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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    カキツバタとアイリスとバトルの話。もとい卒業。
    ネタバレ、捏造、妄想、自己解釈注意。特に捏造妄想が激しいです。
    kktbtの日参加作品12作目です!1〜11作目と繋がりは無いので単体で読めます!
    kktbtの日最終日が来てしまいましたね……本当に毎日投稿してうるさかったかと思いますがとても楽しかったです。ありがとうございました。今後も勝手に暴れ狂いますのでよろしくお願いします。

    祝辞あの長いようで短い冒険から、二年近くの時間が経った。
    僕ハルトはブルーベリー学園での交換留学を終え、進級して未来を見据えて、友人達の卒業も見送って。
    二年。当たり前だが、その時間によりまた新たな生徒の卒業が学園とオレンジアカデミー共に決まった。
    ゼイユとネリネさんは先んじて。次にペパーや、オルティガくん達一部スター団。タロちゃんやカキツバタ先輩達ブルーベリー学園現三年生。知ってる人から知らない人まで、沢山の生徒が門出を祝われる。

    ……そう、カキツバタ先輩。僕が『ツバっさん』と呼び慕う、あの三回留年生。

    どういう風の吹き回しか、彼もまた卒業することが決まったのだ。

    それが報された時の友人達の驚きようといったら。混乱のあまり何度も何度も事実確認をする人も居た。微妙に失礼だけど、まあ気持ちは分かる。
    僕も留学が終了したので伝えられるのが遅れて、急に本人から「卒業するわ〜」とピースの絵文字付きのメッセージが届きひっくり返ったものである。それくらい衝撃的だった。だって出会った時から三留してて、「留年すれば長く学校楽しめてお得」だなんて意味不明なことまで言ってたから。まさか進級どころか卒業も果たすとは。それも、タロちゃんと一緒に。
    とりあえずおめでとうとは言い、彼らの卒業式にはブルベリーグ元チャンピオンとして出席することを伝えた。ゼイユやネリネさんの時もそうやって出ていたので、シアノ校長は快諾してくれるだろうと。

    兎にも角にも激動と衝撃を繰り返す日々は過ぎ去って、いよいよ卒業式当日になった。

    地方が違うのもありペパー達の式は別日だったので、僕は特に障害無くブルーベリー学園を訪れられる。
    「あっ!ハルトだ!」
    「ハルトー!こっちこっち!」
    「久しぶり……ってえ、なに?」
    すると、エントランスには同学年であり友人であるアカマツくんとスグリが居て。
    それどころか二人だけでなく、ゼイユにネリネさんにタロちゃんに……バトルコートの観客席がぎゅうぎゅうになるほどの人数が集っていた。生徒だけでなく先生や、多分保護者だろうけど校外から来たっぽい方まで。
    「え、何事?なにこれ?これからバトルでもあるの?えっ卒業式は?」
    「まだ開会まで時間はあります」
    「だから今年度最後の大勝負が始まるんだよ!ほら、ハルトも座って座って!」
    「ええ〜〜〜…………自由過ぎるよブルーベリー学園」
    呆れ果てながら僕も席に着く。
    今年度最後、しかもアカマツくんが大勝負と言って誰も否定しないなら相当なんだろうけど。
    多分公式戦じゃないと思われるのにギャラリーが多過ぎる。一体誰と誰が、

    『さて皆さん!!バトルの開始時間が来ましたですよ!!!』

    直後、スピーカーから聞き覚えありまくりの大声が劈いた。
    響き渡るなんてレベルでない勢いに、何人かが耳を塞いだり顔を顰めたりする。
    「えっこの声」
    『ハッサク殿、声が大き過ぎる。マイクとスピーカーを通しているのだから声量は不要だ』
    『ああ、これは失礼……』
    『今度は小さ過ぎる』
    「やっぱりハッサク先生!?なにしてんの!?」
    こことアカデミーは姉妹校であり、校長同士も仲が良い。特別講師だとかエリアゼロだとか、色々あったからハッサク先生が居ても不思議ではない、かもだけど。
    なんで取り仕切ってるのかが分からず戸惑った。マジでなにしてんですか?……え、ていうかもう一つの声誰?
    『まあとにかく!時間は限られていますですよ!早速始めさせていただきます!!』
    『ブルーベリー学園今年度、最後の勝負だ。ルールはシングルバトル!道具、テラスタルは使用不可!御託は不要であろう、さあ二人共!入場したまえ!』
    ブルーベリー学園なのにシングル!?しかもテラスタル無し!?
    もう僕は訳が分からなくて、校舎の方から聞こえる足音に緊張する。
    ……今、ここに居なくて、ここまで期待される強いトレーナーって言ったら、やっぱり。

