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    かるら

    @nk_Acr

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    かるら

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    受け若干病み

    #万空
    wankong

    醜い俺を嫌になる。

    どうして、こんなことを考えてしまうのだろうか。


    「無事今日の依頼を達成しましたね!」
    稲妻には今日も、キャサリンの明るい声。空はありがとう、といいながら報酬を受けとる。いつも通りの光景、そして日常だ。ただし…これは表の話。

    空は最近、どうしようもなく嫌なことがある。
    それは自分の考えてしまった、あることについて。
    こんなこと、考えるなんておかしい。非常識だ。やめてしまおうと思うのに、蜘蛛の糸のように絡み付き、空の脳から離れない。


    ―あの時、万葉が俺を雷電将軍の一太刀から助けてくれたのは…
    俺を助けようとしてたんじゃなくて、俺の姿を親友と重ねていたからじゃないのか?―


    いつかの夜、それは、何気なくあの日のことを思い出していたときにふと現れた。
    あまりにも突然で、心臓がどくんとはねたような感覚を覚えている。
    (俺は一体…何を考えて?)
    空は万葉に感謝しているし、良い友人だとも思っている。それなのに何故今さら、このようなことを考えてしまうのだろうか?あそこで姿を重ねたからこそ、あの一太刀を防げたはずだ。それなのに俺は…。
    空は自分の心の醜さに、思わず涙をこぼしたほどだった。

    空は最近万葉を避けていた。今会ってしまえば、どんな風に話せば良いか分からなくなるだろうから。
    今日も、すぐに稲妻から立ち去る予定だった。空は笑顔をつくり、パイモンに話しかける。
    「今日はどこの国の秘境いこっか。俺は稲妻以外ならどこでもいいんだけど、パイモンはどう思う?」
    パイモンは少しまゆをひそめ、
    「なんで最近、稲妻の探索をしないんだ?オイラもっと稲妻の各地を見て回りたいぞ!」
    と、なんとも的確な意見をなげてくる。
    「えーっと…」
    空はあまりの図星発言に言葉を失ってしまった。
    「とりあえず今日は稲妻巡りだ~!」
    パイモンはそう言い、空から地図をぶんどり先へと進んでいく。
    「あっ…パイモン待って!泥棒ー!」
    空は頭をかかえ、パイモンを追いかける。
    (仕方ない、今日は万葉に会わないよう気を付けながら稲妻を探索するか。)
    会ったときの対処法も考えながら、空はパイモンの頭を軽くこづいた。


    万葉は最近悩んでいた。
    (近頃、空を見かけないでござるな…)
    目狩り令が廃止され、さらに開国もしたので、現在の稲妻は平穏な日常そのものだった。
    万葉には夢があった。
    それは、いつか稲妻がまた平和になれば友とまた、ゆっくり茶を楽しみたい、ということ。
    ささやかな願いだったが、当時の万葉にとってそれは夢物語だった。
    しかし、今稲妻は、旅人と抵抗軍、それから稲妻の人々の願いのおかげで毎日が平和だ。友と、師と、家族と…笑い合い、日々を過ごせるのだ。
    万葉は嬉しかった。嬉しいという言葉では形容できないほどに。かつての友はいない。しかし、過去に縛られても生きてはゆけないのだ。弔い、共にあの頃の日々を懐かしみながら、新たな友と人生の先を照らすことが大切なのだ。
    そう決意し、万葉は北斗とともに今日も死兆星号で生活をしていた。

    (なぜ空をこんなにも見かけないのでござるか!?)
    万葉は、一連のことがもし無事に終わったら空と共に茶でも飲みながら雑談などをしたい、と考えていた。そして、空を見かけたら誘おうと思っていたのだ。
    しかし。
    いつからか、空を見かけなくなった。探しに出たこともあったが、空の姿を目にすることはできなかった。
    (なぜだ?空は…目狩り令が終わる前に、もし稲妻が平和になったらのんびり稲妻に滞在したいと言っていたであろうに…。まさかもう他国に出向いたわけではあるまい。)
    万葉には、空が見当たらない理由はわからなかった。


    「ふぅ…終了~。」
    夕焼け色が広がっている。
    今日何個目かの秘境から出てきた空は、大きく伸びをする。パイモンはふわぁと欠伸をしながら今日集めた素材を確認していた。
    「空、今日は結構いい素材がとれたな!ほらこれ、ちょっと前から探してたやつじゃないか?」
    「え?見せて見せて…あ、ほんとだ!」
    秘境の近くで空とパイモンはそんなことを話しながら盛り上がっている。二人は新しい素材に夢中になり、気づいたら辺りが暗くなっていた。
    「わっ、もう夜だ…。」
    「ちょっと夢中になりすぎたな」
    慌てて素材をかき集め、鞄におしこむ。
    (早く洞天に入らないと…万葉に見つかりでもしたら…)
    空はパイモンに早く、と促しながらかけだす。と、そのとき。
    「わっ!」
    「っ!」
    どんっと、暗闇から出てきた影にぶつかった。
    「ごめんなさ…」
    そこまで言い、空の声は喉に留まった。
    「すまぬ…空。」
    空は息を飲んだ。最初暗くてよく見えなかったその顔を、雲から抜けた月が照らしていく。
    「か…かずは……」
    「全く、やっと会えた…って空!?」
    空は瞬時に万葉と反対方向に全力ダッシュしていた。
    「パイモン、先に洞天に帰っといて!」
    そう言って空は後方に荷物と壺をぶん投げる。それはよくとび、パイモンを通り越し崖の下へ落ちていく。
    「あーー!空、帰ったら覚えとけよ!」
    パイモンはそう言いながら急いで荷物を追いかける。残された万葉は、はっと我にかえり
    「空」
    その一言だけ言い、空の逃げた方へ風のようにかけていった。


