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    みかん

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    みかん

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    ほとんどメモのような忘羨の独白。
    日本語版小説の書き方やラジオドラマの感じだと、こういう解釈もありかもしれないと思った……。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #忘羨
    WangXian

    忘却を羨む手のひらがあたたかい。
    ぼろぼろになった藍湛が、俺の前に跪いて両の手を握っている。
    懸命にこちらを見あげて、いつになく必死なその顔が、俺に何かを伝えようとしている。
    唇がうごく。嗚呼、彼はなんと言っている?
    「――――、――!」
    何かを伝えようとしていることはわかるのに。それがきっと大切なことだとわかるのに。
    ここは乱葬崗に近いのか。どうしてかいつもより鮮明に聴こえる亡者たちの声がうるさい。
    「魏嬰、―――」
    うるさい。うるさい。
    「――、聞いて。私は――、」
    黙れ。藍湛の声が聞こえないだろう。

    「――失せろ!」






    もう届かない。壊れていく彼の心を留める力が、私にはない。
    ―――遠くから聴こえた彼の義姉の声は届いたのに。







    どうすればよかったのだろう。どうすれば、彼を繋ぎ止めていられた?
    彼の帰る場所が私でなくとも、せめて。
    せめて、この世の何処かにあれば。この世の何処かに、ひとつでも残っていれば。
    私では駄目だった。どうして。こんなに想っているのに。こんなに。こんなにも。







    みんな居なくなってしまった。産んでくれた人も、育ててくれた人も、いつも味方でいてくれた師姉も、温情も、温寧も。守らなければと決めた人達も全て。
    「ああ、でも」
    憎まれてしまったけれど、でも。彼は、江澄だけは、どうにか護ることが出来たのだろうか。
    虞夫人と江おじさんから託されたものは、護ることが出来ただろうか。
    ―――それなら。
    「もう、ひとりだ」
    どうなったっていい。もう、どうでもいい。
    金丹の無い肉体に陰気を纏わせて、無理やり動かしただけの体はそろそろ限界だ。
    不夜天での傷も癒えきっていない。

    ひとりなのに。なんのために抵抗なんてしているんだ?

    そんな思考が過ぎった時点でおしまいだった。
    今まで仙師を敵としていた凶屍達が、唐突に動きを止めてこちらを向く。
    爛爛とした無数の目が俺を見ている。
    「……ぁ、」
    初めて乱葬崗に落とされた時の恐怖がどっと湧き上がり、口元から離れた陳情が、びくりと震えた手から滑り落ちた。

    ―――もう、制御できない。

    怒る亡者たちの声が聞こえる。
    お前が叩き起こして戦いに使ったくせに、何を言っている!











    罰は甘んじて受けよう。その一瞬だけでも、彼と同じ痛みが味わえるなら。
    肉体の傷が癒えぬうちに、彼が死んだと知らされた。
    「……そうか」
    死んだのか。
    失せろと拒絶されたあの時から薄々と感じていたからか、それ程の衝撃はなかった。この世に絶望した彼が、私の声で戻ってくることは無いと思い知ったからだろうか。
    ただ、ひとめ会いたかった。それが亡骸でも、魂のひとかけらでも。
    木のうろで見つけた、あの日、穏やかに会話が出来た最後の別れの日に、彼が抱いていた小さな子ども。何も残さなかった彼との、唯一の繋がり。
    高熱でそれ以前の全てを忘れてしまったこの子を、彼が守ろうとしたものの一端を、私が救い上げなければ。
    ほとんど縋るように、無理やり藍家に迎え入れた幼い子の育ちを見守る。
    願う名を与えて、彼の人を思う字を与えて。限りなく細い縁の糸を、手繰り寄せるように。




    深い深い眠りの中、呼びかけてくる全てを拒絶する。
    やっと眠れたんだ。もう起こさないでくれ。あの地獄のような現に戻るくらいなら、このまま穏やかに死んでいたい。






    招魂にも問霊にも応えないなら生きている。そんな絶望的な望みに縋って幾日も琴を爪弾く。それでいながら、白檀の香を焚いて密かに彼の弔いをする。
    相反する思考が、常に胸中で渦を巻く。
    死んだのは私の方かもしれない。香の匂いで無理やり精神を落ち着けて、彼が守りきった幼子を思い出す。掬うと決めたなら、生きねばならない。
    そうやって、どうにか、現を生きる。
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    遭難者

    MOURNINGネタバレです、暴走した妄想です!
    以前、魏無羨なんで魂壊れなかったの?って不思議から妄想。
    テキストも上げられるんだ!ということでベッタにあった初文章を
    藍湛誕生日に…内容関係ないけれど!!
    ーーーーーーー

     不可解なことがあった。

     何故、自分の魂はここにあるのか。


     自分が死んだ時、その時のことはあまり覚えてはいない。残っているのは魘されても醒めることなく泥沼でもがいているような嫌な感覚だけだ。
     反噬により肉体がなくなったとしても、魂はどうして今まで持ちこたえていたのか…

     鬼道で纏った陰湿な怨気が動力となり魂を存続させていたのだとしたら、恐らく大暴走しているはずだが、巷に流れる夷陵老祖が起こした事件はあまりにも小さい。…まったく、開祖に失礼なほど小さい。とすると…外に放出されていない怨気は内に籠り、魂を蝕んでいた可能性が高い。

     あの時、甦らせたい人はたくさん居たけれど、自分が今生に戻りたいは思ってはいなかったと思う。来世に生まれ変わりたいとも考えてはいなかっただろう。
     残してきた温家の人々のことさえ頭になかった。
     自分が招いたことではあるが…いや、自分が招いたことだと思いたくなかったから更に意識を狂わせていった。
    …金丹は長いこと無く、霊力は存在すらしない。

     魂は蝕まれ、この世に留まる気は一切なく、精神は傷付き、微々たる霊力すらない。

     魂は 1306

    sgm

    DONE去年の交流会でP4P予定してるよーなんて言ってて全然終わってなかったなれそめ曦澄。
    Pixivにも上げてる前半部分です。
    後半は此方:https://poipiku.com/1863633/6085288.html
    読みにくければシブでもどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/series/7892519
    追憶相相 前編

    「何をぼんやりしていたんだ!」
     じくじくと痛む左腕を抑えながら藍曦臣はまるで他人事かのように自分の胸倉を掴む男の顔を見つめた。
     眉間に深く皺を刻み、元来杏仁型をしているはずの瞳が鋭く尖り藍曦臣をきつく睨みつけてくる。毛を逆立てて怒る様がまるで猫のようだと思ってしまった。
     怒気を隠しもせずあからさまに自分を睨みつけてくる人間は今までにいただろうかと頭の片隅で考える。あの日、あの時、あの場所で、自らの手で命を奪った金光瑶でさえこんなにも怒りをぶつけてくることはなかった。
     胸倉を掴んでいる右手の人差し指にはめられた紫色の指輪が持ち主の怒気に呼応するかのようにパチパチと小さな閃光を走らせる。美しい光に思わず目を奪われていると、舌打ちの音とともに胸倉を乱暴に解放された。勢いに従い二歩ほど下がり、よろよろとそのまま後ろにあった牀榻に腰掛ける。今にも崩れそうな古びた牀榻はギシリと大きな悲鳴を上げた。
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