    『挑戦者はブルベリーグチャンピオン!!カキツバタくん!!』

    いつもの服を纏い、しかしマントは肩に掛けて現れたのは、予想通りあのドラゴン使いの卒業生、ツバっさんだった。

    「おーおー、ギャラリーちょっと多過ぎねえ?」

    「カキツバター!!」
    「せんぱーい!!頑張ってねー!!」
    「はいよぉ。まーそこそこ頑張るわ」
    「なに言ってんだ!!やるなら全力だべ!!」
    「こーんな大仰な舞台用意してもらってんだから、負けんじゃないわよ!!」
    「ネリネ達はカキツバタの勝利に期待しています」
    「そう言われてもねぃ」
    皆の声援に彼は苦笑いする。僕も声は出なかったけど一応手を振っておいた。
    僕が留学終了と同時にチャンピオンを降り、後からスグリもブルベリーグに復帰したというのに、しかし頂点の椅子を今日まで防衛し続けた彼は随分緊張している様子だった。
    いつも誰が相手だろうと楽しくバトルするツバっさんが……『挑戦者』って言われてたけど、どんな人物に挑もうと言うのか。僕を指されても不思議ではないが、違う気がした。というか違って欲しい。僕も二年前より強くなったとはいえ、それは向こうも絶対同じだ。急に戦えと言われれば、正直勝てるかどうか分からない。

    『対するは!!』

    手汗を拭きながら待っていると、間も無くハッサク先生が声を張り上げ。

    空から影が落ちてきた。

    「へ?」
    「えっ」

    誰もが見上げた瞬間、そのまま飛んでいたポケモンから人間が飛び下りてきた。

    「うわあっ!?」
    僕の目の前だったので思わず悲鳴を上げてしまう。
    大胆な登場をしたその人物は……紫がかった黒い長髪を束ねた、褐色の女性で。


    『イッシュ地方チャンピオン!!!アイリスくん!!!』


    「ふぅー!チャンピオンのアイリスです!よろしくお願いします!」

    「イッシュ、チャンピオン……!?」
    いよいよもう何処から疑問に思えばいいのか混乱してきた。
    チャレンジャーであるツバっさんを相手するのは、イッシュ地方のチャンピオン、アイリスさん。僕も勿論テレビや雑誌で見たことある人で。
    「え、ねえ、これどういうことなの……?」
    「これってどれよ」
    「もう、全部。全部分かんない。なんで本土のチャンピオンが??挑戦者って???」
    「んー、俺達も詳しくは聞けてねえんだけど」
    「カキツバタ、卒業が決まったタイミングでチャンピオンとの勝負を希望したらしくて」
    「それを彼の祖父シャガさんから聞いたハッサクさんとシアノ先生が面白がって、こんな舞台を用意ってところです」
    『面白がってとは失礼な!』
    『ただ皆が興味あるかなーってセッティングしてあげたのに。ねえ?』
    「聞こえてるのかよこっちの会話」
    「ていうか校長そっちに居たんだ」
    「『ねえ?』じゃねーよ、オイラここまでして欲しいなんて言ってませーん」
    バトル強豪校のここと、本土の本物のチャンピオン。二人がぶつかるとなれば、確かに観戦出来るのは最高に嬉しい。
    でもハッサク先生はともかくシアノ校長は本気で面白がってるな……とツバっさんに同情した。

    「それにしても、カキツバタの方から私に挑んでくれるなんて。何年振りかな?」
    「憶えてないっスわあ。つーか生身で会ったのも超久しぶりだし」
    「何処かの誰かさんが全然帰って来ないお陰でね!」
    「どっかの誰かさん達が忙しいと思って気を遣ったんですぅ」
    「嘘ばっかり!」

    「…………あの二人、知り合いなんだ」
    「知り合いどころかノリが身内だべ」
    「意外な繋がりもあるものねえ」
    ツバっさんとアイリスさん、二人が威嚇し合っているところをハッサク先生達が制止する。
    『ともあれ。両者共、準備は?』
    「いつでもどーぞー」
    「本気でぶつかってきなよ!カキツバタ!」
    「そら勿論」
    二人は笑いながら頷き、手持ちが入っているのであろうモンスターボールを取り出し。

