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    2023/12のホリデー前ログイン会話ネタ
    🦁がにゃあって言う
    モブとの会話
    捏造たくさん

    #レオイデレオ
    #ツイ腐テ
    #同軸リバ
    coaxialRiver

    あたりまえ。「今日はここまで、各自しっかり復習するように」

    トレインの静かな宣言とともに本日の授業が終わり、僕は小さくあくびをした。
    やっぱり生身で受ける授業は面倒。
    それが例え運動でない座学であっても、疲れるものは疲れる。
    早く用事を終わらせて帰りたい。
    脳内で管を巻いていると、隣で、

    「お前が実技以外の授業を生身で受けてるとはな」

    と、レオナ氏が緑色の目を細めた。

    「それ実技以外大体寝てるレオナ氏が言います?」
    「この授業は起きてただろ。いいんだぜ?褒めてくれても」
    「あー、はいはい。眠たいのに頑張って起きててねこたんすごいね」
    「……にゃあ」

    その返しは想定してない。
    僕は堪えきれずに吹き出した。

    「んっふ……ふひひ、ひっ……くっそ……!」
    「可愛いだろ?」
    「ドヤ顔で追い打ちかけてくんのやめてくんない?」
    「はん、お前のご期待に応えてやってんだろうが」
    「なんでちょっと不満そうなのか、これがわからない。まさかそこも褒められるべきだと思ってらっしゃる?」

    応酬を続けつつ、腹筋へのスリップダメージを耐える。
    にゃあて。
    過去似たようなやり取りがなかったとは言わないけども、まさか教室で来るとは思わないじゃん。
    完全に意識の外からの不意打ちはズルい。
    じわじわくるにも程がある。

    「紛うことなくそうだろうよ」

    レオナ氏は顔を少し上げて、僕を見下ろした。
    ふふん、なんて書き文字が幻視できるほどの誇らしげっぷりだった。
    さっきの褒め要求といい、凄い普通に弟ムーブしてくるんだよなレオナ氏。
    可愛い。
    さすがにこの場では言わないけど。

    「はぁ〜、すっかり己がねこたんであることを利用するようになっちゃってさぁ」
    「お前が逐一『ねこたんねこたん』連呼してきた成果だぜ?良かったな」
    「いやそこまで連呼した覚えないが??」
    「はぁ……異端の天才ともあろうお方の記憶力が劣化し始めてるとは、嘆かわしいな」
    「君が慇懃無礼をセリフにするとそうなるんだ、勉強になりますわ。そこまで言ってないってだから」
    「おいおい、事実を認めないのは見苦しいぜ?」

    サクサクと軽口が返ってくるあたり、振りでなく、本当にしっかり起きていたらしい。
    おまけに『にゃあ』なんて口にするくらいにはご機嫌ときてる。
    どういう風の吹き回しだろう。
    まあ理由がなんであれ、僕としてはこうして会話しているおかげで他の生徒から触れられずに済んで有り難かったりする。
    ライオンの威光に感謝。
    僕一人ではこうはいかない。

    「──で、お前がわざわざ出てきたからには何かあるんだろ?」

    前座は終わったと言わんばかりの質問の仕方だった。
    隠す意味も得もないので、僕は素直に目的を話すことにした。

    「この後オンボロ寮に用がありまして。イグニハイドからオンボロ寮に行くよりも校舎からの方が近いし、退屈なことを除けば授業分HP回復できるしで、最後のコマだけ受けにきたんですわ」
    「へぇ?」

    キュートなお耳が片方だけピクリと動いた。
    細められた目がさらに細くなる。
    圧を感じなくもないけども、やましいことは何もないのでスルーすることにした。
    というか僕だって好きで引き受けたんじゃない。
    寧ろ圧倒的被害者。
    可能なら全力で聞かなかったことにしたかったし、部屋に籠っていたかった。

    「監督生氏がクロウリーに『特定の生徒の一日の過ごし方』を聞いてこいって言われてて、拙者もその対象なんだって。しかも生身で来いっていう指定付きで草も生えない」
    「はっ、無意味極まる質問だな」
    「それな」

