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    nekotakkru

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    普→墺←洪

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    隣の芝は昔はキラキラしたものが苦手だった。


    いつも野山を駆け回って、馬の乗り方や弓の使い方を学び、泥だらけになるのが日常で、それが毎日楽しかった。服が汚れるのも構わなかったし傷を負うのだって、痛かったけど誇りに思っていた。言葉遣いだって勇ましく、いつかは大地を統べることだって夢見ていた。
    ところが、気がつけば体は想像と違う成長を遂げていくし、周りの接してくる態度も変わった。走り回ることは許されず狩りに出るのも野蛮だと言って止められて、あの頃は自由を奪われたと思った。代わりに充てられたのは今まで見たことのないような服。赤や黄色で目がチカチカしたしふんわりとした形は動きにくい。何より恥ずかしくて何度も着るのを抵抗した。それだけじゃなく、嗜みの一つだと言われて宝石を首や耳に飾るのも鬱陶しくて仕方なかった。なんで俺がこんなことをしなくちゃいけないと、食ってかかったこともある。けれどあの人はいつも静かに諭すように述べるだけだった。

    『身だしなみを整えなさい。せっかく綺麗なのに、勿体ないでしょう』

    あの言葉には本当に参った。今までそんなふうに言われたことなんてなかったから。何よりも自分が変わるのが怖かった。いや、本当の自分の姿を認めるのが怖かったんだと思う。それでも、意を決して苦手な服を着てみたらあの人はまた褒めてくれた。また、綺麗だと言ってくれた。嬉しくて嬉しくて、でもどうしていいかわからなくて顔を真っ赤にしたことを覚えてる。口元が緩んでにやけそうになったけど、あの人が見ていると思って何とか微笑んで見えるように取り繕ったっけ。
    あの時から私の中の意識が変わった。女性らしく振舞うことに抵抗がなくなった。褒められる喜びを知った。自分には合わないと、敬遠していたキラキラしたものが苦手じゃなくなった。言葉遣いや一つ一つの所作も少しずつ丁寧なものにしていった。それもこれも全部、あの人にまた褒めて欲しくて。あの人の隣にいても釣り合いが取れるようになりたくて。






    クローゼットを開いて今日も服を選ぶ。派手なのは苦手だし、あの人も好みじゃない。かといって地味になりすぎるのもよくないので、未だに洋服を選ぶ時は頭を抱えてしまう。けれど昔に比べれば楽しい時間になった。金や銀の装飾品はあまり似合わなくて、代わりに自分で選んだ花の髪飾りをつけてみた。それをあの人は私のようだと言ってくれて、それがなんだか認められた気がして今では欠かさずに身につけている。
    キッチンに向かって、今朝作ったラーチョシュ・リンツェルを包んでバスケットの中へ入れる。いつの間にかお菓子作りに手馴れたのも、あの人のおかげだ。同居時代、趣味の一つとしてお菓子作りをしていたあの人によく教えてもらっていた。芸術と呼ぶに相応しいほど完成されたお菓子に驚いたけど、その後の片付けの不慣れな姿にはさらに驚いた。代わりに私が片付けてあげたら申し訳なさそうにして、その姿が可愛いと思ってしまった。それ以来、彼の身の回りの世話は私の仕事に決めた。そうすればいつでもあの人の傍にいれると思ったから。残念ながら、長くは続かなかったけれど、それでもいまだに交流は続いているのだから贅沢は言えない。

    そう、言ってはいけない。



    (なのに、なんであいつは…)


    ふと頭をよぎる銀髪。続いて高笑いと卑しい笑顔。高圧的な姿勢と傲慢な物言い、何よりもあの人を見下した態度が神経を逆なでする。想像しただけでこの有様なんだから、顔を見たら思わず手が出るのも仕方ない。そんな奴が、あの人の傍に当たり前のように立っていることが許せない。だってそこは、私の憧れの場所なのに。軽口をたたきあい、軽率に顔や体に触れるなんて私には出来ない。けれどあいつは簡単にやってみせる、それを何度羨ましいと思ったことか。昔のように振舞っていれば私も同じことが出来ただろうか、いや、男らしいではなくきちんと男として生まれていたのなら、誰よりもあの人に近い存在になれたんだろうか、そう考えてしまうのが悔しい。