    一気に空気を張り詰めさせ、手の中でボールを弄んだ。

    「…………っ!」
    「っ、流石はチャンピオンというか、」
    「お、オレまで緊張してきた……!!」
    一転した雰囲気に、観客達は静まり返る。
    チャンピオン達がボールを真上に放り投げキャッチする、乾いた音が繰り返し反響した。
    『それでは開始ですよ!!』
    『ブルベリーグチャンピオンカキツバタvsイッシュチャンピオンアイリス!!』

    二人はボールを手中に収めて、互いに突き出した。

    『始め!!!』

    「行け、カイリュー!!」
    「暴れてやろうね、サザンドラ!!」

    一匹目のポケモンは、ツバっさんがカイリュー、アイリスさんがサザンドラ。そのステータスは

    「両方ともレベル100!?!?」
    「カキツバタ!いつの間にそこまで育て上げたんですか!?」
    普通のトレーナーでは先ず有り得ない数字に、二人が本気も本気であることが歴然とする。
    タロちゃんの隣に座る帽子を被ったおじさんが、組んでいた腕を解いて僅かに身を乗り出した。
    「先手必勝!!カイリュー、"アイススピナー"!!」
    「迎え撃てサザンドラ!!"りゅうのはどう"!!」
    ダブルではないからか、ツバっさんは"おいかぜ"でバフを掛けずに初手から攻撃をした。同じくアイリスさんも、技構成は知らないがステータスを積まずに仕掛ける。
    技はこおりとドラゴン!お互い弱点だ!
    ドラゴン達は素早く飛び込み技を繰り出す。先に直撃してしまったのは……アイリスさんのサザンドラだった。
    "りゅうのはどう"は不発に終わり、サザンドラはグラリと傾く。
    『サザンドラ、戦闘不能!!』
    「あはっ!いきなりやられちゃった!さっすがカキツバタ!」
    「へっへー、こっちだってやる時ゃやるのよ!仕掛けといて負けるなんてダセェしな!!」
    アイリスさんは何処か嬉しそうにサザンドラを戻す。
    次に彼女の手から出されたのは、ボーマンダだった。ボーマンダはとくせいの"いかく"を発動し、カイリューの攻撃力を下げる。
    「もう一度"アイススピナー"……いや、届かねえな!!カイリュー"おいかぜ"!!」
    「風を吹かせるなボーマンダ!!"りゅうせいぐん"!!」
    ボーマンダが流星を下し、カイリューにぶつけさせる。
    ツバっさんは"いかく"によってボーマンダを落とし切れる自信が無かったらしい。"おいかぜ"を使ったところ、ギリギリ間に合って追い風が吹き始めた。
    同時にカイリューが倒れる。ボーマンダも技の副作用で特攻が下がった。
    『カイリュー、戦闘不能!!』
    「バカみてえな火力してんなあ、ホント!」
    「貴方もわざマシン持ってるでしょ。真似していいのよ?」
    「へっ、余裕ぶっこいてんねぃ!」
    これで残り手持ちは五対五。まだまだ勝負の行方は読めない。
    「フライゴン!!」
    ツバっさんの二匹目の手持ちフライゴンが出される。
    「フライゴン"ストーンエッジ"!!!」「ボーマンダ"りゅうせいぐん"!!!」
    "ストーンエッジ"が当たり、急所を引いた。ボーマンダは踏ん張ろうとするも、崩れ落ちる。
    『ボーマンダ、戦闘不能!!』
    「うーん、"おいかぜ"って厄介!」
    「そっちこそ"りゅうせいぐん"連打たぁ恐ろしいことしようとしてくれるな!」
    どちらも攻撃技ばかり使っている。僅かなターンで合計三匹も落ちている。
    それでも観ている者を昂らせ、黙らせる圧倒的な力をひしひしと感じた。
    「ねえ!!ポケモン勝負って楽しいね、カキツバタ!!」
    アイリスさんはそう三匹目のボールを握った。
    その目になにかを感じたのか、応えるようにツバっさんもボールを掴む。
    「そらぁべらぼうに楽しいさ!!……交代だ、フライゴン!!」
    ここで入れ替え!?一体なにを!?
    二人のチャンピオンは、興奮した様子で口角を吊り上げた。

