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    nekotakkru

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    #ラフレオ
    lafreo.

    その姿はまさにその生き物は宙に浮いてそこにいた。
    いや、正確には浮いているように見えた。目を凝らすと薄い糸が円を描くように張り巡らされ、中心の点になるようにその生き物が鎮座している。

    「蜘蛛だ。」

    レオナルドは呟いた。
    蜘蛛が珍しいわけではない。この大都市ではよく見かけるし、我が家と呼んでいる下水道にだって幾つもの巣がはびこり姿を現す。この蜘蛛だって、何の変哲もない、どこにでもいる普通の蜘蛛だ。それなのにレオナルドは偶々目に着いたその生き物にどういう訳か魅入っていた。 ゴミ捨て場の陰に腰を下ろし、息を殺して蜘蛛を見守る。悪戯心に軽く息を吹きかけてみても糸を張っている元を揺らしても蜘蛛はぴくりとも動かない。死んでいるのかと手を伸ばせば距離をとってきたので、生きてはいるようだ。

    『蜘蛛は獲物を捕まえるときに網を張ってじっと待つんだ。獲物がかかると糸が振動して教えてくれて、逃げられないように更に糸でぐるぐる巻きにするんだよ。でも半数は網を張らずに自ら動いて餌を探すんだ。ちなみにどうやって補食するかというとーーーーー』

    と、解説をしてくれたのは博識なドナテロだったか。たしか少し前にミケランジェロが何気なく質問したときだったと思う。彼の知識の量には頭が下がるが、人に話せばより長く記憶を維持できるからという自己満足のために、補足部分を長々と語るのはやめて欲しい。兄弟のうんざりする顔に構わずぺらぺらしゃべっているのが止まったのはラファエロが彼の頭を叩いたときだった。今度はレオナルドがそれを頭の中のドナテロに行う。

    「何してんだよ?」

    叩くと同時に声がかけられた。振り返れば赤い鉢巻きを翻しながらラファエロが立っている。月を背にしているから影になって表情は読み取れないが、腕組みをしている姿や暗闇でもよく分かる緑色の瞳は不機嫌を露わにしていた。一歩前に出て、レオナルドが見つめていた先を見ようと屈みながらもう一度同じように尋ねてくる。

    「何してんだよ」
    「蜘蛛。」
    「は」
    「蜘蛛だよ、ほら。」
    「うげっ。」

    強面な顔に似合わず虫が苦手なラファエロが不快を顔に表す。まるで蛙を潰したような声を出して飛び退き、距離をとるその身のこなしはさすが忍者と言うべきか、非常に情けない姿だが。その様にレオナルドがにやりと笑うと忌々しそうに睨んでくる、それでも距離をつめる気配はない。代わりに寄越してきたのは嫌味だった。

    「そんなの見て楽しいなんていい趣味だな。」
    「楽しい訳じゃない。ただ、何かに似てて。」
    「何にだよ」
    「さぁ。」

    レオナルドが惹かれる理由はそれだった。どこかで見たような、何かと重なるような、そんな感覚。ふっと浮かんで霧のように心を埋め尽くすのに正体が分からない。記憶を探るがどれもいまいちピンと来ない。何に似ていると思ったのか、何故似ていると感じたのか。自問自答しても答えが出せないのでただただ蜘蛛を見つめていたが、やはり答えは出なかった。
    そんなレオナルドの返答にラファエロは呆れた顔で返す。レオナルド本人は見ていないが、だめだこいつ、と言ったように肩を竦めると動かない兄の背甲を引っ付かんで無理矢理引っ張った。いきなりの行動に抗議の声が挙がるが構わずそのまま引きずっていく。レオナルドは考え出したら長いのをラファエロは知っていた。このまま放っておけば朝がきても気付かないだろう、と。

    「続きはベッドの中でやってくれ。」

    ラファエロの言葉で一つの謎は解けた。不機嫌の理由は眠いからだ。






    次の日もレオナルドはそこにいた。昨日と同じように腰を下ろし、昨日と同じように動かない蜘蛛をじっと見つめる。
    昨夜、ラファエロに言われたからではないがレオナルドは考えていた。幼い記憶から新しい記憶まで、朧気なことからつい最近の出来事まで、ありとあらゆることを思い出して何と関係があるのかを一つずつ当てはめていた。しかし、どれに合わせてもしっくり来ず結局気がついた時には、時計は稽古の時間を差していた。
    心の靄を取り除くために再び同じ場所に訪れてみたが、やはり解決の糸口は見つからず、悶々としたままレオナルドは蜘蛛を観察する。どんなに見つめたところで蜘蛛はその身体をぴくりとも動かさなかった。