    バスケットを握っていた手に力を込めたところで我に返る。時計に目をやればそろそろ家を出なくちゃいけない時間だった。持っていくものを確認して、もう一度姿見で身だしなみを整えて、自分の姿を確認する。紛れもなく女性の格好をした私、あの人が認めてくれた私の、本来の姿がそこにあった。

    (大丈夫、自信を持つんだ)

    口角を上げ、微笑んでみせる。さっきの気持ちを振り払うようにして、私は玄関へと向かった。









    ──────────────────────────

    昔はキラキラしたものが嫌いだった。


    生まれた時から剣を習い、騎士団としての誇りを胸に己の手を血で染めていた。あちこちを蹂躙するのは嫌いじゃなかったし、力を誇示できるのは気分が良かったけど、戦いのため汚れたその姿に比べ、上でふんぞり返ってるやつはいつも小奇麗にしてキラキラしていたのが気に食わなかった。口では俺たちを讃えていても、その目は汚いものでも見るように軽蔑していたのを覚えている。まるで自分を否定された気分だった。

    ある日出会ったあいつは、俺の嫌いなキラキラした服を着ていたのに、汚れるのも構わず擦り傷だらけで木の下で小さく膝を抱えていた。本来なら無視するんだけどなんだか情けない顔してたから、からかってやろうと思って近付いてみると、そいつは俺を見下すどころか目を輝かせてきた。

    『あなた、強いのでしょう?私に戦い方を教えてくれませんか?』

    そんなことを言われたのは初めてで、でも頼られるのは悪い気分じゃなかったから取り敢えず基本を教えてやった。基本すら怪しい動きだったけど、必死なのはよく分かった。別に戦う必要は無いんじゃないかと聞けば、意外にもあいつは戦うために生まれたと言って驚いたっけ。結局教えられたのはその一回だけで、あとはあいつなりの戦法で上にのし上がっていったけれど。別れ際に言われたありがとう、という言葉を今でも忘れられないあたり、認めたくはないけど俺もよほど嬉しかったらしい。それこそ、キラキラしてる奴の中にもいい奴はいるんだと思い直したぐらいに。

    考え直して暫くすると、今度はキラキラしたものが欲しくなった。力だけじゃとどまらず、全てのものを手に入れたくなった。それを時の王に伝えれば、彼は至って穏やかな笑みで承諾し、一つの国を指し示した。その名前を見たとたんに心臓がどくりと跳ねたのを覚えている。かつて俺が戦い方を教えた国、今やすっかり栄光を掴んだあいつだった。
    戦場で久しぶりに会ったあいつは、相変わらず不慣れな戦い方をしていたけれど、以前よりも凛としていてよりキラキラして見えた。対照的に戦い方しか知らない俺は、血や泥で汚れている気がしてますますあの輝きが欲しくなった。


    (それを邪魔しやがって…!)


    あともう少しで手が届きそうなとき、割って入ったのは身なりを変えたあの女だった。昔は野山を駆け回り、同じ性別だと思っていたあの女が、姿見は女性に変わっていたものの当時の勇ましさをみせながら俺の念願をぶち壊してくれた。旧知の仲だからあの女があいつに過去どんなことをしたのかも知っている。それなのに、あの女は昔のことなんてなかったようにあいつに忠誠を誓い、あいつもそれを認めていた。驚きと戸惑い、何よりも胸を占めたのは別の感情でそれは黒い塊として焼き付いた。月日が経てばいずれ状況が変わり、この黒い塊も消えてなくなると思っていたのに、あの女は決してあいつの傍を離れようとせずに隣に居座り続けた。おかげでいつまで経ってもこの塊は消えてくれない。