    「「オノノクス!!!」」

    コートの地を踏んだのは、二匹のオノノクス。どちらもオノノクスを出したということだ。

    「同じポケモン同士だ!!」
    「ミラーってやつね」
    「ツバっさんが交代した結果だから、多分お互いそのつもりだったんだろうけど……」
    同種のポケモンをぶつけ合う。それは技術やステータス、技構成、戦略、とにかく全ての実力の差が顕著になるものだ。
    運も絡んできてしまうが、どういうつもりで二人はこうしたのだろう。
    まさか相手を実力で叩きのめしたいわけではないと思うが。

    「見せてあげよっか、カキツバタ!!一発逆転の一撃必殺を!!!」
    「おっとよく言う!!"それ"を自分だけが組み込んでるとお思いかい!?チャンピオン!!」

    観戦してる僕達以上に、トレーナー二人はテンションが最高潮だった。

    なにやら妙なやり取りをして息を吸い込み、腕を振った。

    あ、『一撃必殺』ってまさか!?

    「「オノノクス!!!」」

    「「"ハサミギロチン"ッッ!!!!」」

    二人が声を張り上げた途端、エントランス全体が騒つき、

    オノノクス達は牙を怒らせ地を蹴った。

    レベルは双方100で同じ、こんなの完全に運任せだ!!めちゃくちゃなバトルするよ、このチャンピオン達!!

    僕が内心叫んでたら、二匹は正面から技を叩き込もうとぶつかり合う。
    ツバっさんがニヤリと笑った。

    "ハサミギロチン"は片方が外し、片方が見事に当てて見せた。一撃必殺は命中したのだ。

    「ど、どっち!?どっちのオノノクスが倒れたの!?」
    「分かりません、どちらもメスで道具も持っていないので区別が……」
    響めく皆。倒れるオノノクス。堂々たる雄叫びを上げるもう一方のオノノクス。
    笑っていたのは、やはりツバっさんだった。
    「運はオイラに味方したようだねぃ、チャンピオン!」
    「そうみたい!悔しいー!」

    『アイリスのオノノクス、戦闘不能!!』

    これで五対三!!ツバっさんが優勢だ!!

    皆は思わずといった様子で歓声を上げる。

    「戻れオノノクス!フライゴン、もう一度行ってきな!」
    「まだまだ行けるよ!!ボスコドラ!!」
    次はフライゴン対ボスコドラ。馴染みの無いポケモンに僕は立ち上がりそうになったけれど、スグリに止められた。
    「フライゴン、"じしん"でぃ!!」
    "おいかぜ"の効力はまだ続いている上、ボスコドラは確か素早さがあまり高くない。
    案の定フライゴンが先制を取り、"じしん"をぶつけた。
    「よし!倒れ……て、ねえ!?マジか!?」
    ただ、弱点を突かれたボスコドラは、アイリスさんを悲しませまいと持ち堪えた。
    ツバっさんが声を裏返らせ、顔を引き攣らせる。
    「ボスコドラ!!"すてみタックル"!!」
    「やべっ、!!」
    この絶好のチャンスを見逃す筈もなく、アイリスさんのボスコドラは指示に従って全力で突進した。急所に命中し、フライゴンが脱力する。
    『フライゴン、戦闘不能!!』
    「いやでも、"すてみタックル"なら反動で……!!」
    「とは、行かないみたいだよ」
    ……アイリスさんのボスコドラのとくせいは、"いしあたま"。反動のある技を使っても、一部を除いてダメージを食らわないというものだった!
    それを分かっていた上での技のチョイスなのだろう。彼女は「四対三だね」と対戦相手の焦りを煽った。
    「カーッ!堪んねえな!流石チャンピオン様!」
    頭を抱えながら、再びオノノクスが選ばれる。
    「オノノクス、"じしん"!!」
    「躱してボスコドラ!!」
    ただ、ボスコドラは今度こそ倒された。"じしん"に直撃してボールに戻る。
    『ボスコドラ、戦闘不能!!』
    「四対二か……油断出来ねえなあ」
    「そうそう、油断大敵だよ!お願いアーケオス!!」
    ここで追い風が止んだ。消えた風圧に二人は気付き、それぞれ「マズいな」、「チャンスだ」と呟く。
    「アーケオス!!"ドラゴンクロー"!!!」
    オノノクスとアーケオスでは、アーケオスの方が素早さは高い。追い風を失ったオノノクスでは追いつけず、一瞬で爪の餌食になってしまった。
    『オノノクス、戦闘不能!!』
    三対二になった……!どっちも半分がひんし!益々読めなくなってきたぞ!
    「コイツならどうでぃ!!任せた、ジュカイン!!」
    ツバっさんの四匹目のポケモンは、ジュカイン。種族値で言えばアーケオスを上回る素早さを持っている。
    「成る程ね。でもジュカインはひこう技が弱点だよ。その選択は悪手じゃないかな?」
    「かもねぃ。だがやってみねえとってやつよ!」

