タイトル未定「冬弥! おはよ!」
信号が変わるのを待っていると、突然背中にのしかかった鈍い衝撃と共に、冬弥が暇さえあれば反芻してやまないよく通る明るい声が耳に入った。少し緊張する気持ちを落ち着かせるように一旦息を吐いてから振り向くと、冬弥の返事を待つ可愛らしい笑顔がそこにはあった。
「おはよう、白石」
「行きでばったり会うのって何か珍しいね。このまま一緒に行ってもいい?」
「ああ、もちろん」
「ありがと!」
杏が再びパッと笑う。グレーの鋭い瞳でその眩しい笑顔を捉えると、きつく胸を締め付けられるような感覚がして苦しくなった。恋煩いで自発的に苦しくなるくらいなら全ての根源である杏の姿を視界に入れなければいいのだが、それができないから冬弥は今日も胸の内で想いを募らせて一人で感傷的な気分になっている。
二人で並んで信号を待つ間も他愛無い会話が続いていた。今日の授業の話、お互いの相棒の話、次のイベントで歌う曲の話。信号を待っていることも忘れそうなくらい凝縮された楽しい時間だったが、頭上でピヨピヨと鳥が囀り出したのを聞いて、二人は同時に一歩を踏み出して歩き出す。
気付けば身体を溶かさんとする猛暑は過ぎ去り、代わりに肌を冷やす秋風が吹いてくるようになった。冬弥の隣に立つ杏が薄手のカーディガンを着ているのを見て、日が短くなったことや金木犀の香りよりもはっきりと秋の気配を感じた。冬弥自身も不思議に思っているが、密かに想いを寄せている相手の服装が変わったのを見て秋を自覚しているのだ。
「こないだまで暑かったのにな~。何か今日は肌寒いね」
「そうだな……次のイベントも近いし、体調管理はしっかりしていかないと」
(ここまでです 頑張ります🙂)