    「またここかよ。」

    昨日と同じ、ラファエロがそこに立っていた。少し違うところは昨日のように歩み寄ってくる様子はない、余程虫が苦手らしい。嫌悪感を露わにするラファエロにレオナルドは溜息をつく。いくら成長したと言えどそれは体だけであって心はまだ未熟だ、だから争いが絶えない。と言った師の言葉を思い出す。兄弟間での喧嘩は今でも起きるが、特に多いのがラファエロとレオナルドだ。確かに自分にも反省すべき点はあるが、大方の理由はこの弟が突っかかってくるからだとレオナルドは考えていた。

    「嫌なら来なければいいだろ。」
    「そうしたいのは山々だが、どっかのアホなリーダーが帰ってこないと俺たちまで先生に怒られるからな。」
    「そのリーダーだって、アホに探してもらうほど間抜けじゃないさ。」
    「お前今、俺様にアホっつったか」

    鋭く睨むその視線を軽く去なして腰を上げる。唸り声を洩らすラファエロの横を通り過ぎる時、不意をついて背甲を叩けばそれを合図に追いかけっこが始まった。月を背に建物の上を駆け回る姿は異質で彼らだけの空間だ。次第に楽しくなってきたのか二人からも笑みが溢れ出した。口角を上げ周りの目に注意を払い相手との距離を詰める、そのスリルと何とも言えない高揚感にレオナルドは大声で笑い出したい程だった。
    ふと胸を掠めるはあの蜘蛛の姿。何かと繋がりそうだったそれは、どう言うわけか意識した途端にまた闇へと消えた。どこか思い出してはいけないような、そんな違和感。一瞬息が詰まって追いかけてくる相手をちらりと見やる。自分と同じく楽しそうなラファエロにまたにやりと笑って、違和感をかき消すように更に早く走った。


    それからレオナルドは毎晩その場所に通っている。始めこそ己の心と向き合うためだったが、毎回迎えに来るラファエロとの追いかけっこがいつしか二人の決め事になっていた。ある時はレオナルドが、ある時はラファエロがそれぞれを追いかけて捕まれば立場が逆転し、そのまま逃げ切れば後日に持ち越しとなる。他の兄弟達には教えていないほんの些細な遊び。レオナルドが当初の目的を忘れかけていたその夜、いつもとは少し違っていた。

    蜘蛛がいない。

    我が物顔で宙に浮いていた姿はそこにはなく、無機質な地面に無様に腹を出して転がっていた。少し指でつついてみても逃げる様子はなく、それどころか小さな風に流されるように、その体は地面に引きずられては止まってを繰り返していた。いつもの時間に現れたラファエロが呆然と一点を見つめるレオナルドを不審に思い声をかける、返事が返ってこないので仕方なく兄の傍らに立って視線を辿った。その先の生き物だったものを見て少し頭を掻く。あー、と声を出してからかける言葉を選ぶ、不器用な彼なりの優しさだ。

    「その、残念だったな。」
    「ああ。」
    「そんなに気に入ってたのか」
    「いや。でもようやっと、何に似てるか分かったよ。」

    くるりと踵を返してレオナルドはその場を後にする。もうそこには興味がないように冷めた目をしながら、どこかを見つめて。言葉の先を促す視線を向けるラファエロに自嘲気味に笑うと、レオナルドはあの日蜘蛛を見つけた時と同じようにぽつりと言った。

    「俺に似てたんだ。」





    思い出した、思い出した。心に大きく網を張ってある日突然現れたその黒い感情。気づいた時にすぐに叩き潰して深い深い奥底へと葬った。家族以上の、兄弟以上のその感情。小さいのにその存在感は大きくて胸のど真ん中の玉座に腰掛けた異質なそれ。けれど、消し去ったと思っていたのは自分だけで奴は今も生きていた。ずっとずっと忘れようと閉じこめていただけで獲物を待つようにひっそりと身を潜めていた。その獲物は、ずっと待ち望んでいた相手はーーー






    何かを潰すように心臓の辺りを強く握る。心配そうに見つめるラファエロを振り切るようにレオナルドは走り出した。


    「けれど、俺の方は死んでくれない。」


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