    「アーケオス、"アクロバット"!!」
    「ジュカイン、"リーフストーム"!!」

    何度目か、ポケモンとポケモン、技と技が衝突した。

    眺めていた僕は『ツバっさん、ちょっとマズいんじゃないかな』と冷や汗を流す。
    "アクロバット"は道具を持っていない時、その威力が二倍になるというもの。そしてジュカインはひこう技が弱点……!モロに食らえば流石に……!

    『ジュカイン、戦闘不能!!』

    思った通り、アーケオスにダメージを負わせたものの、ジュカインはやられてしまった。

    「二対二になった!!」
    「なにやってんですかカキツバタ……!!もっとちゃんと考えないと!!」
    「じゃくてんほけんも無えし、素直にキングドラにすべきだったんじゃ……」

    あの二人、ちょっとテンション上がり過ぎてハイになってない?
    汗を拭いながら凄い顔で笑ってて、バトルジャンキーの恐ろしさに引いた。僕もあんまり人のこと言えないかもだけど……
    「滾ってきたなあ!!行けぃキングドラ!!」
    「アーケオス!!」

    「"ハイドロポンプ"!!」「"ドラゴンクロー"!!」

    心無しか普通よりも強力になってる気がする技で風が吹き荒れ、悲鳴が上がる。
    こんな我を忘れてそうな感じ出しながらも、どちらも弱点はしっかり突いている。二匹を落として大活躍したアーケオスが倒れた。
    『アーケオス、戦闘不能!!』
    「最後の一匹はいつものラプラスかい!?」
    「大正解!!」
    二対一になり、アイリスさんが最後に出したのはラプラスだった。
    ラプラスの弱点を突ける技は、多分ツバっさんのキングドラには無い!なら彼が取ると考えられる行動は……!!

    「キングドラ!!"あまごい"!!」

    やはり何処か冷静なのだろう。彼は天を指差し雨を降らせた。
    恐らく大将を知らないと見られるアイリスさんは首を捻り、ただ警戒もしながら声を上げた。
    「ラプラス!!"うたう"っ!!」
    「!!」
    キングドラはねむり状態に陥り、すかさず追い討ちが飛ぶ。
    「そのまま"かみなり"!!!」
    今の天気は雨。つまり"かみなり"は必中になっている!
    弱点ではないものの高火力の技を見事に受けてしまったキングドラは、静かにひんし状態にされた。
    『キングドラ、戦闘不能!!』
    「どっちも最後の一匹だ!!」
    「スグやタロを押し退けてるとはいえ、本土チャンピオン相手にやるじゃない、フワ男も」
    「凄いけど、二人共ずっと強火でオレ直視出来ないよ……」
    もうとっくに時間も押してるだろうに、待ったを掛ける声が無い。皆夢中だった。
    最後の最後。ツバっさんは大将のボールをいつもの大きなフォームで投げた。
    「ブリジュラス!!」
    「……!!あは、そのポケモン!!ジュラルドンの進化系だね!?」
    「ご名答、やっぱ知ってたかぃ」
    降り頻る雨の中、僕達はゴクリと唾を呑む。
    二人のチャンピオンは大きく息を吸い込んで、この勝負一番の大声で指示を放った。

    「ぶっ放せブリジュラス!!!!"エレクトロビーム"!!!!!」
    「勝とうラプラス!!!!"ふぶき"っ!!!!!」

    高威力の放電が辺りを光らせ、"ふぶき"による冷気が雨を凍らせる。

    一瞬の間にぶつかり合った強力な技によって、エントランスコートは暴風と共に真っ白になった。

    「「「わああああああっ!!!!」」」
    「ま、眩しいっ!!!なんも見えない!!!」
    「やり過ぎじゃないこんなの!?」
    「やっぱこれ卒業式前にやることじゃないよね!?」