    僕はこんな質問をして意味がある人物ではない。
    例えば世界的スーパーモデルのヴィル氏や、魔法士として超有名且つ熱狂的崇拝者を抱えるマレウス氏などであれば日々をどう過ごしているかを知ることで喜ぶ層もいるのだろうけど、僕にそんなユーザーは存在していない。
    率直に誰得。
    需要が行方不明過ぎるだろ常識的に考えて。
    インタビュアーが陰キャ仲間の監督生氏であることが唯一の救い。
    これが陽キャだったら死んでるところだった。
    こんなところで運や徳を消費するのは痛いが背に腹は変えられない。

    「そもそも特定の生徒ってなんだよ」
    「全く同感だけど拙者も知らないんですよね~」
    「嘘を吐くな」
    「秒で嘘判定するじゃん。天才の拙者にだって知らないことも知れないこともありますが??」
    「ほぉ、そりゃ救われる話だな──とりあえず、お前の知れないことっつー表現は面倒だから無視するとして、だ」
    「草」
    「クロウリーが草食動物に頼んだまではわかったが、断りゃよかっただろうが」
    「うん、拙者もそうしたかったんですけどね」

    遠い目。
    本当、どうしてこうなった。

    「受けないと実家に『色々と』連絡するって脅されてるんで受けざるを得ないといいますか」

    実家というワードのせいか、レオナ氏の表情が露骨に引きつった。
    反射的に自分に当てはめてしまったのだろう。
    実家への複雑な感情というよりは、ご家族及び関係者から諸々の煩わしい(?)意見が飛んでくる方を想像していそうだけど。

    「相変わらず手段選ばねぇな、あの鴉」
    「まあこの手の脅しは実際にやらないから効力を発揮するみたいなところあるけど、万が一にもされちゃったら困る……いや面倒くさいので、無意味極まる質問に答えるだけで済むなら受けるしかないと判断した次第」
    「なるほど?殊勝な心掛けだな。俺は寝に帰るが、精々頑張れよ」

    レオナ氏はニタニタと笑っている。
    これは完全に自分に被害がいかないと思って楽しんでるやつだな。
    安全圏からの高みの見物はいつだって愉快なものだし、気持ちはわかる。
    残念ながら今回はその限りではないんだけども。
    僕はあくまでも親切心で、持っている情報を教えてあげた。
    うん。
    親切心、あくまで。
    決して彼の驚いた顔を見たいなどではない。

    「ちなみに、聞くところによると少なくとも寮長はみんな対象とのことで」
    「……は?」
    「そのうち君にも話来るんじゃない?レオナ氏の場合は直じゃなくてラギー氏経由かもしんないけど」
    「冗談だろ」
    「いやぁ、冗談だったらどれだけ良かったか」
    「クソ、クロウリーの野郎……」

    絵にかいたように目を点にしたレオナ氏は何回かの瞬き後、ストレートに悪態を吐いた。
    安全地帯かと思っていた場所が相手の攻撃範囲内だったんだからそれはそう。

    「その時が来たら精々頑張りなよ。応援はしてあげるから」

    口の端を吊り上げて、僕は席から立ち上がった。
    説明も終わったことだし可及的速やかに用件を片づけてしまいたい。

    「ま、そんなわけですんで行ってきますわ」
    「ああ」

    レオナ氏も特に僕を引き留めたりはしなかった。
    タブレットをふわふわ浮かせて、僕はオンボロ寮を目指して歩き出した。


    ******


    今頃イデアはオンボロ寮だろうか。
    寮へ繋がる鏡を前に、物思いに耽る。
    クロウリーから半ば強制的に指示されてるとはいえ、他人の縄張りに恋人を一人やるというのは中々に面白くない。
    実技以外で珍しく授業に出ている姿を隣で拝めたと思ったらこれである。
    自分の機嫌が乱高下しているのがよくわかる。
    しかしあの草食動物を、ましてやイデアを責めても意味がない。
    俺は露骨にため息を吐いた。

    「はぁ……」

    避けられないなら仕方ない。
    イデアが帰ってきた後に匂いを上書きすればいいだけだ。
    そう考えながら鏡をくぐる。
    現れるのはサバナクロー寮……ではない。
    イグニハイド寮である。
    ここにいることはラギーに伝えていないが、頭の回るハイエナは問題なく推し量るだろう。

    「さて、誰か一人くらいは居て欲しいもんだが」

    そう言って、談話室に向けて歩き出す。
    イグニハイドは年中薄暗い。
    明るさがないわけではないが人工的で、空に輝く太陽には程遠い。
    サバナクローとは全く違う。
    正直居心地が悪かったが、今となっては慣れたものだ。
    まあ、慣れたのは俺だけではないんだが。

