いかせはしない 弟が死んだのだという。
それはやけに暑く、空気がベタベタと粘着質に感じるような重苦しい日だった。若干の息苦しさを覚えながらも書類に目を通していた時、真っ青になった職員が部屋に駆け込んできたのだ。
「レイン様! たった今イーストンから連絡があり、その……弟さんが、」
そこから先は覚えていない。
気がついたら、レインは薄暗い部屋に立っていた。目の前には布を被せられた何かが寝かせられている。
レインは白い布に、握り過ぎて強張った手をかけた。捲るまでのほんの一瞬が永劫にも思える。
下から現れたのは、久しく顔を見ていなかった弟だ。
「…………フィン」
弟の名を呼ぶ。
返事は無い。
部屋があまりに暗いから、目が覚めた時フィンはきっと怖がるだろう、とふと思う。 弟は人一倍臆病で、夜になるとレインにぴったりくっついて寝たものだった。小さな手で必死にしがみついてくる弟の熱を感じながら、どうやったら弟を笑顔にできるのか、そればかり考えていた気がする。
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