    「ケセセ、流石は俺様。今日も小鳥のように格好いい!」

    鏡に映し出された姿に惚れ惚れする。騎士の時代には考えられなかった小奇麗な格好も、今ではずいぶん様になった。今から出向くところにラフな格好では向かえない。主催者であるあいつが顰めっ面のまま受け入れても、着飾ったあの女の前では悪目立ちでしかない。
    本来のあの女の性格を考えれば、ありのままで、男らしくふるまいながら生きていくものだと思っていた。なのにあの女は昔の自分を捨ててまであいつの傍にいることを選んだ。おそらくは、着慣れない服や煌びやかな装飾品を纏うことに抵抗があっただろう。それでも自分を変えてまで、あいつと共に穏やかな時を過ごし、支えてやる権利を得た。もし、俺もあの女と同じ立場だったら自分を変えることが出来るだろうか。認めたくない部分を受け入れることが出来るだろうか。
    その覚悟と意志の強さを見せつけられているようで、今もあの女の姿は嫌いだ。あいつの傍に立つ姿が似合うことも気に入らない。だったら徹底的に邪魔してやる。あの女が変わることを選んだのなら、俺は変わらずに俺のやり方であいつの傍に立ってみせる。

    (そろそろ行くか)

    時計を確認して扉へと向かう。弟の目を盗んで得た情報によると、予定よりも遅い時間だがそれこそが狙い目だ。奇襲は得意分野だし、注目を集めるのにも丁度いい。まるで戦場へ向かう高揚感に、自然と口角が上がった。









    ──────────────────────────

    穏やかな午後。暖かい日差しの下では普段から手入れをしている花々が控えめに揺れている。吹く風は心地好くて気を抜けば眠りに誘われそうだが、ふわりと鼻腔を擽る甘いお菓子の匂いと芳ばしいコーヒーの香りがそれを防いでくれる。


    ─────のではなく。


    「なんであんたがここにいるのよ!呼ばれてないでしょう!」
    「うるせー!どうせボケボケの坊っちゃんが招待状を出し忘れたんだろ?だからわざわざ来てやったんだよ!感謝しろ!」

    私を挟んで声を荒らげるエリザベータとギルベルトにより、とても微睡む気にはなれない。気まぐれで催した茶会、それに呼ばれなかったギルベルトの奇襲により穏やかな雰囲気は一蹴された。呼ばなくても自分勝手に参加するだろうという読みは当たったが、ここまで騒がしくなると予想できなかったことが悔やまれる。目の前ではルートヴィッヒや菊がオロオロと二人を止めようとしているが、割って入る隙がないのだろう。気遣って視線を向けてくれる菊の心配りに感謝しながらも、嬉しくないことに私はこの状況に慣れてしまっている。同じように古くから知っているフェリシアーノも、暢気に茶菓子に手を伸ばしながら微笑ましそうにこの光景を見ていた。

    思えばいつからこの喧騒に慣れてしまったのだろう。この二人との付き合いは随分と長く、当時の殺伐とした関係を思えば、こんなにも穏やかに過ごせるなんて微塵も考えたことがなかった。騒がしくはあるものの血を見ることはなくなって、同じ席に着くほどに親しくなっている。昔の私が今この風景を見れば目を丸くして驚くだろう。
    それほどまでに、私にとってこの二人は遠い存在だった。強国に囲まれながら引けを取らぬ強さを持つ彼女と、戦う存在として使命を果たしている彼。自分にないものを有する二人の姿は眩しく、その背中に追いつこうと必死だった。大国として名を馳せた時はようやく追いついたと思ったのも束の間、結局は力を持った彼に攻め込まれ既のところを彼女に助けてもらうというなんとも情けない結果で終わった。そして今もそれは変わらず、彼は私に悪戯を繰り返すし彼女には生活の手助けをしてもらっている。今でこそ中立として対等に肩を並べているが、幼い頃から抱いている劣等感はなかなか拭えない。





    (ああ、いまだにこんな感情を持つなんて情けない)

    気持ちを誤魔化すようにコーヒーを一口すすれば現実に引き戻される。両端の争いはいまだに続いていたらしい。仲裁を諦めたのか、ルートヴィッヒや菊もフェリシアーノに倣ってケーキを摘んでいた。こちら側とは違い和やかな雰囲気に思わず頬が緩む。おそらく、彼らの中には優劣の差を感じることなんてないのだろう。それが少々羨ましく思う。いつか私もその差を感じることがなくなれば、などと考えて自嘲してしまう。
    争いを続ける二人の顔をちらりと見やれば、しっかりと目が合って今度は私に己の正当性を主張してくる。本来の緩やかな茶会に戻すべく、私は静止の声をあげた。
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