    「あ、お疲れ様です。うちの寮長がいつもお世話になってます」

    談話室に入った途端、一番近くにいた寮生がかけよってきて頭を下げた。
    慌てているでも焦っているでも、怖がっているでもない。
    まさしく俺に慣れた結果だった。
    顔を出し始めた当初は巣穴に天敵が入りこんだが如くの大騒ぎだったからな。

    「イデア寮長なら帰ってないですよ」
    「知ってる」
    「ですよね、聞いてますし」

    『部屋に行く』と口に出したわけではないが、今回もイデアには伝わっていたようだ。
    自然、耳と尻尾が大きく揺れる。

    「条件は?」
    「『来たら指紋認証って言っといて』」 
    「相変わらず手早いな、あいつは」
    「信頼の賜物では?」
    「よく言うぜ」

    毎回一つは自室のロック解除に条件をつけるのも、自身の不在時にこうして伝言を頼むのも変わっていない。
    一、二年時の頃の名残だ──厳密にはあの時の扉は現在より厳重ではなかったが。
    なんにせよ、他者へのデフォルト姿勢が警戒なイデアが俺にはこの程度で済ませている事実に、毎度のことながら優越感を覚える。
    初対面で好感らしきものを得られたのが大きかったのかもしれない。

    「伝言もいつも通りでいいですか?」
    「ああ、カイワレが戻ったら伝えろ」
    「はい、ではごゆっくり」
    「おう」

    寮生との会話を終え、談話室を出る。
    目指すはイデアの部屋だ。
    迷うことなく足を進めていく。

    「……信頼か」

    イグニハイド寮生から、俺たちはそんな認識なのかと思う。
    単純に俺とイデアの関係に気づいてないのかもしれないが、他寮のやつならいざ知らず、それは無理があるだろう。
    総じて勘づいてはいる。
    ただ言及しないだけだ。
    実際懸命な判断である。
    俺が言うのもなんだが、イデアは自身に踏み込まれるのを嫌がるし、自分の大事なものには敏感で容赦がない。
    大事なものに何かあればすぐに察する。
    害されていると判断したらすぐに怒る。
    悪意なんて全くない、些細な言葉にすら反応することもある。
    まったく。
    自分自身にはあんなにも無頓着だというのに。

    「少しは自分にも目を向けてくれたらいいんだがな」

    世話を焼いている『弟』の気持ちもわかろうというものだ。
    辿り着いた扉の前で、俺は一人苦笑した。
    指紋認証を済ませ、中に入る。
    室内は暗いままだったが、見えるので問題ない。
    灯りが要るならイデアが帰ってきた時に点けるだろう。

    「……ふん」

    イデアの匂いがする。
    というか、イデアの匂いしかしない。
    そんな中で本人が隣にいないというのは、妙な感じがする。
    落ち着かない。
    ベッドで横になると、それは余計に強くなった。

    「いや……」

    落ち着かないというよりは。
    あるべきところにあるはずのものが無いような。
    必要なものが欠けているような。
    前提条件が抜けているかのような違和感。
    そして、そんな気持ちが確かにあるなら。
    俺にとってのイデアは、おそらくそういうことなのだ。

    「ふはっ」

    今頃かよ。
    思わず心の中で毒づいた。
    あいつに会って三年だぞ。
    余りにも遅いだろうが。

    「はは、は、そうか……」

    確証がない恋人であるとはいえ勿論イデアのことは好いているが、己の意識がここまでとは。
    いったいいつからだ?
    気にかけ始めた瞬間からか?
    自覚してしまった途端に沸々と気恥ずかしさが込み上げる。
    勝手に綻んでいく口元を、つい手で抑えた。
    不本意ながら、この状態はしばらく続きそうだ。
    今この瞬間、イデアがいなくてよかった。
    この感情を否定する気はないが、情けない姿は見せたくない。
    イデアが帰ってくる頃には、きっと治まっているだろう。
    俺は笑いながら喉を鳴らした。

    「……俺をここまでさせるとは、とんでもねぇ天才サマだな」


    ******


    「ん、ん、んー?」

    『久しぶりに完徹コースっすわ!』 
    自分で発した言葉に自分で驚く。
    それもその瞬間ではなく時間差で。
    監督生氏と別れた後、鏡舎に着く頃になってから。