    色々文句や騒ぐ声が飛ぶも、けれど誰も逃げようとしない。

    この勝負、チャンピオン達の戦いの結末を見届けたいからだった。

    ……暫く待てば段々と技の余波は去っていき、周囲が静かになる。僕達は恐る恐る目を開いた。
    流石にハッサク先生にも決着は分かっていなかったらしく、スピーカー越しにマイクを握りしめる音がした。

    明瞭になったフィールド上。

    そこで立っていたポケモンは……ブリジュラス一匹だけだった。

    「…………っ!!」

    『……ラっ、ラプラス、戦闘不能!!!』

    僕達と同じく愕然としていたツバっさんが、崩れ落ちるように尻餅をつく。

    『勝者、ブルベリーグチャンピオンカキツバタ!!!』

    弾けるような大歓声が上がった。

    「カキツバターっ!!!」
    「あ、えっ、え……うぉっ!?」
    僕達リーグ部で馴染みのある仲間が、観客席を飛び出し勝って見せてくれた先輩に飛びつく。
    「アンタもやれば出来るじゃない!!」
    「す、凄かった!!ホント凄かったよ!!」
    「本土のチャンピオンに勝つって……レベルといい、そりゃ俺も勝てなくなるわけだべ」
    「ネリネも賛辞を。チャンピオン最後の一戦に相応しい戦いだった」
    「流石は私のライバルですね!」
    「本当に凄いよツバっさーん!!僕も負けてられないや!!」
    やんややんや盛り上がる僕達に対して、勝者は呆然としてて。
    間も無く、ハッとしたようにふざけたことを言ってくれた。

    「……………えっ?オイラ、勝ったの?」

    「「「勝ったよ!?!?」」」
    「ほら見なさい!!ブリジュラス立ってるじゃない!!」
    「ハッサクさんも言ってたべ。間違いなくカキツバタの勝ちだ」
    「………………マジかぁ。これ夢じゃねーかな」
    「ゼイユ」
    「任せなさい!!」
    「待って待って嘘です夢じゃないですね引っ叩かないで!!」
    夢かと宣うツバっさんにゼイユが手を振り被ったら、彼はやっと認めた。遅いくらいだけど。
    なんとなくアイリスさんと昔からの知り合いっぽいのは察してたので、何故ここまで信じられていないかも……ぼんやり分かった。
    この人もきっとバトルで悩むことも沢山あったんだろうな、と。

    「カキツバタ」

    「あ………アイリス」
    そこへ、ずっとこちらを静かに見守っていたアイリスさんが近寄ってきた。
    僕達は『ちょっと喜び方失礼だったかも』と冷静になり、そっと退ける。
    彼女はただただ落ち着いて、暫くツバっさんの目を見据えた。

    かと思えば、

    「凄いよカキツバタっ!!!強くなったね!!!私本気だったのに負けちゃった!!!凄い凄い!!!!」
    「ぐええっ!?」
    心底嬉しそうに飛び跳ねて、なんとツバっさんに抱きついた。頭まで撫で回しているので、僕達はポカンとする。
    「ちょっ、人前でくっつくな!!恥ずい!!」
    「なによー、子供ねえ。これくらい普通じゃない。私達"姉弟"なんだし」
    「「「へ!?!?!?姉弟!?!?!?」」」
    「だからってなあ!!!!」
    ま、待って、待て待て待て、今なんと?姉弟?誰と誰がキョーダイだって??えっ????
    「はーなーれーろー!!マジで止めろバカ姉貴!!」
    「誰がバカですって!?」
    「ぎゃあ!!」
    ジタバタと嫌がって逃れようとするツバっさんは、確かに反抗期真っ盛りの弟って感じだし。
    そんなそこそこ大きな男を叱りつけデコピンをお見舞いするアイリスさんも、姉っぽい。

    えっウソ、本当に姉弟なのこの二人???全然知らなかったんですが???

