもの。…と言いたかったのですが、吸血鬼さんって体温低いんですのね。なんにも熱が来ませんわ」
    「寄るな。そもそも悪魔に暑さ寒さを感じる必要などない。そんなものは生きるのに邪魔なだけだ」
    「悲観することばかりじゃありませんわ。夏に日陰で涼む時間は、冬に寒いと身を寄せ合う時間は…何にも例え難い、幸せな時間ですもの」

    そう言いながら、アルティナは毛布を膝へとかける。
    ふと、ヴァルバトーゼの肩に頭を寄せる。彼も嫌がるものの、無駄だと分かれば諦めの顔を見せた。
    満足そうに凭れる彼女の瞼が少しずつ落ちていく。

    「…来て下さってありがとうございます、吸血鬼さん。少しだけ、寂しくなくなりましたわ」
    「……眠いのならばさっさと寝るがいい。人間は、睡眠が必要なのであろう」
    「…はい…あ、もし起きた時に、吸血鬼さんが…隣にいなかったら…少しだけ、怖いかも…しれません、わ…」

    そう言って眠りに落ちた彼女に、ヴァルバトーゼはため息を着く。

    「俺がいなくて、どうやってお前に恐怖を与えたと証明出来ると言うのだ…全く」

    安心しきったその寝顔に、若干の落胆を覚えながら、ヴァルバトーゼはその華奢な肩口まで毛布をかけてやる。

    人間の身でありながら神に仕え、その出生すらも記念日であると祝う。
    悪魔の自分に恐怖心もないと言い張り、神聖なる場である教会に悪魔の侵入を許す。

    やはりこの女は分からない。

    そう考えながらも、スヤスヤと寝息を立てる彼女に、ヴァルバトーゼはその肩を貸すのであった。
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    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

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    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

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    DOODLE主人に危機感を持って貰うべく様々なお願いを仕掛けていくフェンリッヒ。けれど徐々にその「お願い」はエスカレートしていって……?!という誰もが妄想した執事閣下のアホエロギャグ話を書き散らしました。【信心、イワシの頭へ】



    「ヴァルバトーゼ閣下〜 魔界上層区で暴動ッス! 俺たちの力じゃ止められないッス!」
    「そうか、俺が出よう」

    「ヴァルっち! こないだの赤いプリニーの皮の件だけど……」
    「フム、仕方あるまいな」

    何でもない昼下がり、地獄の執務室には次々と使い魔たちが訪れては部屋の主へ相談をしていく。主人はそれに耳を傾け指示を出し、あるいは言い分を認め、帰らせていく。
    地獄の教育係、ヴァルバトーゼ。自由気ままな悪魔たちを良く統率し、魔界最果ての秩序を保っている。それは一重に彼の人柄、彼の在り方あってのものだろう。通常悪魔には持ち得ない人徳のようなものがこの悪魔(ひと)にはあった。

    これが人間界ならば立派なもので、一目置かれる対象となっただろう。しかし此処は魔界、主人は悪魔なのだ。少々横暴であるぐらいでも良いと言うのにこの人は逆を征っている。プリニーや地獄の物好きな住人たちからの信頼はすこぶる厚いが、閣下のことを深く知らない悪魔たちは奇異の目で見ているようだった。

    そう、歯に衣着せぬ言い方をしてしまえば、我が主人ヴァルバトーゼ様は聞き分けが良過ぎた。あくまでも悪魔なので 7025

    last_of_QED

    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
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