未定 土曜の昼間すぎ、賑やかだった店内も少し落ち着き人もまばらになってきた頃。どこにでもある普通のファミレスにおいて、一つだけ少し周りと雰囲気の違う卓がポツリとあった。
6人がけの大きめなテーブルに4人で座るそのそのグループは、どう言った関係なのか不思議な組み合わせであった。1人は顔に大きな傷のある大学生くらいのイケメン、1人は色黒で独特な眉をしているがこれまた大学生くらいのイケメン、1人は中学生くらいのかわいらしい少女、1人はイケメン2人より少し年上に見える坊主の男性。兄妹にも見えないし、かと思えば少女も物怖じすることなく他の3人と友達のように接しているため誰かの親戚の子かもしれない。
色黒のイケメンが深刻な顔で他の3人に何かを相談しているようだが、一体なんの話をしているのだろうか。そんなことを考えていると新しい客がきたことを告げるチャイムが鳴ったので慌てて案内口へと向かう。
「いらっしゃいませ、1名様でしょうか?」
来店したのはスーツを着た頬に傷のある男性だった。髪を撫で付け猫のような大きな目をしている、個性的な部類に入るイケメンである。
「少しお聞きしたいのですがここに大学生くらいの男3人と中学生くらいの女の子の4人組が来てませんか?」
「はっ、はい、来ておりますが……」
まさかあの卓の知人だったとは。ますますどういった集まりなのか気になって仕方がない。
「悪いんですが、その卓が見えるテーブルに案内してもらうことってできますか?出来ればこちら側が見えにくい配置で。」
「か、かしこまりました…」
「ありがとうございます」
明らかにホッとした表情を浮かべる男性を、あの卓が見えるが相手からは死角となる席へ案内した。この位置なら相手側の声も多少なりとは聞こえるはずだ。あの4人の知り合いであることはまず間違いないだろうが、見られれば何か不都合なことでもあるのだろうか。というかそもそも、ここに4人がくることを知ってるのに顔を合わせたくないって確実にやましいことがあるのでは?
考えれば考えるほど疑念が湧き上がってくるが、ここで何かを聞くのは藪蛇だ。全ての思いを飲み込んだ私は、過去1番丁寧に「ごゆっくりどうぞ」と告げ男性のテーブルを後にした。
土曜の昼間、賑やかな店内。「相談があるから来てくれ」と店のリンクを貼るだけ貼って連絡をし、自身の通う大学の近くにあるファミレスにいつもの3人を呼び出した。
少し待っているとすぐに『急すぎ!これだからワガママボンボンは!』『何かあったのぉ?』『ここのパフェ食べたかったんだ!』などとポコポコ好き勝手メッセージが送られてくる。(さすがに暇人過ぎないかこいつら?)と驚きつつも、こうやって気軽に来てくれる友人を持ったことを素直にありがたく思う。
しばらくすると3人がゾロゾロと店内に入ってきて鯉登を見つけると早足に向かってくる。目の前に腰掛けた3人はニヤニヤしながら鯉登の顔を見つめる。
「悪いな急に呼び出して。感謝する。」
「いいっていいって、俺らの仲じゃん」
「そうそう、俺たちも聞きたかったことあるし」
気味の悪いことを言い出す杉元と白石を不可解に思うものの、頼りになるとしたらこの3人しかいない。自分は友と呼べる存在が少ないのだ。
高校の同級生である杉元は、野蛮で自分とは考えが合わないがなぜか大学になった今でも交友が続く数少ない友人の1人である。なんの縁なのか同じ大学に通うことになったことを機に、今ではお互いの気になっているカフェ巡りやお互いの知人を誘い鍋パなどをする仲にまでなった。その杉元が高校の頃から下宿するアパートに住む白石(職業不詳)やそこの管理人の孫であるアシリパとも鯉登が杉元の家に遊びに行くうちに仲良くなり、今ではこうして連絡先まで交換して頻繁に遊んでいるのだ。
「ウジウジ悩んでないで早く話してみろ。ほら、私たちでよければ力になるから!」
「やだぁ……アシリパさんイケメン…」
「どうせ彼氏のことなんでしょ〜?」
「どうせとはなんだどうせとは!失礼なやつだな!」
「やっぱ付き合いたてだと色々悩みもあるんだろ?ほら、恋のお話、聞かせて?」
鯉登は現在、社会人の恋人がいる。つい先日念願が叶って付き合い始め、前から相談に乗ってもらっていた3人には報告済みである。来た時のニヤニヤの理由がわかると少し頭にきた。なるほどこいつらは自分を心配して来てくれたのではなく面白がって来たのかと内心ご立腹な鯉登だが、実際のところ3人は至って真面目に相談に乗ろうとしている。ワザと茶化すように言っているだけで、付き合う前から何かと障害の多い鯉登たちの恋を純粋に応援しているのだが、鯉登はそれに気付かず諦めて話を続ける。