    「はぁっ」
    空はずいぶんと離れた木陰で立ち止まり息を整える。
    「びっくりした…でもここまでくれば…」
    「空。」
    「ひっ!?」
    振り返る。そこには何食わぬ顔で立っている万葉がいた。
    「あ…えっと…」
    「なぜ拙者から逃げた。そんなに拙者が嫌いか?」
    「いや!万葉は悪くないんだけど……その…」
    空は混乱する頭を片手でおさえる。どうやって接したらいいか、その事だけに一点集中しているため、万葉の顔などもはや見えていない。ぐるぐると、思考が空回りする。
    「とりあえず、」 
    万葉は空の腕をがっしりつかんだ。その体格からは想像もできないような、とても強い力で。
    「拙者、もう少し話したいでござる。」
    空は完全に言葉を失った。


    「まず聞きたいのは…お主が拙者を避けておったことは間違いないか?」
    空の体がビクッとはねる。額に汗を流しながら、
    「うん…」
    と弱く返事をする。
    「なぜ避けていたのでござるか?」
    空は強く拳を握りしめた。
    言えるわけがない。万葉に対して、醜い感情を少しでも抱いてしまったことを。
    空は黙りこくってしまった。

    しばらく沈黙が続いた。万葉は空の肩に手を置き、優しく語りかけた。
    「空、念のため申しておくが拙者は怒ってはおらぬぞ。ただ、拙者が何かしたのであれば、謝らなければ」
    「違う!!」
    突然空が大きな声をだしたため、今度は万葉の体がビクッとはねた。
    「ぜ…全部俺のせいなんだ…。だからこそ、理由を話したらきっと…万葉に嫌われてしまうと、呆れられてしまうと思って…俺、こんなこと考えたらいけないのに…」
    空は必死に言葉を紡いだ。
    最低な自分が嫌になりながらも、万葉が自分を避けた理由を知りたいのなら…と。
    万葉はそれを黙って聞いていた。
    話し終える頃には、空の声は小さくなり震えていた。罪悪感と自分への失望で、心はズタズタだった。万葉に嫌われた。それはほぼ空の確信だった。


    しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
    「なんだ、そんなことでござるか。」
    空は耳を疑った。万葉から何かしら罵声がとんでくると思っていたから、その言葉の軽さに一瞬呆気にとられた。
    「でも、俺…万葉に酷いこと…」
    「拙者の友に嫉妬したのであろう?」
    「…」
    万葉はふっと微笑んだ。
    「空、聞いてほしいでござる。嫉妬をされるというのは、その人が幸せな証拠でござる。それに、空がそのようなことを思ったのは拙者のことを好ましく思っているからであろう?」
    万葉はいたずらっぽく笑む。空は赤面し慌てて万葉から目をそらす。
    「う…うん…。でも」
    空はかぶりをふる。
    「この汚い感情を…そんな綺麗な解釈できないよ…」
    「空、もうよい。お主は少々気にしすぎでござる。」
    万葉は空の髪を優しく撫でる。それに、と続ける。
    「お主をあの一太刀から守ったのは、『空』を守りたかったからでござる。目の前でお主を殺されでもしたら、今頃拙者は正常に生きておれただろうか。」
    万葉は目を伏せる。
    「もう目の前で友を失いたくないという思いもあったし、お主を絶対、将軍の手にかけさせないとも思っていたのでござる。」
    万葉は再び、空の目を見つめる。
    「拙者はお主を死なせたくなかった。結局それが答えでござるよ。」

    空の頬を熱いものが伝った。空はとめどなく溢れるそれを必死に止めようと目をかたく閉じるが、目の端からさらに雫となり零れ落ちる。

    許されるのか。
    このような感情を抱いた者を。

    万葉の優しい笑顔を見て、我慢できず溢れる。

    「ごめん…万葉っ…泣くつもりなんて……」
    「ああ、よいよい。」
    万葉は、ははっと軽快に笑うと、空の頭を撫でた。
    「気がすむまで泣くのもよいことだ。しかし今後は、このようなことで悩まないと約束してほしいでござる。」
    空は目を細め、しっかりとうなずいた。

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