ピロートーク「もしも」
汗ばんだ肌を密着させながらオレ達は抱き合っていた。荒かった呼吸が少しずつ落ち着いてきた頃にぽつりと落とされた呟きを、わざわざ拾ってやるほどオレは優しくない。精を吐いて尚、腰の辺りを渦巻く気怠い快楽を持て余し気味なのだ。聞こえなかった振りをして、瞼が重力に逆らうことを諦めたとき、ガリッとイヤな音がして鋭い痛みが耳から脳天までを突き抜けた。
耳朶齧りやがったなコイツ!
「聞けよ」
「いてー……ァんだよDV探偵」
「もしもオレが死んだら、オメーはどうする?」
きょとん。これがアニメだったら、そんな効果音がお似合いだったに違いない。オレはさっきまでとろんとろんだった瞳を数回瞬かせて、背後のd男を振り返った。
ピロートークにしちゃあ色気がない。多分、オレよか幾分か雄の顔をしている男の頬を摘んでケケケと笑ってやった。男前を台無しにしてやる、このこの。
「そしたらオレがテメーに成り代わってやるよ、めーたんてー」
「ある意味ホラーだな」
「同じ顔したふたりの男がセックスてる時点でわりとホラーだろ」
「ま、確かに」
愚図ついた会話は目的地もないままにぐだぐだと繰り広げられる。シーツの冷たいところを探して爪先が暴れる。漸く探り当てたそこは、思う存分精液を吐き出してやったところだった。サイアク。
「じゃあ、オメーはオレが死んだらどーすんだよ」
爪先に纏わりつく濡れた感触をさり気なく筋肉質な脹ら脛に擦り付けてやりながら問うてみた。
「バーロー、死なせるわけねーだろ」
名探偵は、こう見えて結構ロマンチストなのだ。