    「ほら!立って!……貴方がここまで強くなって、嬉しい。でも次は勝つよ!」
    「……へっ、もう今まで分取り返すまで負けやしねえよっと」
    「生意気言うじゃない!楽しみにしてるね!」
    アイリスさんは手を差し出し、ツバっさんはその手を掴んで立ち上がった。
    最初の緊迫感は何処へやら、二人はスッキリした顔つきで小突き合って笑い合ってる。

    ……タロちゃんの傍に控えていたおじさんが拍手をする。それを皮切りに、皆パチパチ手を叩いてチャンピオン達の健闘を讃えた。

    「うぼおぉぉいおいおぉいい!!!!!小生、小生感動じでええぇぇえええ!!!!!!」
    「いやー凄かったねー!まさかツバっちゃんがイッシュチャンピオンに勝つなんて!ボクもビックリだよ!」
    「二人共、良い戦いだった」
    「さーて卒業式卒業式」
    「大人が入った途端冷めるわね」
    「もう20手前なんですから反抗期卒業してくださいよ」
    ハッサク先生とシアノ校長、あとなんか知らない筋骨隆々なお爺さんが現れた途端ツバっさんは切り替えて校舎に行ってしまった。切り替えが早い。こんなトンデモな勝負しながら余韻とか無いのか。
    僕達は苦笑いしつつも、真面目に卒業式の時間が過ぎてそうだったので、一先ずそちらを優先したのだった。















    「で?姉弟ってどういうことですか?」
    「んええ?」
    なんとか卒業式を終え、騒いだ後流れでツバっさんと僕の二人きりになってしまったリーグ部部室にて。
    式の間結構寝そうになってたちゃらんぽらんは、まだ眠いのか目をショボショボ瞬かせながら首を傾げた。式の為に着替えた冬服が見慣れないのもあり、ちょっとおかしい。
    「アイリスさんと姉弟って言ってたじゃないですか。初耳なんですけど」
    「あれぇ?言ってなかったっけ?」
    「いや言ってませんよ。シャガさんのことも直接は聞いてませんでしたし」
    「そうだっけかあ」
    後からあのムキムキのお爺さんこそツバっさんの祖父、ソウリュウシティジムリーダーシャガであると伝えられ、それなりにビックリしたし。この人本当になにも言わなさ過ぎじゃないか?
    まあ嘗てのハッサク先生やオモダカさんとの会話を聞くに、身の上話は苦手だったのだろうが。流石に知らないこと多過ぎて不安になる。
    「本土チャンピオンの弟でジムリーダー兼市長の孫で学園最強って要素盛り過ぎですよ。なんで全然話してくれなかったんですか」
    「だってえ、訊かれなかったし」
    「それは!!貴方が嫌そうだったから!!」
    「なに、気ぃ遣ってくれたの?さっすが元チャンピオン、優しー!」
    「貴方ももう直元チャンピオンですよ!!あと僕パルデアのチャンピオンはそのままなのでその呼び方はツッコミづらいです!!」
    「まあチャンピオンであり元チャンピオンだもんな、キョーダイは」
    「分かってるなら止めて!?」
    じゃなくて、話が逸れてる。
    「まあ……言いづらかったのは分かりますけど。少しは貴方のこと教えてくださいよ。普通に寂しいですから」
    「んー、そんなにツバっさんのプライベートに興味がお有りかい!?えっちー」
    「何処をどう取ったら『えっち』になるかは知りませんけどそりゃ興味はありますよ。友達だもん」
    「…………へー」
    これだけ言って今更意外そうにされて、『この人自己肯定感大丈夫か』と心配になった。初めて思うことでもないが。
    「……とにかく。チャンピオン打破と卒業、おめでとうございます」
    「…………ありがとさーん。正直勝てると思わなかったけど」
    「……………………」
    「ああ違う違う、ちゃんと勝つ気でやってたぜぃ?でもなんか、難しいかなあって緊張してたっつーか?……ここまで大事になるとは思ってなかったからよ。ダセェとこも見せらんねえし」
    「今更でしょ」
    「はい塩ー!」
    ご機嫌そうに手を叩く姿に溜め息を零す。……アイリスさんと楽しく戦えて、その末に勝てたのならよかったけど。
    どうにも色々拗れてることは悟ってたので、なんと言うべきか迷って、結局それ以上さっきのバトルについては触れられなかった。
    「ツバっさん、卒業したけど、さ」
    「ん?」
    「これからどうするの?実家に帰るとか?」
    「……一旦はな。パルデアに限らずリーグってのは万年人手不足だからよ」
    「一旦ってことは、そのうち出て行くの?」
    「んー…………考えてねえや」
    「へ」
    「いやあツバっさんて人気者でさあ。パルデアだけじゃなくてあちこちから声掛けられててよ?どうしよっかなあって」
    「……迷ってるんですか」
    「…………まあ、広く見れば?」
    「ツバっさんならなんだかんだ何処でもやってけそうですけどね」
    「そう〜?……ハルトが言うならそうかもねぃ」
    変わらない張り付けた笑顔で僕の頭を撫でてくる先輩。
    それでも何処か吹っ切れた様子で、まあ、この人ならなんやかんや100歳くらいまでダラダラ生きてそうだな、とずっと心配してたのがアホらしくなってきた。
    スグリと一緒に冗談で「自分達より後に卒業とか止めてよ?」みたいなことをよく言ってたけど。そんなことにもならなかったし、結局いつまでも彼の後輩でしかない僕達が気を配っても同じなのだろう。
    「ツバっさん」
    「はいよー」
    「……時々メッセージとか電話とかしますから。ちゃんと返事してくださいよ」
    「善処しまーす」
    この人は最後の最後まで……こう言うと思ったけど。
    他の皆はちゃんと連絡してくれるという確信があるが、この人の場合気付いたら音信不通消息不明になってそうだからなあ……いや勝手なイメージだけどさあ。
    「さてと。そろそろ行くかあ」
    「あ…………」
    外も騒々しくなってきた。確かに潮時だ。……いつまでもこうして学生気分で居られるわけじゃない。
    隣に座っていた先輩が立ち上がるので、僕も続けて椅子から離れて彼の背を追った。
    「カキツバタ!遅いですよ!飛行機出ちゃいます!」
    「全く……最後くらいシャンとしなさい」
    「それともお姉ちゃんとサザンドラにでも乗って帰る?」
    「へっへ、遠慮するわ。飛行機でいい」
    「もーっ!可愛くない!」
    今生の別れではない。でもちゃんと切なくて嬉しくて、僕は号泣しているアカマツくん達在校生を慰めながら見送る姿勢を取った。
    卒業生や来賓が、次々飛行機に乗り込む。