    「久しぶり……久しぶり、だなあ、うん」

    言ったセリフをゆっくりと反芻する。
    僕は開発、研究、趣味、興味対象その他諸々の為なら平気で睡眠を削るタイプの人間だ。
    NRCに来てからじゃない、来る前からそうなのだ。
    長時間の睡眠を要する人間という生き物は設計がおかしいと思うし、いくら僕が天才でコスパタイパの鬼でも、悠長に寝ていてはやりたいことに対して時間が足りない。
    結果、僕の睡眠はこれまで高頻度で犠牲になってきた。
    要するに僕にとって徹夜というのは特段珍しくもない、身近なものだったのである。
    だった、はずなのである。

    「……うーん」

    僕は唸りながら鏡を通過した。
    目の前にはすぐにイグニハイド寮が現れ、今度は自室を目指して足を進めていく。

    「そうなんだけど」

    嘆きの島での一件であの子──オルトに『とてもじゃないけど、一人で放っておけないよ』と言われて以降、僕なりになるべく徹夜を減らせるよう努力はしていた。
    『弟』から改めて生活習慣に苦言を呈されたことは僕にとって結構なダメージだったのだ。
    だって普段ならいざ知らずあの一件の後で、オルトに修正不可能なバグが──心が出来た流れの中でだよ?さすがにクるでしょ。
    そりゃあ僕も少しは自分の生活を省みようって気になるというもの。
    その成果として、『久しぶりに完徹コース』が口から飛び出したのかもしれない。
    徹夜じゃない判定が怪しい日があるにしても完徹が久しぶりなのは実際そうなんだから。

    「でも、なんだろう」

    忘れていることがあるような。
    見落としていることがあるような。
    自分の努力以外にも確かなことがあるような。

    「……やだなあ」

    もやもやしたこの感覚が気持ち悪い。
    何かが引っかかってとにかく気に掛かる、そんなじ。
    早く思い出してしまいたい。

    「あ、寮長!いつものお客さん来てますよ」

    寮に入り談話室に顔を出すと、寮生の一人がそう教えてくれた。
    お客さんが誰なのかを聞く必要はない。
    この報連相もすっかりお馴染みになった。
    僕が一年の頃から似たようなことが続いているんだから、それはそうなんだけど。

    「なんか言われた?」
    「いえ、いつも通り『カイワレが戻ったら伝えろ』だけです」
    「ありがと」

    お礼を言うと、わらわらと他の寮生達から声がかかる。

    「イデア寮長、オルトにもサバナの寮長来てるの伝えときましたよ」
    「オルトも随分懐いたよね」
    「兄ちゃんと仲良くしてくれてんのが嬉しいんだろ」
    「そういやあの人、今回こそはラギーに言って来てんのかな」
    「言ってないんじゃね?まあ、要らなそうだけど連絡はしとく」
    「あー寮長、緊急の件以外はなるべく回さないようにしときますけど、俺たちの手に負えない事態になったらヘルプお願いします」
    「外部からの連絡も同上、以上でーす」

    お客さん報告と合わせて、これも最早恒例行事になっている。
    レオナ氏との関係が概ね知られているのは恥ずかしかったけど、基本みんな触れてこないので平気になった。
    いつもながらさり気なく気をまわしてくれているあたり、本当手のかからないというか、わかっている子達ばかりで助かる。
    伝言を引き受けてくれることにも感謝しかない。
    僕が寮長をやれているのはオルトとこの子たちのお陰。
    やっぱりイグニハイド推しだな。

    「ん、よろ」

    僕は寮生たちにひらひらと手を振って、談話室を後にした。
    改めて自室に向かって歩を進める。
    えーと、なんだっけ。
    そうそう、僕が何か忘れてるんじゃないかなぁ?って話だった。
    寮生達と話してる時に一瞬取っ掛かりが見えたと思ったんだけどなぁ。
    思っただけ。
    そこに無ければ無いですね。
    いっそのこと一時的に放置してしまうのが良いのかもしれない。
    作業や思考が行き詰った時に日を置くとあっさり進んだりする現象を期待して。
    ほら急がば回れって言うし。
    時には遠回りが大事なこともあるし。

    「何より、今はねこたんをおもてなししなきゃだし」

    誰に言うでもない言い訳をつらつらと並べる。
    談話室から出てから早足になってしまっているあたり、我ながら単純である。
    なんなら僕の脳内はもう彼に侵食されていて、さっきまでの考え事は隅に追いやられつつあった。
    体は正直。
    ──いやこればかりは仕方ないよね。
    やがて辿り着いた自室の扉を前に、僕は一人で苦笑する。
    手早くロックを解除して中に入ると、寮生が言うところのお客さんの声がした。

