二人三脚の第一歩 横付け作業に混ざりながら、自身の艦から小さく手を振るくまのにぎこちなく振り返してやる。顔を会わせるのは嵐のように過ぎ去っていった初日以来だというのに、やたらと懐っこくてどうにも調子が狂ってしまう。
「もがみ、そっち行ってもいい?」
こそこそと呼ぶ声に視線を向けた。いつの間にか掛けられていたタラップを指差しつつ、期待に満ちた顔がある。少し周りを見渡してからいいよ、と返した。
「お邪魔しまーす」
「うん。いらっしゃい」
訓練終わりのはずだけど疲れなど無いのか、ただ嬉しそうに笑うのを見て元気だなぁと思う。自分なんて視察を受けただけで緊張して疲れてしまっているのに。
「このあいだはゆっくり話が出来なかったけど、そっくりな顔が目の前にあるのって変な感じ。でも、もがみはなんかすまし顔してるねぇ」
「おれからしたらくまのがなんでいつも楽しそうにしてるのかがわからないよ」
「だってずっと会いたかったからね。いまは凄く嬉しいし、ぼくはもがみのこと好きだよ」
にこーっと笑って臆面もなくそう言われるとこっちがなんだか照れくさくなるが、意外にも素直に受け取っている自分がいて内心驚く。もう少し歩み寄ってもいいかなと思ったところで、
「あ、明日また出港だからそろそろ戻らなくちゃ。帰ってきたら今度こそゆっくり話そうね」
じゃあねと言い残して、言い終わらないうちにさっさと背を向けている。
これは、想像以上に振り回される予感がする。ため息と共に空を仰いだ。