    ……………………。

    「ツバっさん!!タロちゃん!!」

    僕は意を決して、お世話になった先輩達へ手を振った。

    「また!!バトルしましょうね!!絶対に!!」

    貴方達と出会えて本当によかった。楽しかったよ、学園生活。

    「お世話になりました!!またねー!!」

    「まっ、またなー!!」
    「バイバーイ先輩!!」
    「偶には遊びに来てくださいねー!!」

    学生としては最後でも、終わりの気分になんてさせない。

    ずっとずっと、友達で居よう。

    彼らは清々しく笑って、手を振り返してくれた。
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    Rahen_0323

    MAIKINGカキツバタが居なくなる話六話目です。完全シリアス。捏造過多でなんでも許せる方向け。
    シリーズなので「アレは死んだ(一話)」「SOS?(二話)」「堪えた悲鳴(三話)」「円盤(四話)」「王者(五話)」から読むことをオススメします。
    気付いたらこのシリーズ一ヶ月止まってたらしいです。申し訳ねえ。色々間違ってないか不安になりながら投稿してるので後から修正入る可能性があります。
    愛と後悔「先ず、一番重要な点から伺います。……カキツバタくんは、死んだんですか?」
    僕が念の為覚悟を胸に静かに問うと、スグリが怖い顔になり、アカマツくんがギュッとフライパンを握り締めた。
    アイリスさんはそんな僕達を順に見て、言葉を選ぶように暫し沈黙して考え込む。
    数分にも数時間にも感じた静寂が過ぎ去った後、飛んだ答えはこれまた不可解だった。

    「私も、死んだのだと聞かされました。でも生きてると思う」

    僕達三人は視線を交わらせる。
    そんなアイコンタクトには気付いているのだろう。イッシュの女王は大きく息を吐き出して続けた。
    「ご存知か分からないけど、私はソウリュウシティの出身でもドラゴン使いの一族の生まれでもないの。竜の里という場所から来た、所謂"余所者"。お祖父ちゃんの後継者だからって、そこは変わらない。だから……一族の仕来りにはまだあまり詳しくなくて。関わることが無かったわけじゃないけど、仲間外れにされることも多いの。あくまで"後継者"で本当に当主になる日も決まってないから、尚更」
    3010

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