高麗の遣使 プロローグ:立柱 梅の花が散る丘の上に、村人達が集まっていた。彼らの視線の先は、綱で結ばれた方形の柱である。
「ソオレ! ソオレ!」
白衣の男たちが、太鼓の音に合わせて声を張り、一斉に綱を引くと、柱はゆっくりと礎石の上で起き上がっていく。やがて、ズシリと重い音とともに、柱は晴天を衝かんとばかりに真っ直ぐそびえ立った。
それを見守っていた村人は、わあっと歓声をあげ、皆一同に拍手を送った。
この日、相楽(註:京都府木津川市)の地で初めて、仏塔が建てられたのである。
簡素ではあるものの、美しく、力強い塔であった。
時は推古天皇の御世。天皇の詔により、臣下の者達は自らの氏族の威信にかけ、競って寺を建てだした。
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