珈琲と貴方 列車が宙を飛んでいた。
窓から見える景色は幻想的で、小さな星々がキラキラと輝いていた。
何とも非現実的な光景だと思った。
ソファに背を預けながら、ぼうっと眺めていると、ことりとテーブルに何かが置かれた。
視線をやれば、そこには珈琲が入ったカップ。
ソーサーに添えられた手は、しなやかで美しく白い。
そのまま視線を上げれば、姫子と目が合い、ニコリと笑みを浮かべられた。
「珈琲は嫌い?」
「嫌い……ではないと思う」
「なら、良かった。一人分だけ煎れるのもなんだから、アンタの分も煎れちゃった」
「ありがとう」
礼を述べれば、姫子は自分の分の珈琲を片手に、いつも自分が座っている席へと戻っていった。
記憶がない穹にとっては、自分の好き嫌いもよく分からなかった。しかし、姫子が煎れてくれた珈琲の香りは嫌いではなかった。
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