救済は確かにあった昔。
万次郎とエマに読んでやった本の中にこんな話があった。
美しい天女に惚れた男が、天女が天に帰るための羽衣を隠し結婚して欲しいと迫る。
渋っていた天女はとうとう折れ、男の妻になったが数年後、羽衣を見つけ天に帰ってしまう。
それを読んだ時、思ったのだ。
───なぜ羽衣を処分しておかなかったのかと。
「天に帰れる手段があるなら、端から潰しとけばよかったんだ」
美しい白と、それに似つかわしくない赤の中で真一郎はそう呟いた。
卍
「ねぇ母さん!オレ久しぶりにハンバーグ食いたい!」
「退院したばかりなのに食べれるの?」
「大丈夫だよっ!」
仕事の合間。
いつも通り病院へ向かう真一郎の横を、退院したばかりらしい子どもが、母親の手を引き嬉しそうに通った。
8514