あいのあいさつキスというより挨拶のようなそれが彼女は好きだ。額に、耳に、髪に唇を軽くあてがう。
「フ、ははっ、くすぐったい」
口付けて笑うカガリがいる。色気よりも溌溂さを感じる反応だが、彼女というだけでどうしてこんなにも嬉しくなるのだろう。アスランは毎回不思議に思いながらカガリに触れる。彼女のことを優先しようと思って振る舞う。けれど、
「…カガリ」
名前を呼べば意を肯定されるように緩んだ唇に優越感が刺激される。入り込めば控えめな小さな舌先が可愛くて絡ませれば溶けるような錯覚をした。目を閉じて集中して、感覚を味わう。とんとんと肩を叩かれふと顔が見たくなった。目を開ける。
「ン、う…、…っ」
ぴくりと震えるがけして否定をしない。ああ、求めていいんだと気付くより先に脳が破壊されている気がする。探ることに夢中で捕まえている幸福を隅々まで味わっていたい。もっと深いところまで繋がりたい。こんなものキリがある筈ない。アスランの沈むような欲望はカガリに名前を呼ばれるとそちらに沿う。
「、アスラン…っ、 」
震えている手が後ろ頭をくしゃりと掴み、口を離す。その時にズレた下唇を挟まれるように軽く甘噛みをされた。
「終わりだバカ!」
そしてそれは彼女にとって威嚇のつもりだったらしい。嫌がらせでもある。そのつもりで、カガリは涙目のまま唇を離す時に下唇を噛んでやったのだ。アスランは呆然とした。
「… … …」
嘘だろ。なんだそれ。アスランは可愛すぎて意味がわからないとかいう意味がわからない状態になった。そしてカガリは見たことがないアスランの反応に急に焦り始めた。やり過ぎたかもしれなかった。
「あ…その、嫌な訳じゃない、ただ、はじめてのことは――
「…君は俺の性癖をどこまで歪ませる気だ…?」
「なんで喜んでるんだよ!バカ!お前ほんとバカやろう!」