    「よぉ、遅かったな」
    「ごめんね……あ」

    軽口で挨拶しベッドに寝転がるレオナ氏を視界に入れた途端、僕の疑問は呆気なく氷解した。
    ふふ、と、思わず笑みが溢れる。

    「どうした?」
    「いや大したことじゃないんですが今のレオナ氏見たらある疑問がこれ以上ないくらいあっさり解決しまして」
    「ふぅん?何が解決したかは知らねぇが……まあいい、早く来い」
    「りょ」

    室内は暗いままだったけど、全く見通せないわけじゃない。
    自分の部屋だ。
    置いてある物の位置は感覚でわかる。
    僕は扉にロックを掛け直し、タブレットを定位置に置いて、迷うことなくベッドに着いた。
    そしてゴール地点のレオナ氏の腕に潜り込み、額を彼の胸にくっつける。
    高い体温と、心臓の音。
    圧倒的安心感。
    落ち着く。

    「……実は今日完徹しようと思ってたんだけど」
    「あ?するなそんなもん」

    レオナ氏の右腕が僕を抱いた。
    これで僕は逃げられない。
    取れる選択肢は一つしかない。
    意地でも僕に徹夜させない気なんだろうな。

    「おら、さっさと寝ちまえ」
    「さすがに時間早過ぎじゃない?まだ夕方だよ?」
    「いいんだよ、俺の快適な睡眠の為に大人しく抱き枕になってろ」
    「出〜、俺様何様レオナ・キングスカラー様〜」
    「おいそれやめろ」

    グルル、とレオナ氏が唸る。
    それすらも心地良くて、僕はうとうととしてくる。

    「ふひ、僕は好きだよ」
    「……そうかよ」
    「あ、もしや照れてる?撮りたいからちょっとタブレット持ってきて」
    「うるせぇ、大人しく寝ろ」

    レオナ氏と寝ることが僕にとって日常になっている。
    これが僕の努力以外の部分の答えなのだった。
    そして日常になっているなら、僕にとってのレオナ氏はそういうことである。

    「なるほどなぁ」

    言われなくても部屋に来るってわかるとか。
    第三者と話していてつい彼を思い浮かべてしまうとか。
    慣れたものなオルト、ラギー氏、寮生達とか、思い当たる節は多数ある。
    しかしそれ以上に落ち着いたり安心したり、あまつさえ眠気まで発生するのがもう決定的というか。
    警戒が仕事してないというか。

    「あはは、気づくのおっそ……」

    所謂、自分のことは意外と自覚し辛いってやつなのだろう。
    元々自分を顧みない僕なら尚更。
    ──にしたってレオナ氏と会って三年目だよ?今頃過ぎるだろ。
    事実を確認できてないなりに恋人……だから、勿論大事だけど、自分の中でそこまでだとは思わなかった。
    僕がそうなるくらいレオナ氏が近くにいてくれた事実は嬉しい。
    でも、嬉しくない。

    「なにがだよ」
    「いつの間にか」

    じわりと視界が滲んだ。
    僕はどこか他人ごとのように呟いた。

    「レオナ氏が居るのが、あたりまえになっちゃったねぇ……」

    ならないほうが苦しくないのに。
    涙が落ちる。
    ──ああ、さよならしたくないなぁ。
    『どこにも行かないで。僕とずっと一緒にいて』
    いつかのセリフが脳裏をよぎる。

    「…………」

    腕枕をしているレオナ氏からは僕の顔は見えない。
    僕にも彼の顔は見えない。
    今、どんな表情をしているのかな。
    彼にとって僕は、どうなんだろう。

    「ふ、くくっ……!あたりまえ、か」

    レオナ氏は心底楽しそうな声で言って、僕の髪を撫でた。
    暖かい。
    身体機能がどんどんオフになっていく。
    いいや。
    もうこのまま、言われた通りに寝てしまおう。
    眠気に任せて目を閉じると、レオナ氏のあたりまえが耳に入った。

    「ずっとそうだろ、お互いにな」

    僕はそれに願望で答えた。
    ずっと君の傍にいることが、本当に現実になったなら。

    「ひひ……いいね」

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