兄と弟~Halloween~「トリックオアトリート!」
可愛らしい仮装に身を包んだ子供達がハロウィンの常套句を口にした。
その言葉にクロードは、かごから数個クッキーの入った袋を取り出し、彼らに手渡す。
「ハッピーハロウィン」
その言葉に子供達は笑みを零し、バイバイと元気よく手を振りながら去って行った。
その後ろ姿を見送り、見えなくなったところで、ふうと息をつく。
十月三十一日。今日はハロウィンで、クロードはボランティア活動の一環として子供達にお菓子を配り歩いていた。そろそろ、かごの中のお菓子が少なくなってきた。施設に戻って補充をしてこないといけない。そう思った時だった。
「トリックオアトリ~ト~」
「……兄貴」
吸血鬼の仮装をしたメロルドは、子供のように、さあ、どっちだと言わんばかりに待ち構えていた。大の大人が何をやっているのだろう。クロードは兄に冷たい眼差しを送った。
「大人にやる菓子はない」
「それって、イタズラをご所望って事? 可愛い黒頭巾ちゃん」
ふわりとフードを外される。
彼の言うとおり、クロードの仮装は赤ずきんを模した格好だった。黒いフードがついたローブ、白いシャツとサスペンダー。膝下までのパンツ。正直、恥ずかしいところがある。勿論、クロード自身が選んだのではなく、似合うからという職員からの意見からだ。
「んな訳ないだろ。……てか、ジロジロ見るなよ」
「だって、そんな格好してると昔を思い出してさ~。近所の人に一緒にお菓子貰いに行ったよね」
「……まあ」
「一緒に手繋いでさ。仮装のパレード見に行って。でも、人混みではぐれちゃって、「お兄ちゃん待って」って。必死に僕を追いかけるクロード、可愛かったなぁ」
「いつの話してんだよ!!」
メロルドの脇腹を軽く殴る。
確かに幼い頃、ハロウィンの日は一緒にお菓子を貰いに行ったり、華やかなパレードを見に行ったりしたが、それも昔の話だ。思春期に入ると、自然と一緒に行く事はなくなった。
「ねえ、久しぶりにパレード見に行かない? 話してたら、見たくなっちゃった」
「行きたければ一人で行けば」
「つれないな~。そんな事言う子にはイタズラしちゃうからね」
メロルドがすっと近づく。距離の近さに思わず後ずさりしようとすると、両肩を掴まれ、首筋に冷たく、でも柔い感触が当たる。
「あに、……!?」
軽くリップ音が鳴り響き、メロルドは満足したように体を離した。
すぐさま首筋に手を当てると、クロードの反応にメロルドは上品に笑みを浮かべた。
「付き合ってくれないクロードが悪いんだよ~。来年は一緒に見に行こうね」
そう言うと、メロルドは手をヒラヒラと振りながら元来た道を戻っていった。
メロルドに何をされたかなんて、見なくても分かる。
「馬鹿兄貴……」
少しでも痕を隠そうと、フードを深く被る。
季節はもう冬が訪れようとしているのに、体はどうにも熱い。
このままここで突っ立ていると、メロルドの唇の感触を思い出しそうになり、クロードは逃げるようにその場を後にしたのだった。