「…………お前たちの言うとおり、尾形のことで今日は話があって呼び出した。」
「おっ、やっぱり!なになに?喧嘩でもした?」
「いや、喧嘩などしてない。私たちは仲がいいからな!」
「じゃあ尾形ちゃんに何か問題ある感じぃ?いっつも表情読みにくくて困ってるとか?」
「そげんこっはなか!尾形はおいん前じゃと表情豊かだしいつも笑うてくるっ!」
「そう言うのはいいから早く話せ!!!」
白石の物言いに少しムッとしてしまいついつい声の大きくなってしまったが、負けじと業を煮やしたアシリパによって話が戻された。
「その……尾形はあんな感じだが結構優しいんだ。私のことを第一に考えてくれるし、私がお願いすればなんでも叶えてくれる」
「えっ、あの尾形が?」
「尾形ちゃんもやっと人を大事にする心を持ったんだね……」
「白石、お前も尾形を見習ってまずは自堕落な生活を直せ」
「アシリパちゃんひどぉい!!!」
時々こいつらには違和感を覚える。尾形とは会ったことがないはず尾形の性格や風貌を何故か知っているし以前から顔見知りであるかのように話す時がある。知っているのかと聞いてみてもはぐらかされるし、前に一度尾形にも3人のことを聞いたが「前世で一悶着あった」などと訳のわからないことを言って誤魔化されてしまった。なんとも不思議なことである。
「この前も水族館に行きたいと言ったら文句も言わず連れて行ってくれたし、疲れているであろうにずっと私の話を聞いてくれた。」
「うんうん」
「それに私がサークルで遅くなった時も車で迎えに来てくれるし、こまめに連絡もしてくる。」
「すごい愛されてんじゃん。何が不満なんだよ」
「そうだぞ鯉登、あまり高望みし過ぎじゃないのか?」
「話を最後まで聞け!」
「ねぇ鯉登ちゃん」
「だから!人の話を聞け!!」
話の一つも聞けんのか!とまた怒り出す鯉登を気にすることなく、白石はあることについて言及する。
「さっきから気になってたんだけどさぁ……スマホ……鳴りすぎじゃない?」
テーブルの上に伏せて置かれた鯉登のスマホ。白石たちが到着した段階ではそんなに気になる頻度ではなかったのだが、今では狂ったように通知を知らせるバイブがテーブルを振るわせていた。
「気付いたか」
「いや気付かないわけなくない!?どうしたのそれスマホバグった?」
「今回の相談とはこれのことだ」
「えっ、どういうこと?」
そういうやいな鯉登は伏せていたスマホの画面を3人に見せる。メッセージアプリには通知の数を知らせる赤い数字がついおり、先ほどから鳴っていたのはこれかとすぐ理解したが、その数に3人は驚く。
「鯉登って通知来ても溜めないですぐ読むタイプだったよな?」
「あぁ、そうだ」
「んじゃあこの200件ってどういうこと???」
「お前たちが来てから溜まった通知の数だな」
「これ全部!?俺たち来てからまだ15分くらいしか経ってないのに!?」
「だから困ってると言っただろう」
そう言っている間にも鯉登のスマホの通知は鳴り止まずメッセージが届き続けていた。
「うわ更新早過ぎて相手誰だか見えな……って、尾形!?!??」
「もしかしてこれ全部尾形からなのか……?」
「あぁ、そうだ」
「えっ、鯉登なんかしたの……?普通こんなに連絡来ないでしょ」
心配そうに見つめる杉元たちに、鯉登はさらに神妙な面持ちで向き合う。
「付き合ってから、毎日こんな感じなんだ」
「「「毎日!?」」」
「今どこにいるだとか何時に帰るんだだの最初は可愛いと思い返信していたのだが、少しでも返信が遅れるとさらに心配して連絡がくるし、すぐに返信しても変なことばっかり言われて甚だ困っている」
「変なことって……?」
「例えば……そうだな。この前サークルの友人たちと話していた時偶然「俺のいないとこで他のやつと話すな」と連絡が来たのだ。ちょうど友人たちと話していたこともあったし、現実的な要望ではないだろう?だから「それは無理だ」と送ったらそこから「浮気するきか」とか訳のわからないキレ方をされて大変だった。」
(鯉登……それ偶然じゃない気がする……)
(俺も同意見……尾形ちゃん怖すぎる……)
「おい鯉登、それ多分偶然じゃないぞ」
「「アシリパさん/ちゃん!?」」
続きは頑張って書きます💦